Lovin' you after CCA4
「アムロは1年半くらい前に再開された人体実験で、また大量の薬物を投与されてしまっています。それにより、麻酔に対する耐性リスクが跳ね上がってしまいました。」
アムロがビクリと肩を震わせ、唇を噛み締める。シャアはそのアムロの肩をギュッと抱くと、アルに続きを話すよう促す。
アルは小さく溜め息を吐き、話を続ける。
「帝王切開になった場合、麻酔の副反応でアナフィラキシーショックを起こす可能性があります。また、普通分娩だったとしても、双子の出産は時間が掛かります。実験の後遺症でアムロの心臓は少し弱っていますので、それに耐えられるかどうか…。」
アムロはシャアの起こした第2次ネオ・ジオン紛争に対峙する為、連邦軍に復帰した。
しかし、過去にシャイアン基地を脱走した経緯を持つアムロが軍に復帰するのは容易では無く。取り計らってもらう代わりに、人体実験の被験体になる事を了承した。
その為、紛争前の数ヶ月間、何度も実験を受け、多量の薬物を投与されてしまったのだ。
「ごめん…、シャア。私が考えなしだったから…」
シャアは首を横に振ると、膝の上で握り締めたアムロの手を握る。
「全ては私の所為だ。君はあの時、命を捨てるつもりでいただろう?だから、自分の身を顧みずに連邦に従ったんだな。」
アムロは刺し違えてでもシャアを止めようと思っていた。だから自分の身などどうでもよかった。
「では、逆に聞こう。出産の成功率はどの位だ?」
アルは指を組み、アムロとシャアの2人を見つめる。
「アムロの薬物耐性を徹底的に調べ、心臓の負担を最小限にするよう手を尽くしたとして、50 : 50(フィフティフィフティ)だと思って下さい。」
「50:50か…。」
シャアは顔の前で組んだ指を額に当て、暫く考え込む。
その沈黙を破るかのように、扉をノックする音が部屋に響き渡った。
「どうぞ…」
来訪者がある事を知っていたナナイが入室を促す。
カチャリという音と共に、金色に揺れる綺麗な髪の懐かしい女性が姿を現した。
「アルテイシア!?」
驚きのあまり立ち上がるシャアに、セイラは一瞬目を合わせると、そのままアムロの前へと歩みを進める。
「アムロ。お久しぶりね」
「セイラさん…」
「あらあら、さっきのモビルスーツ戦での元気はどうしたの?」
「え?!まさかさっきの!!」
「ふふふ。兄さんを馬鹿呼ばわり出来るのはアムロだけね」
「わぁ!!」
アムロが恥ずかしさに悲鳴を上げて両手で顔を覆う。
「アルテイシア…何故お前が?」
セイラはシャアに視線を送ると、はぁっと溜め息を吐く。
「兄さん、なんて顔をしているの?兄さんがそんなではアムロが不安になってしまってよ?」
セイラに諌められ、シャアはグッと息を飲む。
「すまない…」
セイラはクスリと笑うとナナイに視線を送る。
「ナナイ大尉から連絡をもらって慌てて来たのよ。」
「アルテイシア様、無理を言って申し訳ありません。」
「アムロの為ですもの。多少の無理等どうと言うものでもないわ。」
セイラはニッコリとナナイに微笑むと、アムロへと視線を戻す。
「アムロ、私はカイルの出産に立ち会って、貴女の出産がどれほどリスクを伴うか知っているわ。だから、医者としての立場から言えば、諦めることを勧めるわ。」
その言葉にアムロが辛そうに顔を歪める。
「けれど、貴女の心は決まっているのよね?」
「…うん」
アムロは目を伏せ、コクリと頷く。
セイラは微笑みながらアムロの頬を撫ぜる。
「それならば、私たちは最善を尽くすしかないわね。」
「アルテイシア!?今、諦めろと言ったではないか!」
