Lovin' you after CCA4
「カイルの時は、直前までカラバで戦っていたし、シャアとの事もあって、肉体的にも精神的にも参ってたからか、予定日よりも一ヶ月以上早く生まれてな。アムロの身体に相当負担が掛かったらしくて、母子ともに危険な状態だったそうだ。」
ジュドーが眉間に皺を寄せる。
「それからライラの時は逆子だった為、帝王切開だったんだ。当然麻酔をしなきゃならんのだが、過去の人体実験の影響でアナフィラキシーショックを起こして、この時もアムロは生死の境を彷徨ったそうだ。」
艦橋のクルーから悲痛な声が上がる。
《アムロ!!君を愛しているんだ!君を失いたくない!》
普段なら砂を吐きそうなセリフも、流石に今は笑えない。
《私だって貴方を愛してるよ!その貴方の子供達を堕ろすなんて出来ない!》
「子供…達?」
ブライトの疑問にナナイが答える。
《そうなんです。今回は、双子なのです。当然リスクも倍。アムロ大尉の気持ちも分かりますが、正直母体の事を考えますと…》
ナナイが言葉を濁す。
《君を失ったら私は生きていけない!君だけが私の望む全てだ!》
《分かってる!私だって貴方のいない世界なんて考えられない!でも、どうしても産みたいんだ!》
《ならば分かるだろう?朝目覚めた時、君が隣にいない日常など耐えられない!》
《そんなの私だって!!》
本人達は至極真面目に必死のやり取りなのだが、第三者としてはあまりの甘いセリフの応酬に段々と限界を感じる。
ブライトは大きく深呼吸をすると、マイクのスイッチを入れる。
「アムロ!総帥!!お前らいい加減にしろ!!気持ちは分かるがやりすぎだ!今すぐラー・カイラムの艦橋に来い!命令だ!!」
《《ブライト!?》》
2人の声が重なる。
《え?なんで回線が繋がってるの??え?いつから?まさか今のやり取り聞こえてたの!?》
「ああ、“シャアの馬鹿ーーー!!”辺りかずっと聞こえてたぞ」
《わーーーーーー!》
アムロの悲鳴が響く。
「うるさい!!とっとと来い!この馬鹿者が!」
《は、はいっ!!》
《すまん!ブライト》
モニターに、2機がサーベルを納め、ドックへと移動する様子が映る。
2人がラー・カイラムの艦橋に上がると、腕を組んで仁王立ちしているブライトが待ち構えていた。
「ブライト!!あの、その、ごめん!」
「いいから2人ともこっちに来い!」
2人はブライトの勢いに負け、ブライトの前に立つ。
「そこに座れ!正座だ!!」
「はい!」
「お前達、自分たちの立場が分かっているのか!?大体アムロ!モビルスーツはお前個人の所有物じゃない!軍の物だ!毎回ガンダムで家出しやがって!前の反省はどこに行った!!」
「すみません!!」
アムロがひたすら頭を下げる。
「それから総帥!!アムロがガンダムに乗る前に止めて下さい!この状況、連邦になんて報告するんですか?下手すると連邦に反旗を翻したと思われて折角の和平条約がパァですよ!!」
「すまない。返す言葉もない。」
シャアもブライトに頭を下げる。
ブライトの前で正座をさせられ、説教されている宇宙一の最強パイロットとネオ・ジオンの総帥の姿に、艦橋のクルーは唖然とする。
「すごい光景だな…」
トーレスが呟くのに、ジュドーが「ブッ」と噴き出す。
「艦長スゲー!何だかんだで艦長が一番最強だ!」
爆笑するジュドーをブライトが睨みつける。
「わー!すみません!!」
ジュドーがトーレスの後ろに隠れるのを見て、ブライトが溜め息を漏らす。
「とりあえず、2人でもう一度、ドクターも交えてちゃんと話し合え。」
ブライトがアムロの頭をクシャリと撫ぜる。
