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BRING BACK LATER 5

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 いくら家事が趣味で、学校ではなんでも屋が定着しているという、普通の高校生らしからぬ生活を送っていようとも、士郎はいまだ多感な男子高校生なのだ。
 その顔でアーチャーとベタベタするなと、うんざりしてしまうこともある。
「それに、アーチャーもなー……」
 今はどちらかというと、アーチャーがシロウにかまいたがっているように見受けられる。いや、最初からシロウにかまっていたのはアーチャーだ。だが、今のアーチャーの動力は、シロウを引き留めた責任感から、というものではないように見える。
 昨日、食材の補充から帰るとシロウが家に居らず、アーチャーは荷物を玄関に置いたまま慌てて飛び出していった。
 シロウが目を覚ませばどうするのかとアーチャーはしきりに気にしており、買い物にもあまり身が入っていなかったのを士郎は目の当たりにしている。嫌な予感が的中し、アーチャーが飛び出したのも無理はない、と士郎も頷けた。
「……にしても、アーチャーの慌てっぷりったら、なかったなぁ」
 くく、と喉で笑い、
「あの英霊たちは、なーにをやってんだか……」
 と、呆れながも、どこか心地好さを含んだ声で独り言をこぼす。
「小僧」
「ひわっ!」
「なんだ」
 いきなりの声に、士郎は跳ね上がった鼓動のまま振り返る。
 不機嫌そうに、いや、常日頃から眉間にシワを刻んでいるから、これは通常運転なのだろう。
 アーチャーが、カウンターの向こうから声をかけてきた。
「な、なんだ、よ」
「邪魔だ」
「はあ?」
 士郎も思い切り眉をしかめ、褐色のサーヴァントをねめつける。
「朝食を作る。邪魔だ」
「今、俺が作ってんだよ! 邪魔なのはお前だ!」
「やかましい。未熟者の作る朝食など、食えたものではない」
「ってめえ……」
 ずかずかと台所に入ってきて、さっさと調理台の前に立つアーチャーに、士郎は怒りに震える拳を握りしめつつ、ふと思いつく。
「大丈夫なのか? あいつ」
 ぴく、と微かに肩が揺れたのを、士郎は見逃さなかった。
(こいつ、あいつのことになると、ほんっと……)
 内心ほくそ笑みつつ、士郎はアーチャーの返答を待つ。
「問題ない」
「そうか。んでも、一人で散歩とかされてもなぁ。子供じゃないっつっても、あいつ、危なっかしいしな」
「……もう、一人では行かないと言っていた」
 アーチャーの言葉に士郎は目を丸くする。
「なんだ」
 不機嫌に士郎を見下ろす鈍色の瞳は、どこか照れを含んでいるようにも見える。
「お前らさぁ……」
「な、なんだ、その顔」
 半眼でにやける士郎に、アーチャーは珍しくうろたえているようだ。
「中学生かよ」
「なっ……」
 二の句の告げないアーチャーに、
「大の大人が、それも英霊なんてもんがやることかよ」
 笑いを含んだ士郎の言いようにアーチャーのこめかみが引き攣る。
「貴様……」
「あいつもどっか子供っぽいとこあるけど、お前もなんだなー。頭撫でたら、もっと、とか言ってきて、あいつほんとにガキっぽく、っい、いでいでいで!」
 アーチャーの手が士郎の頭を鷲掴んだ。
「今、思い出した。貴様、アレの頭を撫でたそうだな。勝手に何をしてくれているのやら、未熟者のくせに」
「あ、あいつが、あんまりにもしおれてたからだろ! 誰かさんのせいでなっ!」
「む。貴様、このまま埋めてやる」
「てめえのことは棚上げかよ!」
 アーチャーの手を払い除け、押さえつけられていた頭を、士郎はどうにか上げた。
