62 ミハイロフ邸にて
「オークネフ、おばあさま…おばあさまは?」
涙で顔をくちゃくちゃにしたユリウスがヴァシリーサの居室から出て来たオークネフと医師に縋りついた。
「…大丈夫でございます。元々少し血圧が高めなのです。安静にしていればじきにお元気になりますよ」
医師が泣いて縋りつくユリウスに優しく説明してやる。
「本当に?」
「はい…。大奥様も…もう御歳ですからね。…それよりも、そんなに興奮してお泣きになられては…ユリウス様のお体に触ります。大奥様は大丈夫ですから、さあ、あなた様も少しお休みになりましょう」
オークネフがユリウスを自室へ戻るよう促した。
結局―
その日の夕食に、ヴァシリーサは食堂へ現れなかった。
作品名:62 ミハイロフ邸にて 作家名:orangelatte