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71 utopia

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家族を乗せた辻馬車が新ミハイロフ屋敷の前に止まる。

その屋敷は以前のゴロハヴァーヤ通りにあった豪壮な屋敷よりもかなり小さく、しかも所々傷みも見て取れる。

「ここは?」

「新しいミハイロフ家だよ。…前の屋敷は事情があって住めなくなってしまってね…」

アルラウネの問いにヴァシリーサが答える。

「前の屋敷よりも大分小さいし…かなりのオンボロだけど…。これでもかなり手を入れて修繕が進んだんだぜ?最初見た時は、まさに化け物屋敷だったぜ!な?ミーチャ」

鉄の門扉に手を掛けて、アレクセイがミーチャに同意を求める。

その当時を思い出したミーチャが苦笑いを浮かべて頷いた。

「ここはね…、アレクセイのお父様が、アレクセイのお母様と生まれてくる子供の為に、密かに用意させていたお屋敷だったんだって。結局…アレクセイたちがこのお屋敷を使うこともなく、アレクセイのお父様もその後亡くなられて…、この屋敷はそのまま忘れられて打ち捨てられた状態だったのだけど、その為に、1900年のあの事件で爵位と領地を没取された時も、そこから漏れてそのまま残っていたらしいの」

この屋敷にまつわる経緯をユリウスが説明する。

門扉を開けて中へ入ると、貴族の庭のように瀟洒ではないけれど、きちんと人の手が入った庭が心地よい。

自然な風情だがきちんと雑草は刈られ、至る所に菜園が作られ、夏の太陽の実りをたわわに実らせており、にわとりや山羊が放し飼いにされ、そこかしこで草や土を食んでいる。

そして、その庭に集い作業をする沢山の人たち。

「あ、ミハイロヴナ夫人、お帰りなさい」

にわとりを小屋へ追いやっていた子供が、ヴァシリーサに声をかけた。

「ただいま。精が出ますね」

ヴァシリーサが、その子供に優しく話しかける。

「はい。めんどりが卵を産みましたので、厨房へ届けておきました」

「ありがとう。あなたも卵を持ってお帰りなさいね。お母様に滋養をつけさせておやりなさい」

「はい!ありがとうございます」

「おぅ!アレクセイ。厩の屋根、修理しといたぜ」

「お〜、サンキュー」

屋敷に集う市井の老若男女が、代わる代わるヴァシリーサやアレクセイたちに声をかけていく。

貴族然としたヴァシリーサを取り囲む庶民の人間たち。

かつて知っていたヴァシリーサからは想像すらつかないその状況を驚いたような顔で眺めていたアルラウネに、ヴァシリーサはこともなげに説明する。

「ここはね、去年の夏から、私の住まい兼当時弾圧されて壊滅したボリシェビキの仮事務所として使用されて…、革命後はそのまま、当時事務所として使っていた党員とその家族に、共同ダーチャとして賃貸ししているのですよ」

「まあ…賃貸しといっても、奴ら…まあ…俺も含めてだけど、貧乏だからな、払っているのは最低限の共益費と管理費だけで、あとは物々交換だな。ばあさんが屋敷敷地を提供する代わりに、使用者はそこで作った作物や屋敷の修繕、管理といった労働力を提供する。屋敷はあっても管理がままならない年寄りと、体力はあるけど財産はない俺ら。ウィンウィンだ」

アレクセイの説明に尚も驚いたような顔を見せているアルラウネにヴァシリーサが

「時代は変わっているのです。…だから私も変わらなくては」

と力強く微笑んだ。

作品名:71 utopia 作家名:orangelatte