銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅰ
ユキは南部のスケジュールを確認する。確か進と入れ替えで月基地経由で金星に向かったはず…と記憶している。南部の父の連絡先は知っているがやはり直接連絡を取るのに南部を飛び越して…というのはちょっと申し訳ない気がしたのでメールでお父様と連絡を取ることを伝えた。
「私、地球防衛軍長官藤堂の秘書の森です。」
ユキが南部重工業へ連絡を入れた。
「恐れ入りますが社長の南部様はいらっしゃいますか?」
電話を受けた者もユキの名前は知っている。"予定を確認します"と言って一度電話は保留になった。ユキの端末に南部から返事が来た。
(ユキさん
お疲れ様です。メール見ました。父にメール転送しておきましたがあの人も忙しい
からすぐにチェックできないかも。でもユキさんが相手なら何があってもすぐに
連絡つくと思いますよ!後で内容教えてくださいね!)
メールを読み終わった頃電話の保留音が切れた
〈お待たせしました。南部です。森さんいかがされました?〉
南部の父が電話に出た。
「お世話になります。お忙しくないですか?大丈夫ですか?」
南部によく似た声でユキはちょっとホッとする。
〈大丈夫ですよ、森さんの電話だったら地球の裏側でもすぐに電話に出ますよ。〉
南部の父が朗らかに笑いながら話す。
〈これが康雄の電話だとでないかもしれませんがね。〉
なんて笑っているが息子からの電話だったら何よりも優先することをユキは知っている。
「軍で使用しているパトロール艇の事でお願いしたいことがありまして…現在地球
防衛軍の日本艦隊で使用しているパトロール艇で現場の声があがりました。
それに伴い改良を検討したいと思っておりますが資料がないので…日本艦隊で
使っているパトロール艇は御社が作成したと伺っております。」(ユキ)
〈はい、その通りですがなんせ資材もままならない状態で作成した艇ですから…
いろいろご指摘があってもおかしくないと思います。聞けば古代艦長代理が
パトロール艇の艇長と伺っております。〉(南部父)
「その通りで…」(ユキ)
ユキの会話から南部の父はそこから上がった声だと冒頭から気付いていた。
〈もしよろしければ詳しく話をお伺いできればと思いますが…森さんはお時間作る
こと可能ですか?〉(南部父)
「はい。大丈夫です。いつご都合よろしいですか?」(ユキ)
〈そうですね…(スケジュールを端末で確認している様子)明後日の午前中大丈夫です。
長官室へお伺いしていいですか?〉(南部の父)
「ありがとうございます。ではお願いします。それでパトロール艇の資料をその時に
準備していただきたいのですが…」
ユキはそう言うとまず現モデルのパトロール艇の設計から試作品を造るまでの時間と費用。そして試作品の作成費用と大量生産にした後のコストを持ってきてもらうよう依頼した。
〈具体的にどこを変えたいとかありますか?〉(南部の父)
「パトロール艇をシームレスにした方が感知されにくくよりパトロールしやすくなる
と現場から声が上がりました。確かに"ここにパトロール艇がいるよ"ってわかった
ら意味がないと思いますし標的になってしまう場合もあると思います。
パトロール艇にベテランばかりが乗っているとは限りません。パトロール艇には
攻撃する設備がありません。見つかったら標的になるだけです。クルーの命を
守るためシームレスの方がいいと…。」
ユキが具体的な内容を説明する。
〈なるほど…これは古代さんの意見ですか?〉(南部の父)
「いえ…相原くんです。相原くんって周りをよく見ていいて私たちが"あたりまえ"と
思っていることを違う角度から見ることができるので…」(ユキ)
〈なるほど…私もそんな風に考えたことなかった‥細かい動きができるよう考えたが
その考えはなかった。設計の部署へ軍の意向を伝えシームレスパトロール艇の
プロジェクトをたちあげましょう。〉(南部の父)
「あ、でも…」
ユキがまだシームレスパトロール艇の事を軍全体で進める話ではないと伝えたかったが
〈大きな組織は動くのが遅い…そして怠慢になってしまう部分がある。私も森さんから
聞いてすばらしい案件だと思ったんです。〉(南部の父)
南部の父はそう言うと"早速設計にかけてみます"と言って電話を切った。ユキは電話を切ったあとすぐに南部のメールを送る。パトロールから帰ってきた進と相原と呑んだ時に相原から出た提案をお父様に依頼したことを。
ユキは時々"真田さんがそばにいてくれたら"と思う。そして自分がどれだけ真田依存性になっているのか自覚するのだった。
作品名:銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅰ 作家名:kei