銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅰ
「…あの…ここ…よろしいでしょうか?」
ユキが食堂で食事を終えてコーヒーを飲んでいると訓練生の制服を着た女性に声をかけられた。
「えぇ…どうぞ。」
ほかにも席は空いているがユキのとなりに座るのに声をかけてきたのだ。
「あの…長官の第一秘書の森さんですよね?」
その女性は遠慮しがちに声をかけてきた。
「えぇ…そうですが?」
ユキは面識のないその女性を失礼にならないように観察した。背が低く色白でとても可愛らしい子だった。そして(ひょっとして北野くんの元カノ?)と推測する。
「ヤマトの訓練に同行してたって聞いたんですけど…。」
ユキは心の中でため息をつく。
「失礼ですがどこの所属の方でしょう?」
ユキが事務的に聞くとすこしビビった様子でさらにおどおどしながら…
「…訓練生の吉岡やよいです。所属はパイロット科です。」
「具体的にご質問を伺いましょうか?」(ユキ)
「あ…あの…私…北野くんと付き合っていて…でも訓練航海から帰ってきたら別れ
ようって言われたんです。訓練航海行く前まで全然そんな別れる気配なんて
なかったのに突然別れたいって…全然納得できなくて…金星に行っちゃったから
全然話せなくて。やっと戻ってきて話がしたいって言うから将来の話かと思ったら
別れ話の延長で…。」
最初はおどおどしていたのに話し始めるとどんどんヒートアップしてきた。
「だからその訓練航海で好きな人ができたんだと思うんです。その相手があなた
じゃないかと思って!婚約者もいるのに右も左もわからない新人に手を出す
なんてあなたどれだけひどい女性なんですか?」
ユキの隣に座っていたがヒートアップしてきたからか立ち上がり声も大きくなっていく。
「ねぇなにか言ったらどうなの?それって認めてるの?」
ユキは静かにコーヒーを飲む。周りから見たらユキはまるで第三者のように見えた。
「ちょっと!聞いてる?」
吉岡はそう言ってユキの袖を掴んだ。
「…こぼれちゃったわ。」
そのときユキが手に持っていたコーヒーが零れ真っ白な制服にコーヒーのシミができた。
「そんなの関係ないじゃない!コーヒーと私の話どっちが大事なの?」(吉岡)
「…コーヒーに決まってるじゃない。私あなたの独り言に付き合ってる暇はないの。
せっかくの休憩が台無し…制服クリーニングに出さなくちゃ…。」
ユキがそう言って立ち上がると相手にされていない吉岡はさらに声を張り上げた
「ひとの男取っておいてなに涼しそうな顔してるのよ!」
と叫ぶと同時にユキの左の頬に吉岡の右手が振り下ろされた。
「私に手を挙げるの?それがどういうことが分かっているの?」
ユキがその右手を掴んだあと払い除け静かにつぶやく。
「あなたまだ訓練生でしょ?」
ユキの言葉に吉岡は我に返る。
「訓練生が暴力事件起こしたらどうなるのかしら?しかも無抵抗な秘書に向かって
ありもしない言いがかりをつけて。」
食堂にいたすべての人がふたりを見ている。
「北野くん正解ね。あなたと別れて。このまま付き合っても"仕事と私どっちが
大事?"って聞きそうなタイプですものね。」
吉岡は一瞬眉をひそめる
「すでにそのセリフは言っちゃったって感じね。」
ユキが大きく息を吐く
「北野くんは訓練航海で地球を守る事と宇宙の大きさを実感して還ってきた。
そして自分の進むべき道をみつけたの。それを他人が口を挟むべき事ではないわ。
本当に北野くんのことを想っているのなら北野くんの応援をするはず。
北野くんの言葉に耳を傾けて負担にならないように一緒にいる道を探すはず。」
吉岡はユキに圧倒されて何も言えない。
「森さん!」
そこへ北野が食堂へやってきた。もちろん太助も一緒だ。
「あら、北野くん。」
ユキが北野に向ける笑顔はいつもの笑顔。
「すみません…食堂で森さんがって聞いてひょっとしてって思って…。」(北野)
「いいのよ北野くん。もう別れたんでしょう?そしたら気にすることないわ。」
ユキが真顔になる。
「私たちは防衛軍の一員…自分を第一に考える人は不要よ。」
ユキの視線は北野から吉岡に移った。そのユキの視線は今まで見たこともないぐらい冷たかった。吉岡はその視線に耐えられずユキから視線を外すと走って食堂を出て行ってしまった。
北野も太助もヤマトの中で一度も見たことのないユキの一面を見た気がした。
作品名:銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅰ 作家名:kei