銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅱ
ヤマトは無事出航したが仕事以外の事で誰も進に声をかけられない状態だった。
1年前にイスカンダルを脱出して太陽系内に戻ってきた兄守を永遠に失ってしまったのと最愛の恋人のユキが行方不明…それも限りなく戦死に近い消息不明だ。ヤマトの発進プロセスは否応なしに脳にインプットされている。新しいエンジンやワープシステムの説明も脳に入ってくるが"すごい"とか"早く試してみたい"とかそんな感情はなく淡々とした感じだった。兄が亡くなって悲しいが"悲しいという感情はこんな感じだったんだろうか"と自分の感覚に戸惑っている自分が居ることに気付く。なにか問いかければ答えるが時々遠くを見るような目になり焦点が定まっていない時があった。
「古代…少し休め。」
島が声をかける。島の声に進が島の方を振り向いたがやはり生気のない顔だ。
「あぁ…そうするよ。南部頼む。」
進は夜眠れない状態が続いていたので重たい体を引きずるように第一艦橋を出ていった。
「お義伯父様…」
澪が真田に声をかける。
「あぁ…」
真田が頷くと澪も第一艦橋を出ていった。
進は自室に戻らず格納庫にいた。
「加藤…俺の機はどれだ?」(進)
「はい…カタパルトにすぐに上げられるよう上段の角であります。」
加藤が敬礼しながらすぐに反応する。
「わかった。」
進は短くそう答えると真田に連絡を取りヤマトの後方にエアードームを設定するよう頼み加藤に古代機をカタパルトに上げるよう指示を出した。
「ゼロを載せられなかったからな…よろしくな。」
カタパルトに上げられた古代機を見て表面を磨く。新しい艦載機は進の顔を写し出している。進は自分の顔を見ながら涙が出そうになりその涙をこらえるためにその自分が映し出された部分を必死に磨いた。目を閉じるとユキがこっちを見て微笑んでいる。そしてあの有人基地で再開した時の抱擁を思い出していた。
(なぜ…ユキは力を抜いたんだ?)
確かに被弾していたから痛みがあり力が抜けたのかもしれないがしっかり握ってくれていれば引き上げられたかもしれないのに…
手を離した瞬間の苦悶に満ちたユキの表情が忘れられない…
高速連絡艇はまず行き先を入力するようになっていた。イカルスと入力するがなかなか反応しない。その設定で時間がかかってしまったのとドームを開くパスワードが長く入力に時間がかかってしまったこと…。
進の閉じた眼から一筋の涙が流れた。
せめてメインクルーのなかでもうひとりでも発進プロセスを知っているヤツがいたらユキは被弾せず一緒にイカルスに来ていたことだろう…そう思うと悔やんでも悔やみきれなかった。
「寂しそうね…伯父様。」
そこへ後ろから声をかけられた。進はすぐに涙を拭いたが涙を見られたかもと思い冷たい対応をしてしまった…がそこで澪が自分がサーシアであることを告げる。澪はユキがいなくて残念だったが進に会えて嬉しかったのでできるだけ明るく進の接しようとしていた。しかしそこで父守の戦死を聞いてしまい進の胸に飛び込んで思い切り泣いた。
(たったふたりの家族になってしまった…)
せっかく家族が増えたのに…これから家族になる人がいたのに進はサーシアがそばいいるとわかったのに心から喜べない事に気付き改めてユキの存在がどれだけ大きかったか実感したのだった。
〈古代戦闘班長…聞こえますか?〉
羅針盤から声が聞こえた。声の主は南部だ。
「どうした?」(進)
〈索敵機から敵要塞らしきものが見つかったと報告がありました。〉(南部)
「わかった。コスモタイガーを発信させ敵要塞を叩く。俺はカタパルトからこのまま
出撃する。準備を頼む。」
進が南部に指示を出すと南部はすぐ"了解"と返事をしてコスモタイガーに出撃命令をだした。それを聞きながら進もコスモタイガーに乗り込んだ。
「澪、もうすぐこのエアードームも解除される。早く第一艦橋へもどりなさい。」
進がヘルメットをしながら澪に伝えると澪はさっきまでの涙をしっかり拭いて敬礼して走って戻っていった。
作品名:銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅱ 作家名:kei