「もう放置はしない」
「本当だろうな!」
「本当だ!」
 なんだかんだと口論しつつ、朝食を作る手は休まない。
 衛宮邸の恒例となりつつあるエミヤシロウの言い合いは、時も場所も関係なしにはじまってしまう。
「あのぅ……」
 桜が訪れ、居間に入ったころには、すでに朝食も口論も佳境に入っている。
 台所に入れずに立ち尽くす桜が、そろそろ止めに入ろうかと思案する中、寝ぼけ眼の凛が居間の障子を開けて入ってきた。
「……なーに、やってんのかしらねー、朝っぱらからー」
 あくびを交えながら、凛は呆れつつこぼした。
「えーっと、そろそろ止めましょうか……」
 苦笑交じりに桜が言えば、
「いいんじゃない? 放っておけば。シロウが起きてくればアーチャーの気が逸れるし、セイバーが起きてくれば、士郎もセイバーの給仕に忙しくなるし、暇な時しかやんないんだから、その内におさまるわよ」
 凛は桜を誘い、座って待っていましょう、とテレビをつける。
 朝のニュースが垂れ流され、衛宮邸の居間に日常の朝が来た。
「おはようございます!」
 きりり、とした声に続き、
「ぉはょ、う、ござ……ぃま……」
 まだ半分居眠り気味の声が居間に入ってくる。
「おはよう、セイバー。あー……っとシロウは、まだ、寝てるのかしら?」
 セイバーに介助されるように座卓についたシロウは、いまだ、こくり、こくり、と舟をこいでいる。
「迎えに行ったの?」
「いいえ。私が部屋を出ると、前をフラフラとシロウが歩いていたので連れてきました」
「そ。ちゃーんと、一人で起きてこられたのね? よしよし」
 凛はシロウの黒く染められた頭を撫でる。
「凛」
 すかさず台所から咎める声がする。
 凛がその声の主を見上げると、勝手に触るな、とその顔にびっしりと書き連ねたアーチャーが台所から出てくる。
「いいでしょー、頭撫でるくらいー」
 いまだ項垂れるような格好でゆらゆらと揺れるシロウの頭を撫でながら凛はほくそ笑む。
「いいわけがない」
「なんでよー」
 朝食を運んで来たついでに、アーチャーは凛の手を掴んで除ける。
「けちー」
 凛は不貞腐れながらも、それ以上は何もせず、おとなしく配膳を待つことにした。
 昨日から、シロウはほんの少しだが、表情を表すようになった。
 表情といっても、不快、気にくわない、困る、むくれる、その程度のことだけではあるが、凛は進歩だとシロウを褒めた。
 凛曰く、“この子は褒めて伸びる子なの”だそうだ。
 そして、アーチャーはもう少し多くの表情を見た。
 照れる、求める、気持ちがいい、そして、僅かながらだが不器用な笑み。
 抱き合う時にしか見られない表情をアーチャーは知っている。
 そのうちに誰の前でも穏やかに微笑むくらいはできそうだと思いつつ、アーチャーは誰にも見せたくないと本気で思っている節がある。
 擦りきれて何もかもを捨て去った英霊は、ここにきて独占欲なるものを習得したようだ。
「士郎、起きろ。味噌汁に顔を突っ込むことになるぞ。いいのか?」
 その声の優しいこと……、と居間の面子は苦笑だったり、半眼だったりしつつ、当てられてしまう。余所でやれ、と士郎は口に出さないものの、確実に思っている。
 アーチャーに揺すられ、シロウはぼんやりと顔を上げて、目をこする。
「…………、あ……れ?」
 きょろり、と食卓を囲む面々を見渡し、すぐ傍のアーチャーを見上げ、シロウは首を傾げる。
「どうした?」
「俺は、いつ……ここに、来た?」
 居間まで来たことを覚えていないようだ。
「歩きながら寝るとは、たいした根性だな」
 と、微笑を浮かべるのはアーチャーだけだ。
作品名:BRING BACK LATER 5 作家名:さやけ