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第二部 2(75)近づいてゆく距離

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アーレンスマイヤ家を辞して寄宿舎へ戻ったダーヴィトは、夕方人気のない校舎の裏へ、煙草を吸いに行った。

そこは寮生たちの喫煙場所で、街を去る前のクラウスもよくここで一服していたものだった。

ダーヴィトがポケットから煙草を取り出し一本口にくわえる。
マッチを擦ろうとしたまさにその時、人の気配がして思わずダーヴィトはくわえた煙草ごと建物の物陰に隠れた。

その人気のない校舎の裏にやって来たのは…、二人の男性だった。

「…それでヤーコプや。ダーヴィトは、あの家の長姉に何を話していたのかね?」

年配の方が口にした自分の名前に、思わずダーヴィトは耳を疑う。
おまけにこの声は…なぜ?!
物陰からダーヴィトは二人の人物を確認しようと目を凝らす。

殆ど沈みかけた日はその人物らに濃い影を落とし、顔がいまいち認識できないが一人はシルエットから初老の人物、そしてもう一人はそう年配ではない若い男。
確かにそのシルエットは校長、ハインツ・フレンスドルフ氏のものに違いなかった。
そして彼と一緒にいる男は、今日の午後自分たちの事を見張っていたあの下男―。
物陰から息をひそめるようにして、二人の言動に耳をそばだてていたその時―。

― ハッハッ…

不意に足元に生暖かい吐息を感じた。

「!!」

足元に纏わりついていたのは、校長の愛犬のダックスフントだった。

咄嗟にダーヴィトは足元の木の枝を拾って、それを放り投げる。
放り投げられた木切れを追いかけその犬がダーヴィトの足元を離れた。

「これ、ブラックスや…。どうしたんだい?」
愛犬の様子に校長が会話をとめ、犬に話しかける。
犬のくわえている木切れに目を止め、

「なんだ。遊んでほしいのか?それ!」

校長は、愛犬の咥えていた木切れを投げた。

結局それ以上の話をすることなく、校長とそのヤーコプという下男は別れて行った。