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【青エク】ブラック・シャック

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 噂には、旧部室棟には守護神がいて、部活にはならないけれど、必死に活動をしたくて場所を求めているような生徒の味方になって、部室を使わせてくれるのだというものだ。
 だから、クウに出会った瞬間、私はここを選んだ。
 悪さをしようと集まった生徒に罰を与えるとも言われていて、確かに部室棟への出入りを辞めた彼らは、数日一様に恐ろしいものでも見たような顔をして大人しくなっていた。
 旧部室棟を使うことにした時、守護神の存在を思い出して恐ろしく思ったが、クウの世話する同好会、クウ部だ、と言い聞かせて足の竦む自分を奮い立たせた。
 守護神はどうやらそんな私の希望を聞いてくれたらしい。今の所なんの問題起こっていないし、罰も食らっていない。
 そうよ、何も悪いことしてない。大丈夫よ。

「兄さん? どうかした?」
 奥村雪男が双子の兄、燐の様子に問いかける。出雲もそして他の塾生達も燐を見た。その本人はどこだか判らない宙を見つめている。普通ならぼんやりしたちょっと頼りない人かアブナイ人か、中二病を疑うところだが、残念ながらこの男のこう言う顔は本当になにかある時だから、油断がならない。
「奥村、なしてん」
 勝呂が重ねて尋ねる。
「うーん」
 歯切れが悪い。
「夕飯の買い物とか考えてんじゃねーだろーな」
 珍しく宝のパペットがからかうように悪態を吐く。だが、その言葉にも燐はうーん、と何とも言えない返答をして、仕舞いには偉そうに腕を組んで首を傾げる。
「あっ! なんかいるようないないような?」
「それ!」
 杜山しえみの言葉に、意を得たりと言わんばかりに声を上げた。
「なんかチリチリすんだけどなー……」
 燐はそう言ってまた視線を宙に彷徨わせる。あっちなんだよなー、と指差したのは学校の外れにある旧部室棟だ。生い茂った林の中から随分古い意匠で建てられた建物の一部が覗く。
「ああ、旧部室棟」
 子猫丸が燐の指先を見て洩らす。立ち入り禁止となっているが、密かに同好会が多く集まっているとの噂だ。
「ああ、旧部室棟、守護神がおるんやっけ?」
「なぁに、それ?」
 廉造が洩らした言葉にしえみが興味を持ったように問い返す。
「旧部室棟は、単にたまり場が欲しいような集まりだと、エライ目に遭うらしいんよ」
「逆にちゃんと活動したい同好会が残れるようになってるらしいわ」
「ま、ホンマは立ち入り禁止やさかい、センセに使わしてほしい言うても許可されんし、あそこでエライ目に遭うた言うても、逆に咎められよりますから」
 廉造、勝呂、子猫丸の言葉にしえみが驚いて目を丸くした。
「それで守護神かぁ……」
「確かに守護神の噂は聞いた事があるわ。けど、奥村がチリチリするってのはここ最近でしょ?」
 出雲の言葉に、弟の雪男が確かに、と頷く。
「悪魔なのは間違いねー」
 燐がうん、と自分で確認するように頷いたが、次の瞬間がっくりと肩を落とす。
「でも、そこいらに居る下級の奴らと同じくらいなんだよなー」
 つまりは、毎日チリチリと痒みを覚えているということだろうか。悪魔としての感覚はどういうものなのだろうかと不思議に思わないでいられない。
「シカト出来るやつはいーんだけど、たまになー」
「気配が違う、そんな感じやろか」
 ぼりぼりと落ち着かないように首筋を掻く燐に、子猫丸が助け舟を出す。
「そんな感じ! 子猫丸、やっぱアタマいーな!」
 お前の語彙が足りないだけだ! と出雲は腹の中で盛大にツッコむ。この少年は真っ直ぐな言葉で時々良いことを言うのだが、残念ながら時々で、普段はむしろ聞いていると言葉が足らなさすぎて、イライラするのだ。
「あんたは言葉が足りないって言うより、語彙が足らないのよ」
 燐が出雲の言葉に、うっ、と詰まって、困ったように視線をフワフワと彷徨わせる。
「誰かが判ってくれる、いや、もう自分だけが正しいって判ってれば、いっそ誰も判んなくていい、とか思ってんじゃないでしょうね。どこのヒーロー気取りよ、ナルシスト過ぎて鳥肌たつってのよ」
 出雲の言葉は、かなりの衝撃を燐に与えているようだ。もう言い訳しようとか、反論しようなどと言う意志も湧かないらしい。うぐぐ、と唸るばかりだ。
「それで黙って真っ先に突っ走ってくんだから、やめてよね。こっちに追求させないで、少しは自分で説明する努力をしろってのよ。…仲間なんでしょ」
 出雲の苛立ったような言葉に、燐が大きく見開いた目をキラキラさせる。ちょっと、なんなのよ、その目は。
「お前ってやっぱいいヤツだな、出雲」
「なっ…」
 視界の隅で、志摩がうんうん、と感じ入ったように頷き、杜山しえみと子猫丸が溢れた感涙の涙をハンカチで拭う。なにしてんのよ! しかも勝呂《ゴリラ》と奥村先生がものすごく真剣な顔をしている。ちょっと、やめてよ。
「出雲…」
「うるさい! ストップ! 黙れ!」
 慌てて遮る。いいヤツとかいい話とか、そんなつもりないんだから!
「出雲ちゃん、顔真っ赤やで」
「黙れって言ってんでしょ!」
 かぁわいい~なんぞと言ってからかって来たピンク頭のダブルスパイのにやけた顔が腹立たしくて、思わず怒鳴る。
「照れたかて、そない怒鳴らんでもエエやん~」
 ぼそりと呟くが、黙殺する。ついでに踵を返して彼らから立ち去る。まったく、なに言ってんのよ、あいつら! 良い人とか可愛いとか冗談じゃないっての! 可愛いってのは……。
 ふと、あの日見た悪魔を思い出す。
 ぽわぽわとした真っ黒な毛玉のような体に、小さな小さな足。子犬のような顔つきのキラキラとしたつぶらな瞳で見つめられて、例え悪魔だろうが、可愛いと言わずにいられる者があるだろうか。
 そういえば、あの子は捕まった後どうなったのだろう。



