永遠にともに〈グリプス編〉8
パン!パン!と銃声が劇場内に響く。
シロッコがアムロに向けて発砲したのだ。
「うっ!」
「アムロ!!」
アムロの身体を激痛が走る。
尚も発砲しようとするシロッコに、駆けつけたファとカミーユが銃を発砲するとシロッコは劇場を去って行った。
左の鎖骨下辺りを腕で押さえながらアムロが膝をつく。その指の間から血が溢れる。
「アムロ!!」
駆け寄りアムロを支えながらシャアが悲痛な声を上げる。
「大丈夫だよ。シャア。急所は外れてる。弾も抜けてるよ。それより早くここを出よう」
荒い息を吐きながら呟くアムロに応急処置を施す。
そんなアムロを悲痛な表情で見つめるハマーンに気付いたアムロがそっと微笑む。
「大丈夫ですよ。ハマーン様…。ありがとうございます。」
「アムロ…」
ハマーンは拳を握りしめ、踵を返すとその場を後にした。
section13 宇宙に散って
アムロ達はそれぞれの機体に乗り込むとグリプス2を飛び出して行く。
しかし、それをシロッコのジ.Oとハマーンのキュベレイが追う。
ジ.Oへとライフルを放つカミーユにシャアが叫ぶ。
《構うな!カミーユ!レーザーが間も無く発射される!グズグスしていると発射に巻き込まれるぞ!》
《大尉は先に行ってください!オレはここでシロッコとハマーンを仕留めます!!》
《バカなことを言うな!》
《大尉こそ!みんな平和になることを信じて死んでいったんです。貴方にはまだやることがあるでしょう!!俺も貴方を信じますから!》
《カミーユ!歴史を作るのは老人ではない!君のような若者が死んでどうする!?》
《でも!!》
尚もシロッコとハマーンへと向かって行こうとするZガンダムにアムロの零式が近付く。
《カミーユ!ブライトさんがオレ達がここを出るのを危険を承知で待ってくれている。みんなの為にもここは一旦引け!!》
アムロの言葉に少し冷静さを取り戻したカミーユは悔しい表情を浮かべつつも従う。
《…分かりました》
そして、カミーユ達がコロニーから出た来たのを確認したブライトがグリプス2へとコロニーレーザー発射の指示を出す。
「コロニーレーザー発射!!」
コロニーレーザーから発射されたその光はティターンズの艦隊を次々と飲み込んでいく。
その光の中で消えて行く命を思いながらアムロとカミーユは胸を押さえる。
「人の命があの光に吸い取られて行く…」
カミーユの呟きにアムロが「ああ…」と頷く。
それはかつて、1年戦争の時に見たソーラレイの光と同じだった。
そして、体制を立て直す為、撤退しようとするシロッコをその視線の先に捕らえる。
「パプテマス・シロッコ!!」
叫びと共にカミーユがシロッコへと攻撃を仕掛ける。
《逃すか!!目の前の現実も見えない大人が!!》
Zガンダムとジ.Oがビームサーベルで激しく打ち合う。
《賢しいだけの子供が何を言う!》
《黙れ!!》
シロッコの攻撃に被弾するZガンダムをアムロの零式が援護する。
《カミーユ!大丈夫か!?》
《アムロさん!!》
《アムロ・レイか?ふふん。腹に弾を2発喰らってもまだ向かってくるか!》
その言葉にカミーユがハッとする。
『2発!?鎖骨の下以外にも撃たれていたのか!?』
《アムロさん!?》
アムロは額に大量の汗を浮かべながら脇腹を押さえる。
あの時、シロッコの放った弾丸は鎖骨の下を貫通し、もう1発、脇腹をも撃ち抜いていた。
弾はまだ体内残り、アムロに激痛を与えている。
《カミーユ!集中しろ!シロッコを仕留めるぞ!》
アムロに叱責されカミーユは不安の色を浮かべながらもシロッコへと向き合う。
