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霓凰譚(仮)

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穆王府軍を討つ為に、イカダの上に乗っていた南楚の歩兵や騎馬兵もイカダと共に流されていった。
霓凰は立ち上がり、その状況を見ていた。
退路が無くなり、こちらに取り残された南楚兵はうろたえている。
戦況が悪かった穆王府軍の士気が上がり、そこに江左盟も加わり、瞬く間に、取り残された南楚兵は制圧された。
対岸の南楚軍は成す術もない。
一体何が起こったのか、霓凰は混乱しているが、江左盟が奇策を講じてくれたのだろうと思っていた。

一気に状況は変わってしまった。意気消沈した一千近くの南楚兵は一箇所に集められ、今後の処断を待っばかりだ。
撤退の令を出してくれていたお陰で、穆王府軍は濁流にのまれた者はほとんどおらず、被害も最小と言えよう。

「間に合って良かったですよ。」
黎綱が言った。霓凰の息がようやく整った。
「陛下も急ぎ調整した援軍だったので、連絡が間に合わなかったのですよ。長林軍と禁軍がこちらに向かっていますが、橋の様な物は流れてしまいましたし、到着しても援軍は何もすることは無いですね。」
「しかし、援軍で頭数が増えれば、居るだけで講和が有利に運べますしね。」
黎綱が静かに、これまでの経緯を話し始めた。
霓凰は兜を脱ぎ、話を聞く。

江左盟の配下は南楚にもおり、早々に青冥関への侵攻の情報は入っていたのだった。そしてこのイカダ状の橋が架けられることも掴んでいた。
大渝の国状や梅嶺の状況から、援軍が中々難しいだろうと判断して、江左盟が単独で動いていたのだと言う。
それならそうと一言あっても良さそうなものだが、やはり穆王府にもあちこちからの間者は潜入しており、敵側を欺くための策でもあり、知らせなかったのだと。
あの濁流は、暫く前から江左盟が川の上流の支流四本を堰き止めていたのだと言う。南楚軍がイカダの橋を架けると同時に堰を切って、一気に流したのだという。
道理で川の水量が少なかった筈だと霓凰は思った。あの大笛の音は、一斉に堰を壊して流す合図だったのである。その為、穆王府軍が濁流の巻き添えにならぬ様に、撤退の鐘を鳴らしたのだと言った。
上流を探りに行った穆王府兵は、恐らく堰を決壊させる手伝いをしているだろうと。
霓凰は、そうだったのだ、と合点が入った。

不意に背後から肩を叩く者がいた。
振り返ると飛流だった。飛流の背は伸び、黎綱と同じ位か、幾らか大きいか。霓凰は見上げねばならない。
飛流はどこかを見て、その方向に指を指していた。
指の先のはるか遠くに、、、、遠くに誰かが居る。誰かが馬に乗り、森を外れた草原にいた。その者はただ一人、その者もこちらを見ている様だった。遠くて誰だかは分からない、、、。

だが、霓凰はハッと息を飲み、近くにいた馬にひらりと乗って、その者の方に一心に駆けて行った。



*****四**********

━━━━━霓凰が来る。━━━━━━

その者は馬を降り、霓凰を待っていた。

━━━━━この距離でも私が分かったのだな。
もっとも私でも霓凰が何処に居るか、どうなっていたか分かったが。
火寒ノ毒に冒される前の身体であったなら、飛んで行って私が助けていた。
霓凰の無茶も昔から変わらぬ。飛流が間に合わねば本当に危うかった。
霓凰の姿は昔から、目が追ってしまっていた。何をしていても、どんなに離れた所にいても、何処に居るかはひと目で分かる。私の心は霓凰でいっぱいで、姿を追わずにはいられなかった。
昔から愛おしく大切な存在だった。霓凰の見ているもの、霓凰の触れるもの全てが気になって仕方がなかったな。