シャアが叫ぶと、セイラがシャアに視線を移す。
「兄さん、もしも中絶するとしても中絶手術は全身麻酔を掛けなければならないわ。当然、出産と同様のリスクはあるの。」
シャアがグッと言葉を詰める。
「アムロ本人が出産を望んでいるのだから、私たちは無事に出産できるように最善を尽くすわ。」
「アルテイシア…」
困惑した表情を浮かべるシャアを余所にアムロへと向き直る。
「ドクター=ウォレスも言っていたように、まずはアムロの薬物耐性や身体の状況を徹底的に検査して、その上で、対応を考えて出産に臨みましょう。」
「セイラさん…」
「でもね、アムロ。検査の結果、やはり出産には耐えられないと判断したら、その時は…、分かるわね?」
アムロは瞳に涙を浮かべ、そっと頷く。
「兄さんもそれでよろしくて?」
まだ納得出来ずに、ただ視線を逸らす。
「仕方ないわね。」とセイラは小さく溜め息を漏らすとアムロの手を取る。
「早速だけど、アムロにはこれから病院で検査を受けてもらいます。詳しく検査をしなくてはいけないから検査入院になるわよ。」
セイラはアムロを連れ、アルと共に部屋を出て行った。
残されたナナイ、ブライトはテーブルに肘をつき、組んだ指に頭を乗せて思い悩むシャアを悲痛な面持ちで見つめる。
意を決したナナイがシャア声を掛けようと立ち上がるのをブライトは制すると、自分に任せるように言い、ナナイを退出させた。
ブライトはゆっくりと立ち上がり、シャアの元へと進む。
「こういう時、男は何の役にも立ちませんね。」
溜め息混じりに言うブライトに視線を向けると、シャアが頼りなげに微笑む。
「全くだ。女性は強いな」
「とりあえずはセイラに任せましょう。皆、アムロの事を想っています。必要ならばいくらでも協力しますから…何でも言って下さい。」
「ありがとう。ブライト」
2人は強く握手を交わした。
深夜、検査入院でアムロの居ない寝室のソファでグラスを傾けていると、コンコンとドアをノックする音がする。
「誰だ?」
シャアが答えると、ドアの隙間からぬいぐるみを抱えたライラが顔を出した。
「どうした?ライラ。眠れないのか?」
コクリと頷くライラを両手を拡げて迎え入れる。
「お父さん!」
パタパタと走ってシャアの胸に飛び込むと、ギュッとその逞しい首にしがみつく。
「よしよし。今日は一緒に寝ようか?」
「うんっ」
ライラをベッドに寝かせると、一緒に横になる。
肘を立てて頭を支え、反対の手でライラの髪を優しく梳く。
いつもは後ろに撫で付けているシャアの前髪が今は無造作に降りている。その一房掴んでライラが呟く。
「お父さんの髪の色はライラと同じね」
「ああ、そうだな。それに瞳の色も同じだな」
シャアは優しくライラの頭を撫ぜる。
「小ちゃい頃は同じ髪の色のアルがお父さんだと思ってたの。」
シャアはアルの名に少し眉を顰めつつ「そうか…」と答える。
「でも、アルはお父さんじゃないって聞いてびっくりしたの…」
「ライラ…」
「それでね。カイルお兄ちゃんの髪の色はお母さんと一緒でしょ?でも瞳の色はライラと同じブルーだから、きっと本当のお父さんはライラと同じ髪の色で瞳はブルーなんだろうなぁって、ずっと思ってたの。」
「そうか…。一緒だっただろう?」
「うん!それでね、本当のお父さんが見つかったから、ライラのお願いを叶えてくれるって思ったの」
「お願い?」
「うん。だからね。ライラ、お母さんにお願いしたの」
脈絡のないライラの話に耳を傾けながらシャアは相槌をうつ。
「何をお願いしたんだ?」
作品名:Lovin' you after CCA4 作家名:koyuho