銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅰ
「少し歩こうか。」
南部と島と別れて進はユキと歩き出す。ふたりの足は自然と英雄の丘へ向かっていた。
「ユキ、寒くないか?」
英雄の丘は海の近く。海風が直接当たって体が冷える。
「大丈夫よ、古代くんと一緒だし。」
進はユキの手を握ると自分のコートのポケットに入れた。
「こうすると少しは暖かいかな。」
ユキは返事の代わりにポケットの中の進の手をぎゅっとにぎった。
「寂しいけど来ちゃうわね。」
ふたりは沖田艦長を見上げる。
「ここにくると加藤と山本がいないって見せつけられてる気がするんだけど…クルーが
"来たな!"って待っててくれるような気がしてさ。」
進の脳裏に山本の最後の敬礼と加藤の笑顔がよみがえる。ふたりのレリーフはもちろん隣同士。
「加藤くんは誰とでも話せたけど山本くんって少し人見知りあったわよね?
少しずつ、少しずつ話してくれるようになってすごく嬉しかったな。」
ユキが思いだしたように話し出す。
「きっと一緒に空を飛んでるわよね。」
直感で動く加藤と加藤の指示を的確に言葉にする山本。ふたり一緒だったから進も思うように飛ぶことができていた。
「山本くんが亡くなる前私にこう言ったの…。“古代は何があっても還すからな”って。
そして最初のワープの時の事を話してくれた。自分はどうなっても古代くんだけは
絶対に死なさせないって。ご両親に同じ話をしていたから本気だったんだって思ったん
だけど…。付き合いが長いからじゃなくて…あの時自分は諦めかけてたのに古代が
必死になって俺をヤマトに還してくれたって。私がこうして幸せでいられるの山本くんと
加藤くんのおかげだと思うの。もちろんあの戦いで亡くなってしまった仲間全員そう
なんだけど…古代くんが加藤くんと山本くんと仲がよかったから私も一緒にいさせて
もらえて嬉しかったんだ。だってコスモタイガー隊ってすごい人気あるのよ?
月面基地でもすごい人気だったんだから!長官のお伴で月基地を視察してる時に
加藤くんを始め元ブラックタイガー隊員に声かけられるとその後の視線が痛くてね。
地球にいれば古代くんやメインクルーのファンから鋭い視線で見られて月に行けば
ブラックタイガー隊のファンの視線が痛くて。私って気の休まる場所ないなぁって
思ってた。」
ユキが空いてる手でマフラーを直しながら話す。
「人気者に囲まれてると大変なのよ?」
全く困った様子はない満面の笑み。
「ヤマトに乗って本当によかったって思ってる。あの時看護士に転向して真田さんと
知り合えてこの偶然に感謝してる。」
ユキは暖かいポケットの中でしっかりと進の手を握ると進が握り返してきた。
「いくつもの偶然が重なってメインクルーはメインクルーになったって思ってる。
誰がかけてもどの戦いも勝てなかったかもしれないって思う。ヤマトがヤマトらしく
戦えるのはヤマトに乗っているクルーの気持ちがあるからだと信じてる…。」
進はそう言って視線を上に上げた。その視線の先には沖田が遠く沖を見つめている。
「そうね・・。」
少し海を眺めた後
「体が冷えちゃうね、帰ろうか。」
進の言葉にユキが小さくうなずいた。
作品名:銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅰ 作家名:kei