71 utopia
墓守が霊廟の鍵を開け、中へハンカチに丁寧に包まれた遺髪と、遺品の駒を納める。
アナスタシアの遺品が納められた墓標に、アルラウネ、アレクセイ、そしてユリウスが祈りを捧げた。
ー アナスタシア、あなたが帰りたがっていたペテルスブルグよ。安らかに眠ってね。
ー アナスタシア…ありがとうな。それから…あんたの気持ちに応えてあげられなくて…ごめんな。
ー アナスタシア…とうとうお会いする事は叶わなかったけど…、ぼくらの、ミハイロフ家の幸せが…あなたの献身の上に成り立っている事を、生涯忘れません。
それぞれの、心に秘めた故人への語りかけが、まるで天に届いたかのように、爽やかな風が樹々の梢を揺さぶった。
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「お前たち…一体どうしたというのかぇ…」
いつまでも戻ってこない孫夫婦にしびれを切らせたヴァシリーサが、ミーチャに手を引かれてやって来た。
「あ!…」
角を曲がってやって来たヴァシリーサの目にー、思いがけない人物が映り、彼女は思わず足を止めた。
それはー、忘れもしない、20年近く憎み恨み続けて生きてきた、亡き孫の婚約者。
作品名:71 utopia 作家名:orangelatte