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70 ~Requiem 1917年9月1日

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コンコン…

「ロストフスキー大尉です」

「入れ」

ロストフスキーが書斎のレオニードの元へ報告に上がる。レオニード腹心中の腹心である彼の顔色もまたやや青ざめ、窶れがその表情に乏しい顔に現れていた。

「ヴェーラは?」

「リューバが付き従って…無事ペトログラードを出ました。リューバならば、必ずや無事にヴェーラ様を安全な場所へ送り届けてくれましょう」

「うむ、そうだな…」

「あれは…、無事腹の子を出産したのだったな…」

「はい…。10日程前に。彼女によく似た美しい金髪の女の子だったようです」

「そうか…」

窓の外を見たままレオニードは、かつて愛した少女の面影を追憶するように暫し口を閉ざした。

「ロストフスキー…一つ頼まれてもらいたいことがある」

レオニードが机の引き出しから一通の封筒を取り出した。

「これを…ユリアに届けてほしい。―ずいぶんと久しくなってしまったが…最後の援助便だ」

「…分かりました。必ずや」

言葉少なく、ロストフスキーは主から託された封筒を受け取り、踵を返し書斎を後にする。

「ロストフスキー!」

書斎のドアノブに手をかけたロストフスキーをレオニードが呼び止めた。
ロストフスキーが振り返る。

「今まで、ご苦労だった。ありがとう…セリョージャ」
振り返ったロストフスキーに、レオニードが労いの言葉をかけ、そしてかつての少年の頃の笑顔を向けた。

その笑顔にロストフスキーは一瞬その場で声を上げて泣き出したい気分に駆られた。― これで…最後だ。これが…最期なのだ。ロストフスキーは敬愛してやまない主との今生の別れを悟った。

「いえ…。では、行ってまいります。―リョーニャ」
ロストフスキーは泣き出したい衝動を心の奥底に押し込め微かに笑みを浮かべると、あえて昔の呼び方で主を呼び、彼の前を立ち去った。