「お前だってリスクは分かってるんだろ?総帥が心配するのも当然だ。それに前回の出産の事、総帥に黙ってただろう?何でそうまでして産みたいんだ?」
アムロが俯きながらボソリと呟く。
「だって…、カイルの時もライラの時もシャアには黙って産んだから…今度はちゃんとシャアに、父親になる瞬間を感じて欲しかったんだ…」
「アムロ!」
シャアが顔を上げてアムロを見つめる。
「君の気持ちは嬉しい。それに君の妊娠を知った時は凄く嬉しかった!けれど、君を失うかもしれないと聞いては産んで欲しいとは言えない!」
「シャア…、ごめん。私の我が儘だ。でも、お願い!折角宿った命を喪いたくないんだ。」
「アムロ…」
「それに…私は…今まで数え切れない程の命を奪って来た。もう、二度と命を奪いたく無いんだ。」
アムロがシャアに縋り付きながら訴える。
「アムロ…」
シャアは涙を浮かべて訴えるアムロに、どう答えるべきか迷う。答えを見出せず、ただ、その涙に震える身体を抱き締めた。
《大佐、アムロ大尉。ウォレス医師をお呼びしています。一度ご自宅に戻り、一緒に話し合いましょう。ブライト艦長にもご一緒して頂きたいのですが、よろしいでしょうか?》
「自分もですか?」
思いもしなかった言葉にブライトが首を傾げる。
《はい。また2人が暴走した際にブライト艦長に対応をお願いしたいので…。》
その理由にブライトが「ああ…」と頭を抱える。
「分かりました。これから2人を連れて伺います。」
《お手数をおかけします。よろしくお願いします。》
ナナイはそう言うと通信を終了させた。
「そう言う事だ。2人とも行くぞ。」
ブライトは頭をガシガシ掻きながら2人を連れて艦橋を出て行った。
残されたジュドー達はアムロ達が出て行った扉を言葉無く見つめる。
そして、ジュドーが重い口を開く。
「俺さ、まだ赤ん坊だったカイルを抱いた隊長に会った時、お母さんってこんな感じだったなぁって、凄く暖かい気持ちになったんだ。」
「そうだったな。あの時はカミーユやプルも居たっけ。」
トーレスがジュドーの肩を叩いて、昔を思い出しながら呟く。
プルはあの戦いで命を落としてしまった。生まれながらの強化人間、エルピー・プル。悲しい命だった。
「命って何なんだろうな…。出来れば、新しく隊長の中に芽生えた命も、プルの分まで生きて欲しいな…」
ジュドーのその言葉に、艦橋のクルー達が静かに頷いた。
スウィート・ウォーター内の総帥私邸では、シャアとアムロを囲み、ブライト、ナナイ、医師のアルフレッド・ウォレスが話し合っていた。
「アムロ!お願いだから考え直してくれないか?」
「だから!!私はどうしても産みたいんだ!」
「無理をしなくとも我々にはカイルもライラもいるではないか!」
「それとこれとは話が別だろう?」
「君の気持ちは分かる。けれど君を失うなど耐えられないんだ!」
「シャア!いい加減にしろ!私が死ぬとは限らないだろ!!」
「だがリスクは大きい!」
2人の言い合いは、かれこれ30分ほど続いている。
埒のあかない言い合いに、ブライトの眉間にシワがよる。
「お前たち…!いい加減にしないか!そんなことじゃ話が全く進まん!」
ブライトの怒りが頂点に達し、テーブルをドンっと叩く。
その勢いに2人は背筋を伸ばす。
「ご…ごめん…」
「すまん」
2人は揃ってブライトに謝ると、はぁっと溜め息を吐き、みんなに向き合う。
「ドクター、アムロのリスクはどれ位なのだ?」
シャアの問いに、アルはカルテを見ながら少し考え、小さく息をついて答える。
作品名:Lovin' you after CCA4 作家名:koyuho