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同調率99%の少女(13) - 鎮守府Aの物語

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 食べ終わった神通は、着任式のあの日から川内に対して思っていたことをおそるおそる聞いてみた。
「あの……川内さん。聞いてもよろしいですか?」
「ん?なぁに改まって?」

 深く深呼吸をする。そして神通は口を開いた。
「川内さんは、同性と接するのは苦手とおっしゃってましたけど、なみえさんや私は……いいとして、村雨さんたちは大丈夫なんですか?」

 神通からの素朴な疑問だった。川内はん〜〜と虚空を見つめて考えたのち、答える。
「あたし、同性と話すのそんなに苦手でトラウマってわけじゃないよ。あたしは、典型的な女子同士のいじめをするような性根の腐った馬鹿女が嫌いってだけ。まぁそれ以外でも話合わなきゃガッツリ苦手だと思うけど。あたし、思ったことわりとすぐ口に出しちゃうタイプだから、苦手な人は苦手だって馬鹿正直に言っちゃうと思う。」
「では五月雨さんたちは……?」神通はそっと尋ねた。

「ん〜〜。とはいえ五月雨さんたちくらいの年下なら、平気っぽい。でもなみえさんや神通以外の人とは、ちょっとだけ我慢してるってか踏ん張ってるっていうか、ともかくなんか違うっていう感情は持ってるかなぁ。」
 なるほどと神通は相槌を打った。川内の苦手だというタイプを述べる時の彼女の表情はやや険しく、そのときのセリフには、熱がこもっていた。

「あたし頭悪いし人の感情とか察するの得意じゃないからさ。変に考え過ぎたりあとでクヨクヨするの面倒だから、あまり物事深く考え過ぎないようにしてるの。あたしにつっかかってくる奴らは大抵あたしのことひがんでる性根の腐ったやつらだったし、そういう奴らは無視が一番。あたしはそうやって今まで自分の身を守ってきたんだもん。あとは艦娘の世界にそういう人がいないことを祈るだけ。まぁでも同じようなことが今後もあれば、あたしは艦娘の世界であっても同じ対処するかなぁ。だって気にしても自分だけ傷つくんだよ?損じゃん。」

 川内の語る思いはある意味で順当な対策で、視点を変えてみると逃げだと神通は思った。だが臭いものに蓋し、根本的な解決をしなくても人は生きていける、見ないということは逃げではなく生きるための選択肢でもあるのかと、神通は目の前にいる、明るく竹を割ったような振る舞いをする中性的な美少女、自分の同期である川内こと内田流留を見てそう感じた。

 以前川内は、自分は嫌なことがあって(艦娘の世界へと)逃げてきたと言っていたことを神通は思い出した。本人的には逃げてきたという捉え方なのだろうが、それでも神通にとっては覚悟を決めて逃げるという選択肢を取った、勇猛果敢な人物だと感じた。逃げただけあって、きっとあの学校では彼女にとっては何も変わらないのだろうが、それを無視し耐えるに見合うだけの生きる価値を、彼女は艦娘の世界に見出したのだろう。自分を変える一手。

 神通は、自身のことに目と耳と心を向けた。

 あらゆる目立つことから逃げてきた。逃げたというよりもあえて見ずに平々凡々と生きてきた。
 川内のような起伏の激しい生き方をしてきたわけではない。今こうして艦娘の世界に足を踏み入れてはいるが、流留のような覚悟と選択肢を選んだわけではない。ただなんとなく自分を変えたいと願っただけの目的意識に薄いかもしれない自分なのが、神通を名乗っている自分なのだ。生徒会長光主那美恵のような万能な完璧超人なぞ程遠い。彼女があまり大した理由を持たずに艦娘の世界に飛び込んだと言っていたのを思い出したが、きっとそれは嘘。きっとすごい目的を持っているに違いない。
 勉強はそれなりに得意だけれども、それ以外、運動などは得意ではない、人に自信を持って言えるだけの趣味もない、平凡な生き方をしてきた自分。情けなく思えてくる。

 自身と全く違う那美恵と流留という人が側にいるため、神通は自分を情けなく感じ更に自信をなくし始めていた。何か劇的な出来事を経験したい。神通が唯一願うのはそれだけであった。

「お〜い?神通? さっちゃんや〜?どうしたのボーっとして。」
「……えっ!? あ……。」
「あたしの話、重かった?悩ませるつもりはなかったんだけどなぁ。」
 後頭部をポリポリかきながら謝る川内。事実、川内には本当にそんなつもりなく、ただ口にしただけである。
「え……と。わた、私は……」
 神通は自分も何か語らなければ、同期の話を聞いたのだから自分も何か語らなければずるいと思い、言おうかどうか葛藤する。
 それを川内が遮った。

「あぁ、言わなくていいよ。別に聞きたくないわけじゃないけどさ、さすがのあたしでも神通が言いづらそうってくらいはわかるのよ。たかだか数日接しただけのあんたが何を知ってんだって思われるかもしれないけどさ、無理して言わなくていいってことね。心の底から自分から話したくなった・話せるようになった時に打ち明けてくれればいいや。あたし頭悪いからなんのアドバイスもできないと思うけど、黙って聞くくらいはしてあげるから。ね?」

 那珂こと那美恵と違うタイプで心優しい目の前の少女。神通は、今はその突き放したような彼女のぶっきらぼうで男っぽい優しさに救われた思いがした。黙って聞いてくれる、側にいてくれる。唯一の友人だった和子とはまた違うタイプだが、ある面では似てる川内こと内田流留。先のような苦い出来事を経験してこの場にいる川内ならば、心許せるにふさわしい。それに同学年という点も外せない好条件だ。
 自分にないものを持っていて、自分の側に静かにいてくれる。
 少し気恥ずかしさもあるが、幸いにも顔は長い前髪で隠れている。神通は実際の顔は照れを浮かべながら、言葉は静かに感謝を返した。

「うん。ありがとう……川内さん。」
「いいっていいって。」