二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ひばにょ!

INDEX|3ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

 しかし、綱吉が雲雀を見るとふいと逸らされる。いつも真っ直ぐ人を見つめてくる雲雀にしては珍しい。やはりいつもとは少し様子が違うようだ。まじまじと見たわけではないからわからないが、確かに少し痩せたようだとも思う。
「あ、あの、今日はここでご飯食べさせてもらっていい、ですか?」
 何しに来たの、とも訊かない雲雀に綱吉は恐る恐るそう口にする。
 途端、雲雀の目が驚いたように見開かれたのを見て、綱吉はその場で回れ右をしたくなった。
 しかし、なんの謝罪もなしに雲雀に背を向けるのは危険である。
「やっぱだめですよね! だと思ってました! すみませんでしたぁっ!」
 そう口にして、ぺこりと頭を下げ、それからようやく踵を返す。しかし、その手がドアにかかったとき、「待ちなよ」と雲雀の声が綱吉を引き止めた。
「……だめだなんて言ってないでしょ」
「…………」
 それはつまり、食べていけということですか? と問い返すことはせず、綱吉はゆっくりと振り返る。
 雲雀の目はなぜか窓のほうへと向けられていたが、空耳ではなかった……はずだ。
 綱吉はごくりと生唾を飲み、ギクシャクとテーブルに近づくと、雲雀の向かいにそっと掛けた。
 そして、弁当の包みを解くと、箸箱から箸を取り出す。
「い、いただきます」
 そっと手を合わせて、震える手で弁当を持ち上げた。
 た、食べた気がしねーっ!
 よく、砂を噛むような食事、などという表現があるが、まるで綿でも噛んでいるようだと思う。いつまで経っても飲み込める気がしない。
 それでもなんとか食事を続けていると、突然雲雀が言った。
「それ」
「ぐっ!」
 驚きのあまり、弾みで口の中のものを嚥下しつつ、綱吉は恐る恐る雲雀を見る。
「な、なんですか?」
「誰が作ったの?」
 雲雀の視線は綱吉の手元にあった。どうやら、弁当のことらしい。
「…………は、母です、けど」
「ふぅん」
 その日は、雲雀はそれ以上何も言わず、綱吉がいる間弁当らしき風呂敷包みに手をつけることも一切なかった。食事が進まないようだという、草壁の弁に嘘はなかったらしい。
 綱吉はその反応に、やっぱりね、と思いつつ少しだけ雲雀のことが心配になった。
 そして、翌日。
 綱吉は昼休みになると一人で応接室に行き、前日と同じように弁当に手をつける気配のない雲雀と差し向かいで食事をした。
 変わったことといえば、前日の質問を綱吉が雲雀にしたという程度である。
「そういえば、雲雀さんの弁当すごそうですよね。誰が作ってるんですか?」
 という、綱吉の問いに、雲雀は「知らない」と言った。
「え?」
「勝手に届けてくるだけだから」
「え、えっと、つまり……出前?」
 勝手にということは、注文しているのは雲雀自身ではないのだろうが……。おそらく草壁あたりだろうか、と思う。
「みたいなもの」
 雲雀の答えに、はぁともへぇとも聞こえるような曖昧な相槌を打ち、綱吉はそのまま食事を続ける。
 結局、雲雀が包みを解くことはその日もなく、綱吉はいよいよ心配になったが、それを口にすることはできなかった。

 三日目は、以前風紀委員がお茶を淹れてくれていたことを思い出して、お茶を淹れてみることにした。
 すると雲雀は、相変わらず弁当には手も触れなかったが、お茶は飲んでくれたのである。勝手なことをするなと言われるかと思っていた綱吉は、ほっと胸をなでおろした。

 そして、四日目。
「ひ、雲雀さんのお弁当って、すごそうですよね。あ、開けてみてもいいですか?」
 自分の弁当を半分食べたところで、綱吉は思い切ってそう口にした。
 この三日間、雲雀は一度として昼食を摂っておらず、いよいよ心配になってきていたのだ。
 雲雀は綱吉と弁当らしき包みを見比べると、小さく頷く。
「勝手にすれば」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……っ」
 綱吉は手触りのいい臙脂の風呂敷の結び目を、そっと解いた。中からは高価そうな蒔絵の重箱が出てくる。その蓋を綱吉は思い切って、開けた。
「うわ、すごい……!」
 伊勢海老やローストビーフといった綱吉でもなんとかわかるものから、甘鯛の竜田揚げや蟹入りの餡がかかった蕪の炊き上げといったものなどが、全て品よく、彩りよく詰められている。
「こんなに美味しそうなのに……」
 どうして食べないんですか? とは口にできず、口ごもった綱吉に雲雀が珍しく、ふっと小さく笑った。けれど。
「気に入ったなら食べていいよ」
「そんな、だめですよ!」
 雲雀の言葉に思わずそう口にしてしまってから、綱吉ははっとする。
 雲雀は、と見れば驚いたように、わずかに目を瞠っていた。
 これは、もう間違いなく殴られる……。
 しかし、目の前が暗くなるのと同時に、ならばと覚悟を決めた綱吉は、もう一度口を開いた。
「ちゃ、ちゃんと、雲雀さんが食べてください。この三日、全然食べてないじゃないですか。って、いや、オレがいないとこでは食べてるのかもしれないけど」
 言いながら、それはないのではないだろうかと、ちらりと思う。三日前は確信がもてなかったが、雲雀は確実に痩せていた。
「……オレ、心配なんです」
「心配?」
 雲雀の眉がつり上がるのを見て、綱吉はいよいよトンファーが出るだろうと身を縮める。
 けれど、意外にも雲雀はトンファーを手にすることはなく、ただ不思議そうに首をかしげた。
「君が僕を心配するの? どうして?」
「そ、そりゃ、だって雲雀さんが全然ご飯食べないから……」
「僕が訊いてるのは、そういう意味じゃないんだけど――――」
 そこまで口にして、雲雀は何かに気付いたように、はっと息を呑む。それから非常に珍しいことに、ふうとため息をこぼした。
「……まぁいいや」
「雲雀さん……?」
 雲雀の動向を怯えつつ窺っていた綱吉は、雲雀の声から険が抜けたことに気付いてぱちりと瞬く。
「――――箸は?」
「え? あ、は、はい」
 綱吉は雲雀の言葉にあわてて、弁当に添えられていた箸を取り、手渡した。
「いただきます」
 手を合わせる雲雀を見つめながら、綱吉はようやく雲雀が食事をする気になったことに気付き安堵のため息をこぼす。
 なんだか、野生の動物の餌付けに成功したような、不思議な感慨があった。
 そして、それ以後しばらく綱吉は昼を雲雀とともに摂るようになり、食事を始めるまでの全ての用意をするのが当たり前のようになってしまったのである。



 雲雀の食欲の落ちた理由が、自分にあったらしいと綱吉が知ったのは、それから二週間ほど経った頃であり、今から二ヶ月前になる。
 ――――つまり、件の『これは僕のものだよ』という発言のあった、その日のことだった。
 カツアゲの現場からここまで連れて来られて、このソファに押し倒されたことは、きっと一生忘れられないだろう。
 雲雀は、綱吉に食事を勧められ、その行為の端緒を知りたいと思った瞬間に、自身の気持ちに気付いたらしい。
 曰く、『別に食べたいものがあったんだから当然だよね』
「――――まだ終わらないの?」
 できるだけ、ゆっくりゆっくりと箸を進めていた綱吉は、その言葉に「まだです」とはっきり頷いた。
「さっさとしなよ」
作品名:ひばにょ! 作家名:|ω・)