第二部 レーゲンスブルグ編1(74)であい
C/W その頃ユリちゃん(とアレクセイ)は…#0 ~特等席~
「えっ?!」
これから三人で暮らす新しいアパートに移り、寝室を目にしたユリウスが思わず固まる。
同志が手配してくれたサンクトペテルブルクの三人の新居は、アパートの3階の一室で、リビングダイニングの他には個室が2つという、最低限の間取りのものだった。
2つの個室に三人の住人。
必然的にアルラウネが一室を使い、もう一室を、夫婦同然の二人が使うという事は、頭では理解しているもののー、改めて二つの枕が並べられたベッドルームを目にすると、つい狼狽えてしまう。
ベッドルームの前で固まるユリウスに、
「ドイツのアジトは、部屋数も多かったから、あなたの部屋を確保できたけど、ここではそういう訳にはいかないのよ
。それとも、あなたと私が同室になって、アレクセイを一人部屋にする?」
…言っとくけど、三人が住める部屋を手配してもらうの、けっこう大変だったのよ?いちいち同志にも詮索されるし。
少しおどけたように二人の顔を順繰りに眺めながらアルラウネが二人の反応を伺う。
「ダメだダメだ!それは却下!」
アルラウネのその提案にアレクセイが相変わらず固まったままのユリウスの肩をグイと抱き寄せる。
「…ですってよ?ユリア。あなたも勿論異論はないわね?じゃ、お休みなさい。あなた達も長旅で疲れたでしょう?早く休みなさい」
そう言うと、アルラウネはさっさと自室に引っ込んでしまった。
そして二人の寝室ドアの前にユリウスとアレクセイが残される。
「ま、いつまでもここに突っ立ってるのもナンだから、入ろうぜ」
「う…うん」
アレクセイに手を引かれ、寝室に足を踏み入れる。
ダブルサイズのベッドの他には暖炉とワードローブとサイドテーブルだけの簡素な部屋だが、カーテンもベッドリネンも清潔で気持ちが良い。アルラウネがユリウスのために気を遣ってくれたのだろう。ドレッサーこそないが、壁に大きめのミラーが据え付けられている。
アレクセイは着ていた服をその辺にぱっぱと脱ぎ捨てると、夜着に着替えてベッドに潜り込む。
「もう…。アレクセイってば」
アレクセイが脱ぎ散らかした上着やズボンを集めてハンガーに掛けているユリウスに、
「来いよ、ハニー」
と、アレクセイがベッドの空いているスペースをポンポンと叩く。
「…着替えるから、あっち向いてて…」
そんなアレクセイにユリウスが消え入りそうな声で返す。
「はいはい」
アレクセイの返事を背中で聞きながら、ユリウスがのろのろとドレスを脱いで夜着に着替え始める。
作品名:第二部 レーゲンスブルグ編1(74)であい 作家名:orangelatte