霓凰はきっと、私が梅嶺で果てたと思っているに違いない。
確かに梅長蘇はあの地で果てたのだ。そして皆の前で葬られた。

三月どころか、梅嶺に到着してから冰続丹の力と藺晨の尽力を以てしても、頑張りはふた月と持たなかった。限界は忘れずにやって来た。私は倒れ昏睡状態となった。
これは梅嶺に行く前から予見が出来ていた事だったから、然るべき用意もしておいた。
援軍の知らせも届いていた。軍帥の私を葬ったという情報は、どんなに秘密にしようとたちまち大渝へと流れてゆくだろう。
大梁軍の軍帥が死に、軍の統率がしきれないでいるという情報に、大渝軍はまんまと引っかかり、攻めて来た。赤焔事案が起こったあの大渝戦でも、戦は膠着状態となり日を追うごとに大渝兵は増してゆき、二十万まで増えていった。その事態だけは避けたかった。
梁軍は、私が死んで意気消沈するどころか、弔い合戦宜しく力を振り絞って戦ってくれたのだ。
そしてそこに援軍が到着し、梅嶺戦はそこで決したと言えよう。
その様に道筋を立てておいたが、蒙兄も私が遺した通りに動いてくれて、梁軍を勝利に導いてくれたのだ。その後も往生際悪く大渝が何度か仕掛けてきた様だが、蒙兄や戦英等に、この梅嶺のどの地形を使ってどう戦えば良いか、全て伝えた。上手く戦い撃退したと聞いている。
もうその辺は私はとっくに死んでおり、かの地へ葬られている筈だったのだ。
昏睡状態に入ってからの事は、その後に聞いたことだ。
私の意識が無くなると、藺晨の父が、、、老閣主が梅嶺を訪れたという。老閣主は私を仮死の状態にして山を下ろし、琅琊閣まで運んだ。
老閣主は長い間、梁国内や諸外国を旅する間に、寒ノ気の治療法を探していてくれたのだ。
琅琊閣に戻っても、とうに限界を越していた私の身体を、意識が戻るまで回復させるのは相当大変だったと、今でも物凄く愚痴られる。
見込みは無いと何度も折れかけたと。
意識が戻ったのは春も過ぎた頃だった。献身的に治療をしてくれたのだ。
意識は戻っても酷使した身体は中々戻らず、寝たきりの状態だったのだ。体力を戻すまでも一年以上かかった。それから寒ノ気を消す治療を始めた。これもまた大変な治療ではあったが、老閣主は色々と試してくれ根気強く効果のある治療を続けてくれた。

霓凰に生きている事を知らせろと、回りの者からは言われたが、あの様な姿で霓凰と会うのは、男として嫌だったのだ。お前を守れる姿になってから会いたかった。━━━━━━



霓凰は馬を駆け、その男の元へ近づいて行く。
予感と疑念は確信に変わってゆくが、ただ怖かった。
─────夢なのだろうか、、、、、。──────
─────本当は私は死んでしまって、彼が迎えに来たのだろうか、、、。─────

男は誰とも違う様な、、、それでも多分あの人なのだ。
その姿は梅長蘇だが、見るからに病弱で蒼白く痩せていたあの梅長蘇ではない。少し陽に焼け、梅長蘇とはまるで別人の様な男だった。
あと三十歩も歩けば男の目の前にも行けようが、そこで馬を止めて降りた。
この度の南楚との戦以上に訳が分からない。

─────林殊兄さんにしか見えないけれど本当にそうなの?。梅長蘇として梅嶺で亡くなり、葬られたのは大勢が見ているわ。眠る様に苦しまず亡くなったのだと。──────

霓凰は不安が先に立ち、直ぐにも駆け寄り確かめたかったが、怖くて出来なかった。ゆっくりと一歩一歩、男に近づいて行った。
涙が溢れる。そうであれば良いという思いと、もしそうであってもどうして良いのか分からない、そして似ている別人だったらどうしよう、考えは霓凰の脳裏を巡り続けた。
作品名:霓凰譚(仮) 作家名:古槍ノ標