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69 エデンの庭

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― ずっとずっと昔の話です。まだ私があなたより若くて娘だった頃の話。許嫁との婚約を控えていた私は…不運にも流行の熱病に侵されてしまったのです。何日も酷い高熱が続いて、生死の境をさまよいました。それでね、熱病のために私は髪を坊主頭に刈られてしまったのですよ。幸い命はとりとめましたが、回復した時の自分の頭を見た時の落胆といったら…。命が助かったのだからそんなことで落ち込むのは贅沢だ…と周りからは散々言われたのだけど、それでも婚約を控えたうら若い娘がですよ?クリクリの坊主頭ですもの。それは悲しくなりますよね。私はそれからずっと部屋に閉じこもって日がなベッドにもぐりこんで…引きこもってたんですよ。そんな時でした。婚約者が…アレクセイのおじい様ですね、わざわざペテルスブルグからキエフの私の実家まで、馬車を飛ばして駆けつけてきてくれたのです。会ったこともない…親の決めた許嫁をわざわざ…ね。でも私は…初めて会う婚約者にこんな姿を見られたくなくて、「帰って」と彼の訪問を突っぱねたんですよ。

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「いや!会いたくないと…帰ってと言って頂戴」

「でも…お嬢様…」

「お願い!帰ってもらって」

部屋の中から若い娘の涙声と、主に泣かれてオロオロしている女中の声が聞こえてくる。

ドアの外で、そのやり取りが耳に入った婚約者パーヴェル・ミハイロフは、ドアをノックすると、「入りますよ」と強引に部屋へ入って行った。

ドアノブが動いたのを見たヴァシリーサは、とっさに寝具を引き被る。

寝具に潜って顔を見せない婚約者の元へパーヴェルはゆっくりと歩み寄ると、ベッドの縁に腰かけて、彼女が潜り込んでいるふくらみを優しくゆっくりと撫でた。

「無礼をお許しください。でも、何日も馬車を飛ばしてあなたに…無事病の死の淵から生還した貴女に一目会いに来た…崇拝者に…一目お顔を見せて下さい」
― 愛しいヴァシリーサ。

どのぐらいの時間そうしていただろうか。
寝具越しに彼女を撫で続ける大きな手と、優しい声が、徐々に頑ななヴァシリーサの心をほぐしてゆく。

やがてノロノロとヴァシリーサが、寝具から顔を出した。

そんなヴァシリーサの、髪を刈られた小さな黒い頭をパーヴェルは優しく抱きよせると、彼女の白い額に、鼻の頭に、両の頬にキスの雨を降らせた。

「私のヴァシリーサ!…生きていてくれてありがとう。…生きているあなたに、こうして出会えて、そしてあなたの温もりをこの手で確かめていることが…こんなに…こんなに幸せだなんて。ヴァシリーサ、改めて僕は君にプロポーズするよ。愛しいヴァシリーサ、ぼくの妻に…なってくれますね?」

この日初めて対面した許婚、パーヴェル・ミハイロフは黒い瞳でじっとヴァシリーサを見つめると、その白い手に口づけを落した。

白い夜着に包まれた、ヴァシリーサが、婚約者の熱烈なプロポーズに、コクリと首を縦に振った。髪を刈ったためにむき出しになった白い項と頼りない程にか細い首がいかにも若い娘らしい初々しさをはなっている。彼はそっと彼女のその細い首を引き寄せて、激しく唇を奪った。

作品名:69 エデンの庭 作家名:orangelatte