銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅱ
翌日オペをしたドクターがユキにケガの様子を説明した。ユキは自分がどれだけの高さから落ちたのか思い出すとこうして生きていることが奇跡だと思った。全身のMRIのような映像をみて複数の複雑骨折と内蔵のダメージにショックを受けた。
(普通ならオペなんてしない…だってあの様子じゃ助からない…この星の医療は
どれほど進んでいるんだろう…)
イスカンダルも医療技術はかなり進んでいた。地球ではほぼ生還できないと言われていた宇宙放射線病を治す治療法があった。しかし今回は物理的に助からない案件なはず…ボロボロな肉体を高度な医療技術を使ってまで治したのはなぜ?
素朴な疑問だがそれを聞いても誰も答えてくれないであろうことは簡単に想像できた。
(私は生かされた…きっと私にしかできないことがあるはず…)
ユキは説明を聴きながら自分の置かれている状態を把握する。
(あの少尉は情報将校だと言ったわ…)
ユキは説明を聞きながら窓の外に目を向ける。遠くにオレンジ色の光を発したあの忌々しい爆弾が見え目線的に小高い丘にこの邸宅があることが分かる。場所を考えると立地条件のいいところに住まわせてもらえるということは敵のなかでも重要人物なのではないかと推測した。
(あの爆弾の秘密がここにあるかもしれない…)
一通り説明が終わりユキがどんな治療をしたのか聞き使った薬を説明させる。時々痛みで意識がなくなりそうになるがそれを必死に耐え自分の体がいまどうなっているのか確認する。
「地球の薬を使って欲しい。」
最後に質問はありませんか、と聞かれユキがそう答える。
「これ以上自分の体に知らないものを使われるのはイヤです。」
起きている時間が長くかなり無理しているのが自分でもわかる。強く自分は伝えているつもりだが声が震えているのが分かる。
「我々の薬を使えばすぐに治る。」(ドクター)
「今後あなた方の薬を使うなら治療を拒否します。」(ユキ)
ドクターはアルフォンの"この体を王女へ"と言われているので体は完璧に治さなくてはいけないと思っている。
「地球の薬を使うとなると治りが遅くなるが?」
ドクターは治る時間が長引いても元の美しい体に戻すことが先決と判断しユキにそう伝えた。
「それでもいいわ。あなた方はすでに知っていると思うけど地球防衛軍の隣が病院で
そこの地下に薬品貯蔵庫があるの。そこに行けば○○という薬があるからそれを
使ってください。それと…。」
ユキが薬の名前をいくつか並べる。鎮痛剤と解熱剤も忘れずその中に含む。
「その薬この部屋に全ておいてください。」
何かその薬に含まれたらと思うと恐ろしいので自分で保管したいと申し出ると
「わかりました。」
ドクターはそう短く答えユキの部屋を出て行った。衛兵がひとりユキの部屋に残り汗をふこうとする。
「大丈夫よ…自分で出来るわ。」
そう言ってタオルを受け取ろうとしたが力が入らずブランケットの上に落ちた。
「無理してる。私に任せて薬が来たらそれを使って寝た方がいい。熱とても高い。」
衛兵は落ちたタオルを拾うとユキの額の汗を拭う。
「無理すると治りが遅くなる。包帯取り替える。」
衛兵は慣れた手つきでユキの包帯を取り替えると背中を支えてユキを寝かせた。
「…ありがとう。ちょっと楽になったわ。」
ズキズキと肩の奥が痛む。肩の奥からにじみ出るような痛みでユキは意識を失った。
「目が覚めたようだな。」
ユキは人の気配で目が覚めた。右腕を見ると点滴が刺さっている。薬のラベルを見るとアルファベットで書かれていたのでほっとした表情になった。
「熱があると聞いた。」
アルフォンが静かに問う。ユキは答えず点滴を見つめる。ドクターと話した時に比べると随分楽になってはいるがまだ熱はある。
「だいぶ下がったと思います。」(ユキ)
「地球の薬を使って欲しいと言ったそうだな。」(アルフォン)
「傷を治して頂いたのは感謝していますがこれ以上自分の知らない薬を体に入れたく
ないので…。」(ユキ)
「まぁいい。ここでゆっくり養生すればいい。」
アルフォンの言い方に違和感を感じたユキにアルフォンが尋ねる。
「なにか…言いたいことでもあるかね?聞きたいこととか?」
ユキは長官や進の兄、古代参謀がどうなったか聞きたかったが言葉にならなかった。もし生きていれば何かしら行動を起こしているはず…と。
(潜んでいるなら地下都市かしら?この人達は地下都市の存在を知ってるのかしら)
素朴な疑問がユキの脳裏をめぐる。
「ケガが治ったら私はどこへ行くのでしょうか?」(ユキ)
「どこへ?とは?」
アルフォンが不思議に思い聞きなおす。
「ケガが治ったら収容所へ行かされると…」
作品名:銀河伝説 (新たなる旅立ちの後) Ⅱ 作家名:kei