 バタバタと廊下を走る。もうすぐホームルームが始まってしまう。
 と、前から歩いてきた数人の生徒の内の一人が、私を見て、ふと考え込むような、探るような目つきをした。
「あれ、奥村?」
「よー」
 友人の呼びかけに、一人の生徒が答える。と、一緒に居た彼の友人たちが「じゃあ」と言ってそれぞれの教室へ散っていく。特進クラスもいれば、普通のクラスの子もいて、男女入り混じってちょっと珍しい集団だ。
 残ったのが同じクラスの男子生徒だ。二学期が始まったころまでは、全く喋ったこともない。授業中は半分以上寝ているし、全寮制のくせに何故か男子寮には居ないという噂や、時々授業の途中で早退したり、クラスメイトたちの誰も喋ったことのない少し浮いた存在の生徒だったからだ。それが、文化祭のおにぎりと豚汁の屋台で学園長が仰天し、終日行列が絶えない料理の腕前を披露してからは、大分クラスに馴染んできている。そんな彼が更にまじまじと私たちを見つめてきた。
「お前ら……、何か飼ってる?」
 彼の一言にどきん、と心臓が飛び跳ねた。
「えっ……、な……っ」
「ちょ……っ、声が大きい!」
 私が狼狽えて言葉が出せない内に、友人がしっ、と口に人差し指を当てて奥村燐を制した。だが、その言葉は聞こえてしまったようで、まだ廊下に出ていた数人の生徒がこちらを見ていた。学校内は勿論、寮でも動物を飼ってはいけないのだ。だからこそ、クウは旧部室棟で面倒を見ている。