銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅰ
ふたりでいる事がどれだけ大切な事かユキは言葉の重みを受け止めた。家族と死に別れ遠い星で守が生きているとわかったものの別れ別れで生きるのを選んだ。
その後イスカンダルの無き後同じ太陽系で生活しているものの地球へ戻って来るのはまだ先…。進には自分しかいない…わかっているけど自分が進を支えられるのか不安になる時もある。
「たとえ離れていても気持ちはユキの心の中にあるから。そばにいる時は同じ空気を
吸っているのを実感したいって思う。」
進はそう言うとそのままユキを抱きしめた。
「…古代く…」
ユキの唇は進の唇で塞がれた。
「え?これだけ?」
進は独身寮を引き払うので全部の荷物を持ってきたがユキはほんの少しの私服と化粧品など小さなスーツケースひとつだけ持って官舎に戻って来た。
「私、服とか余り持ってないの。秘書室の控室の方が荷物たくさん置いてあるかも。」
急にフォーマル指定のパーティーがあったりするから控室にフォーマルを数点置いてあるしそれなりの小物も置いてあったりする。
「そう言う古代くんだって少ないじゃない?」
進の荷物も大きな段ボール2個ぐらいでたいした物は入ってなさそうだった。
「…まぁここにいるより上(空を指さして)にいる方が長いし大事なモノは地下都市に
置いてあるし…。」
そう言いながらベッドルームのクローゼットに服を入れる。
「そうね。」
あっという間にふたりの荷物は片付いてしまった。進に与えられた部屋は4LDK。ふたりがひとつずつ部屋を使っても余ってしまう。
「広すぎるわね。」
ユキが少し寂しそうにつぶやいた。進が宇宙(そら)へ行っている間、この部屋でひとりで過ごすのを考えるとこころが寒くなるような気がした。
「お腹空いたな。何か食べに行こうか。」
進が時計を見ながらユキに話しかけた。壁に掛けられた大きな時計。ふたりの時間を刻む大切な時計…。
「お腹空いたけどなんだか中途半端な時間ね。」
時計の短い針は午後の4時を指している。
「荷物が届いたのがお昼前で食べそこなっちゃったからな。せっかくの休みだ。
ゆっくり飲みながら食べよう。」
「なんだよ、もっといいところにユキさん連れて行ってやればいいのに。」
軍の帰りに寄る事の多い居酒屋に行ったら南部が島と一緒に呑んでいる所に出くわした。
「いいじゃない、ここおいしいから好きなんだもん。」
係りの人に頼んで合席にしてもらった。
「相原と太田は?」(進)
「誘ったんだけどどっちも実家に帰っててね。」(南部)
「そう、ちょっと長い航海になっちゃったから相原くんのお母さん心配してたかも
しれないわ。けがが治ってすぐ訓練遠征ですもの…島くんのところは大丈夫なの?」
島も直前まで入院していた。
「ん?帰って来てからずっと実家だよ。次郎の宿題見てやるのが日課でさ…
公園でサッカーやったり。心配かけたから家族孝行してるよ。」
島がそう言いながらビールを飲む。そこへ進とユキが注文したビールが運ばれてきて改めて4人で乾杯した。
「南部の所は?」(進)
「一応実家に戻ってるけど親はとにかく忙しくてね…あれから時間がたってないだろ?
軍の注文、結構無理あって。資材がないのに納期を迫られるんだ。急いでいいモノ
作れるわけないから南部側も慎重でさ…何かあったら責任のがれられないだろう?
工場は24時間稼働してるから事故が起きないよう親父もおふくろもあちこち顔出して
様子を見てるらしい。」
天下の南部重工、会社自体は大きくてもアットホームな雰囲気があるのは南部の父親がいるからだろうと進も思う。
「なんせ俺より社員の方が大切だっていつも言ってるからな。」
でもメインクルーは知っている。南部の父親が誰よりも息子を信頼している事を。
「俺は小間使いみたいなもんさ。パーティーとか親父が嫌がる事担当だから。」
南部の父は現場が好きだから余りパーティーとか出るのは好きじゃない。南部が地球にいなければ仕方なく出るが南部がいれば有無を言わせず出席させる。
「父より母の方が社交的ですからね。うちは。」
南部が残っていたビールを一気に飲んで追加で注文を入れる。
「ほら、ユキさん。食べ物注文してくださいね。」
しばらくすると南部のビールが運ばれてきた。
作品名:銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅰ 作家名:kei