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BRING BACK LATER 1

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「ひっ! わ、わ、わかりました!」
 士郎は了承、いや、敗北した。

「で? どう説明するんだよ?」
 真面目に相談することにした士郎は、凛に水を向ける。
「名前が同じっていうのは、ありえることだからいいとして、問題は容姿よねー。これじゃ、何を言われるかわからないわね。ドッペルゲンガーとか言って流してくれそうにはないし……」
「色だけならどうにかなるが?」
 今まで興味もなさげだったアーチャーがおもむろに口を開く。
「色? どういうこと?」
 凛が訊き返すと、説明するより見せた方が早い、と傍らのシロウを引き寄せ、赤銅色の髪に口づけた。
「ちょっ!」
 凛は口から出そうになった言葉を飲んで額を押さえ、
「げっ!」
 士郎はげんなりとし、
「はわっ!」
 セイバーは驚いた後、悔しげに歯軋りする。
 三者三様の反応など無視し、アーチャーはシロウの髪に口づけたまま、赤銅色の髪を両手で撫で梳く。
「え……」
 アーチャーの手が撫でていく髪が次第に色を変えていき、赤銅色の髪は真っ黒な烏の濡れ羽色に変色した。
「あら、ずいぶん、雰囲気が変わるわね」
 凛は前のダメージからはすぐに立ち直り、率直な感想を述べる。
 士郎とセイバーは、いまだダメージが回復していないようだ。
「目の方はカラーコンタクトでも入れればいいかしら?」
「カラーコンタクト? そんなものも必要ない」
 淡々と凛とアーチャーは話を進めていく。
「じゃあ、どうす……」
 凛の疑問すらみなまで言わせず、アーチャーはシロウの瞼に口づけ、その瞼が上がると、琥珀色の瞳は漆黒に変化していた。
「はい。じゃー、それでいきましょー」
 凛は無感動な棒読みで決定し、士郎とセイバーはさらにダメージをくらい、ノックアウト寸前だ。
「それじゃあ、あとは……、設定よね。留学生のホームステイにでもする?」
「私が学生に見えるのか?」
「見えないわねー……」
 半眼で自身の従者を眺める凛に、
「仕事で、ということにしておこう」
「だけど、平日に家にいるのが怪しいじゃない」
「在宅勤務にすればいい」
「それだったら、なんでここに居るのよ、って話でしょ?」
「旅行がてら」
「ただの旅行者に格下げなの?」
「いや、旅をしながら、仕事もしている、と……」
「なんだか説得力ないわねー」
「って、在宅でも不法就労でも、なんでもいい! そんな細かい設定、誰が訊くんだよ! 相手は藤ねえと桜だぞ! 親父の古い知り合いで、たまたま日本に来たから会いに来たら、親父は亡くなってました、くらいでいいだろ!」
「ぞんざいな……」
「衛宮くん、そんな怪しい人間、家に入れちゃダメよ」
 凛とアーチャーに冷たい目で見られ、士郎はがっくり肩を落とす。
「じゃあ、人には言えない仕事で隠密ってことにする?」
「虎が好きそうだな」
 士郎の意見は完全に無視で、赤い主従は深刻な顔で相談を続けている。
「もーやだ、あいつら……」
 ちらりと、シロウを見遣れば、黒くなった髪を指で抓んで眺めている。
「我関せず、かよ……」
 お前にも関係のあることなんだぞ、という小言を士郎は無理やり飲み込んだ。



***

「えっと、藤ねえ、桜、紹介しといた方がいいと思って、えーっと……」
 すでに台所で夕食を作っていた二体のサーヴァントを指して、士郎は言葉に詰まる。
「お、親父の、知り合いっ、で、た、たまたま日本で、仕事をしてるらしくて……」
「外国の方?」
 藤村大河が首を傾けつつ食卓につく。すでに夕食の匂いに触角が反応しているようだ。
「あ、ああ、うん、しばらく家を使ってもらうことになって、ほら、うちは部屋数だけは無駄に多いだろ? 余ってるならいいかって。それに、料理も得意らしくて、今日は、作ってくれた」
「ふーん」
 大河は思ったよりも反応が薄く、あまり緊張することもなかったのか、と士郎はほっと息を吐いた。
 だが、夕食後、士郎の予想に反し、大河の質問攻撃が始まった。
 まず、衛宮切嗣をどの程度知っているか、から始まり、なぜここに来たのか、なぜここに居候することに決めたのか、など次々と投げかける。
 それに澱みなく答えるアーチャーに軽く士郎が舌を巻いていたころ、
「それで、アーチャーさん。ズバリ、女性関係は大丈夫なんでしょうね? 一応、この家は未成年が住んでいるので、おかしなことに巻き込まれたりしては私も黙っていられませんから」
 鼻息荒く大河はアーチャーに詰め寄る勢いだ。
「ああ、それならば、問題ありませんよ、藤村先生。私にはすでに伴侶となる者がいますので」
 士郎とセイバーと凛は、互いの視線を交わらせた。そこまでの設定は想定していなかったのだ。まさか、大河がその手の話を振ってくるとは誰も予想していなかった。咄嗟にアーチャーが機転を利かせたようだが、その伴侶の名前や細かいことを訊かれればどうするのだ、とそれぞれに考え、悩む。
 三名の心配を余所に、渦中のアーチャーの腕がおもむろに、隣に座っていたシロウの肩を抱く。
「我々は、夫夫(ふうふ)なので」
 ぴしり、と居間の空気が固まった。
 にっこりと爽やかな笑顔を浮かべたアーチャーの言葉に、セイバーは食後のデザートであったどら焼きを喉に詰め、凛は飲もうとしていたお茶に溺れ、士郎は飲みかけたお茶をだばー、と……、大河と桜は瞬きを忘れたまま、しばらく静止している。
「あ、あああ、あの、あ、アーチャーさん?」
 静止状態から復活した大河が、引き攣る頬もそのままに口を開く。
「なんでしょうか? 藤村先生?」
 どうにか動きを取り戻した大河が震える声で尋ねる。
「その方は、男性に、見えますが?」
「はい」
「アーチャーさん! ふうふ、というものは、普通、夫婦、つまり、男女というのが決まりのようなものでっ」
「ええ、そうですね。日本では珍しいだろうとは思いますが、私の住むところでは、まあ、それなりに。ハッハッハッ!」
 爽やかに笑い飛ばし、きっぱりと告げるアーチャーに、それはどこの国だ、と士郎は心でつっこみ、凛は、なんなのそのキャラ、と思念でつっこむ。
『今こいつとは繋がっているだろう。物理的に離れることができないなら、いっそ、そういう設定にした方がやりやすい』
『だからって……』
 思念で凛と会話しながら、アーチャーは、にこやかな笑顔を大河に向けたままだ。
『まあ、慣れろ。マスター』
『この……、厚顔サーヴァント!』
『なんとでも』
 涼しい顔で凛の苦言を受け流す。
「だ、だからと言ってですね、えーっとぉ……」
 混乱する大河に、アーチャーはやや目を伏せる。
「藤村先生。伴侶、というのは、ともに歩んでいく者でしょう? 私にはそれが男であれ女であれ関係ない。ただその存在が在ればいい。そういうものなんです」
「あ……、ご、ごめんなさいね、お、驚いちゃって、」
「無理もありません」
 微笑むアーチャーは、大河を責めるわけでもない。逆に大河は、そういう人が存在するということをわかっていながら、自身の常識を押し付けてしまったことに恥じ入ってしまう。
作品名:BRING BACK LATER 1 作家名:さやけ