銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅰ
「森さん、お疲れ様です。」
ユキが食堂でぼんやりしていると後ろから声をかけられた。
「あら…北野くんじゃない。お疲れ様、お昼?」(ユキ)
「はい。先日金星から戻ってきました。昨日まで調整日で今日から出勤です。
太助と同じ艦だったんですよ。もうすぐ食堂に来ると思うんですけど…。」(北野)
「あら、徳川くんも一緒なの?ひとりで寂しかったから一緒にどう?」
ユキの言葉に北野が固まる。
「あ、ごめんなさいね。同期で一緒に食べたいわよね?」
ユキがそう言うと北野は慌てて
「あ、そうじゃないです。まさか森さんからお誘いを受けると思っていなかったので
驚いただけです。いいんですか?ご一緒して?」(北野)
「やだ、なに遠慮してるの?ヤマトで時々一緒に食べたじゃない?同じ軍の食堂よ?
誰に遠慮してるの?あ、彼女がいるなら…」
ユキが一瞬言葉に詰まる。
「い…いませんから!彼女なんていません!」
と北野が叫んだところで太助が声をかけた。
「そうだよなぁ~ヤマトの訓練航海のあと別れちゃったもんなぁ。」(太助)
「そうなんですよ~…って太助!」(北野)
「森さん、ちょっと聞いてやってくださいよ。こいつ女を見る目がなさすぎなんです。」
太助がトレイを持って「隣いいんですか?」と声をかけるとユキが「どうぞ、待ってたのよ。」と優しく笑う。ユキの隣に太助、ユキの前に北野が座った。
「…女性を見る目がないって言ってもまだ20歳でしょう?そこで見分けるのって
無理じゃない?」
ユキがランチをつつきながら呟く。
「そうなんですが…森さんもご存知のとおりこいつ、幹部候補生だったじゃないですか。
でもそれを蹴って現場主義になっちゃったもんだから彼女の態度がコロっと
変わっちゃったんですよ。」
太助の説明に北野は面白くなさそうにランチのおかずをつついている。
「変わった?」(ユキ)
「多分彼女にしてみたら北野は゛でっかい魚”だったんですよ。このまま付き合い
続ければ軍の中心人物になり生活は困らないってね。ところがヤマトの航海から
帰ってきたらパイロットに志願したもんだから焦っちゃって。」(太助)
「焦る?」(ユキ)
「周りに〝北野にプロポーズされた”とか゛式場選びに行った”とか言いふらして
北野が逃げられないように外堀から埋め始めたんですよ。」(太助)
「その彼女も軍関係だったの?」(ユキ)
「訓練生なんですけど。彼女とは同い年ですが北野と私は繰り上げ卒業なので彼女は
まだ訓練生なんです。訓練学校卒業したらすぐ式だと言ってたそうで…。もちろん
北野にそんな気持ちはありませんでしたがかなり噂になっていて北野の耳に入った
頃には訓練学校中の噂になっていました。」(太助)
「でもなぜそんな噂を?」(ユキ)
「多分そんな噂が出たら北野は自分と結婚してくれるだろうと思ったんでしょうね。
そして結婚するなら幹部候補生として軍の中枢に行くと思ったんでしょう。
こういってはなんですが艦に乗るより安全だし給料も上がると思ったんでしょう。
まぁ言うなれば優良物件の先物取引とでも言いましょうか?」
太助の言い方に北野は心底面白くなさそうに話を聞いている。
「北野も軽い気持ちで付き合ってたんですよ。お互い学生だったし今が楽しけりゃ
いい…みたいな感じだったんだよな?」
太助が北野に問うと北野は面白くなさそうに頷いた。
「でも…ヤマトに乗っていろんな事を見て体験して…恋愛観も変わったんですよ。」
太助の言葉に北野が頷く。
「古代さんと森さんを見て思ったこと、目の前で繰り広げられた愛の終わりを見て
自分なりに考えたんです。」
北野が重い口を開いた。
「自分に何ができるだろうって思ったんです。そしたら今まで学んできたことが分厚い
教科書を斜めに読んできただけだって思うようになって…彼女も本当に私自身を見て
くれていたのか私も彼女のなにを見ていたのか分からなくて別れる決意をしました。」
「そうだったの…」(ユキ)
「でも彼女がなかなか納得してくれなくて…」(北野)
「そりゃそうだろ。あんなデマ流して振られたなんて言えないでしょ。」(太助)
作品名:銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅰ 作家名:kei