《検体ナンバー001!Zガンダムを倒せ!》
シロッコの命令にもアムロは従わずジ.Oへとライフルで攻撃する。
《なに!?》
《ふっ、流石に痛みで催眠暗示なんて吹っ飛んだよ!》
シロッコは舌打ちするとアムロの零式へと体当たりを食らわせる。
「あうっ!!」
その衝撃でアムロが吐血し動きが鈍る。
そこをジ.Oのビームが遅い零式は左腕と右脚を失う。
《アムロさん!!》
コックピット内のアムロの様子を透視たカミーユが悲鳴を上げる。
腹からの出血と吐血した血がコックピット内を丸い粒となって大量に浮遊し、アムロが荒い息を吐きながら蹲っていた。
《シロッコ!!お前だ!!いつもいつも脇から見ていて人を弄んで!!》
カミーユは逆上しZガンダムをジ.Oに向ける。
《勝てると思うな!小僧!!》
《俺の命に代えても!身体に代えても!こいつだけは!!》
サーベルで斬りかかるZガンダムにジ.Oのビームが襲いかかる。
「くっ!!」
と、そこにエマの声が聞こえる。
『だからいけないのよ!冷静になりなさい!』他にもライラ・ミラ・ライラやカツ、レコア、ロザミア、フォウ逹の…懐かしい声がZガンダムのコックピットに響き渡る。
「みんな…、みんなにはわかる筈だ!今日という日にこの男は生きていてはいけないと!!みんなに俺の身体を貸すぞ!!」
Zガンダムに蒼白い光がいくつも集まっていく。それは戦争で命を落とした人々の思いの光だ。その光がZガンダムを包み込み、カミーユのニュータイプ能力を増幅させていく。
《何だ!あの光は!》
その異様な気配にシロッコが怯む。
そして、それを見たアムロも驚愕の声を上げる。解放され膨れ上がるカミーユのニュータイプ能力がカミーユの身体を包んでいたのだ。
《ダメだ!カミーユ!!それ以上力を解放したら君が保たない!!》
血を吐きながらもカミーユの元へ向かうアムロの行く手をカツが阻む。
「カツ!ダメだ!行かせてくれ!カミーユが!!」
『アムロ…。あの時、ア・バオア・クーでアムロが身体を張って僕たちを守ってくれたようにカミーユもみんなを守りたいんだ。カミーユは僕たちを受け入れてくれた。だから、任せて!』
「だけど!」
叫ぶアムロを激痛が襲う。
「ううっ、カミーユ!!!」
みんなの魂を纏ったZガンダムはウェイブライダーに変形してシロッコのジ.Oへと突っ込む。
そしてそのコックピットを貫きシロッコをも貫いた。
「私だけがここで死ぬのか…。貴様の心も連れていく!!カミーユ・ビダン!!」
呪いの言葉を吐きながらシロッコは絶命し、ジ.Oは大きな爆音をあげて爆発した。
その光景を見ながら、アムロはカミーユの乗るZへと視線を向ける。そして、目を見開き驚愕する。
「カミーユ!!!」
カミーユの心がそこに無いのだ。身体はあるのに精神がそこに無かった。
コックピットの中に透視えるカミーユはまるで子供のような目をして呆然としている。
「あっああああああああ!!!」
アムロの声が響き渡る。
その声を聞いたファが零式へと近寄る。
『アムロさん!?カミーユは?』
『ファ…。カミーユは…カミーユは…。』
アムロはそれ以上言葉を続ける事が出来ない。
ファは接触通信でZのカミーユへと声を掛ける。そして、カミーユの様子がおかしい事に気付く。
「カミーユ!?カミーユ!!」
ファの叫びを聞きながら、呆然とカミーユを見つめるアムロはシャアの危機を察知する。
「シャア!?」
アムロはファへとカミーユを任せると操縦桿を握り、シャアの元へと向かった。
その頃、シャアもまたハマーンと対峙していた。
《シャア!!》
作品名:永遠にともに〈グリプス編〉8 作家名:koyuho