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71 utopia

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「あんたが、なぜアナスタシアの遺品を持ってあの墓地を訪れたのかー、遺品を託されたあんたとアナスタシアが、一体どんな関係だったのかー。あれから今日までのあんたの事と、アナスタシアの事を…聞かせてくれないか」

アレクセイが一番の核心を切り出した。

「そうね…」

アルラウネが小さく息をつくと、これから長い話になるとばかりに、ハーブティーで口を潤した。

〜〜〜〜〜〜

ー モスクワ蜂起前夜…あなた達一家と別れた私は…、それでもやはりあなたの事が心配で…いてもたってもいられず…すぐにあの内戦状態のモスクワへ向かったの。…ふふ。自分の元を巣立って行った弟の身が気になっていてもたってもいらないなんて…つくづく性(さが)よね。

「あんた…あの、激戦のモスクワにいたのか…⁈…よく、よく、無事に生きていたな…」

「ふふ。実際かなり危なかったわよ。制圧軍に襲われそうになったり…、市民には予め爆破予告がされていた橋を駆け渡って…あわや爆死しそうになったわ」

アルラウネのその回顧にアレクセイの全身に震えが起こる。

「ー あれは、…あの時の足音は…、あんただったのか⁈」

「?」

「俺は…あの時、まさにその橋の爆破の現場にいたんだ。あの時…、いざ起爆しようとした、その時に、橋に向かって走って来る足音が聞こえたんだ。…他の奴らには聞こえなかったようだが、俺の耳には確かに…、ヒールが石畳を駆ける…女の足音が聞こえたんだ。…それで俺は…、咄嗟に起爆スイッチを押そうとしていた同志を全身で突き飛ばした。その直後…、女が橋を駆けて行く後ろ姿が目に入った。…黒い髪が、どこかあんたを想わせる…と、その時に少し感傷的な気持ちになったが…、あれは、あんただったのか!」

ー 俺は…、かけがえのない…姉をこの手で…殺してしまうところだったんだな…。神様…感謝致します。

アレクセイが棄てた筈の神に思わず祈りを捧げる。
ヴァシリーサとユリウス、オークネフも小さく十字を切った。

「…すまない。先を続けてくれ」

アレクセイに続きを促され、アルラウネが話を続ける。

ー その後、ボリシェビキはモスクワ蜂起に敗れ、私は…、このまま元のメンシェビキに戻る気にも、かといってボリシェビキに入る気にもなれず、一旦ニュートラルな立場で革命そのものを、ロシアの今の現状そのものを自分の目で見つめ直してみようと思って、ペテルスブルグには戻らずに、そのままモスクワに居を移したの。あちらでは…フリーの立場で翻訳や校正、それから家庭教師などしながら、色々な立場の人たちの考えに触れたわ。この間に法律家の勉強会に通って、ロシアの法律やヨーロッパ、アメリカ、そして日本の、世界各国の法律についても学んだ。私の1905年からの10余年は…こういう年月だった。

「あんたは…、雌伏して、時を待っていたんだな…」

「かっこいい言い方をすれば、そうかもしれないわね…。ふふ。でもね、実のところ私も…心血注いで育てたつもりのあなたに去られて、迷いの中にあったのよ」

ー アナスタシアに偶然再会したのは、そんな時だった。

作品名:71 utopia 作家名:orangelatte