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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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花、一輪

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 帰宅後ルヴァは運んできた荷物をとりあえず部屋の片隅に置き、何かをテラスのほうへと持って行った。それからすぐに戻ってきて手を洗いお茶の準備を始め出す。アンジェリークも早速レモンケーキを切り分けている。
 ティーポットに茶葉とお湯が入ったところでルヴァはティーコゼーをすっぽりと被せ、カップとソーサー、ケーキをトレイに纏めてアンジェリークを促す。
「ルヴァ、どこ行くの?」
 アンジェリークの速度に合わせてゆっくりと廊下を歩きながら、ルヴァは横目で彼女を視界に捉えて微笑む。
「お天気も良くなってきましたし、お庭を見ながらゆっくりしませんか?」
 昨日と同じようにロッキングチェアーにアンジェリークを座らせると、彼女の横にすとんと腰を下ろし毛足の長いラグの上で胡坐をかいた。ちなみにこの家は土足禁止ではなかったが、アンジェリークは屋内に入るとスリッパに履き替えていた。ルヴァは昨日それに気づかずに土足だったことを謝ったところ、靴の窮屈さが辛くなっただけだから自由にしていいと言われたため、今日は自分用のスリッパを買ってきたのだった。
 突っ込まれると恥ずかしいので決して言わないが、彼女のものとよく似た色違いである。
 昨日と違うのは新たにミニテーブルが置かれていて、それは床に座り込んだルヴァとチェアーに座るアンジェリークのちょうど中間くらいの高さのものだ。
 ルヴァはそのテーブルにポットやカップを並べ、いい頃合いの紅茶を注ぎ入れた。ダージリンの香りがふんわりと立ち上るカップをアンジェリークに手渡して、本人は宣言通りレモンケーキを食べ始める。
「んー、やっぱり一番美味しいです」
 フォークは必要なかったのではと思うほど大きめの塊をぱくりと頬張り、幸せそうな表情をしたルヴァがどこか幼い少年のようで、アンジェリークは思わず相好を崩した。
「そんなに急がなくても大丈夫だってば。おかわり持ってきましょうか?」
 あっという間に一切れを食べ終えると、照れ臭そうに頬を掻いてからティーカップに手を伸ばす。
「ああ、後で私が取りに行きますからお構いなく。うーん、ちょっとお行儀が悪かったですかねえ……それほど急いで食べていたつもりはなかったんですけどね。美味しくって、つい」
 アンジェリークの翠の瞳が弧を描き、咲き零れるような笑みでルヴァの唇の端を拭う。少し冷たい指先が唇を掠めた刹那、本来は優しげなはずのそんな仕草がとても色っぽく思えてしまったルヴァは慌てて目を逸らした。
「あ、す、すみません……ついてましたか」
 頬の火照りを誤魔化しきれずに狼狽えるルヴァを、アンジェリークは肘掛けにゆったりと頬杖をつき見つめていた。
「ふふ、可愛い〜」
 いい年をした男に向かって「可愛い」はないだろう、と思ったルヴァが渋面を作った。
「アンジェ……それは褒め言葉としては不適切ですよ」
「あら、嬉しくないの?」
 今度は悪戯っぽく細められた瞳。愉快そうなその顔にルヴァは少し意地悪をしたくなる。
「けなされるよりはマシですが、男としては特に嬉しくはないですね。あんまりそうやって子ども扱いしていると……」
「していると?」
 座った姿勢からぐっと伸び上がり、いまだきょとんとした顔のアンジェリークに口づけた。
「……またお口を塞いじゃいますよ」
 唇が離れたのもつかの間、下から噛みつくような口づけが続いて、アンジェリークの息が乱れた。
「良いお友達で、って言ったでしょ……」
「あなたがそう言っただけであって、私は了承した覚えはありません」
 ルヴァがもう一度口づけしようとしたとき、アンジェリークがルヴァの唇に指先を宛がい小さく首を振った。
 「もうダメよ」と子供の悪戯をたしなめるような動きにルヴァはほんの少しだけ不服そうに眉根を寄せて、チェアーに腰かけたままの彼女の膝に右のこめかみと頬を乗せた。
 冷めやらぬ熱を湛えて見上げてくるルヴァの瞳を穏やかに見つめ返しながら、アンジェリークは微かに笑った。
 捉えどころのない酷く曖昧なその笑みは、ルヴァの胸の内に不安という黒い染みをぽとりと落として、瞬く間に拡散していく。
「ねえ、ルヴァ……わたしが女王候補だったときのあなたって先生みたいな態度を崩さなかったし、女王になってからも守護聖としてのふるまいに徹してたわよね」
「……ええ……」
 軽率な行動の結果、これから彼女に言われるであろう言葉がなんとなく予想通りになるような予感がして、聞きたくない、と耳を塞ぎたくなる。
 つい浮かれて先走ってしまったせいで、どうにか細く繋いだ絆を自分から切り離してしまった。
作品名:花、一輪 作家名:しょうきち