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【青エク】ブラック・シャック

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 いや、『良い』悪魔って言うのは、それこそもう『悪魔』じゃない気がする。ちょっと待って。グリモアに影響されすぎかも。他の宗教の神が悪魔って認識されてる場合もあるから、悪魔は必ずしも『悪』の存在でもないのよね。この後の展開がちょっと楽しみな少女マンガも、『良い悪魔』が出てくるっけ。
 ああ、そうだ。キュンキュンと胸がときめくような少女マンガを読む活動をここで始めたら、認めてもらえるかしら。皆で持ち寄って交換して読んだり、感想を話し合ったりとか……。出雲は一瞬脳裏に過ぎった考えをすぐに払う。
 ――なに考えてんの。それより、今は任務に集中しなきゃ。
「奥……、だよな?」
 燐が遠くを見つめてぼそりと呟く。旧部室棟では電気と水道が使えるが、照明がない。立ち入り禁止にした際に取り外したままの廊下は既に闇に沈んでいる。それぞれ懐中電灯を持って建物の中を進み、ある程度進んだところでケミカルライトを設置する。だから行く手は暗い。老朽化で剥がれた壁の漆喰や、割れた床材が踏みしめられる音が小さくする。懐中電灯が照らし出す廊下は、左右に扉が等間隔に並んでいた。それぞれの扉の上には、室名札とそれを止めていた金具があった。一部のプレートは既に落ちてしまって金具だけが残っている部屋もある。
「兄さん?」
「悪魔がいる……。結構力の強いヤツ」
 雪男の言葉に燐が、先の見えない廊下の奥を真っ直ぐに指差す。
「本当か?」
 隊長の声に燐がうん、と力強く頷いた。
「よし、皆油断するな」
 隊長が隊員たちに檄を飛ばす。いよいよか、と更に緊張が張り詰めた。
「けど、ヤバイ……な。えーっと……、ゴメン!」
 え? と燐の言葉の意味が何がなんだか誰も理解できないうちに、燐がだっと駆け出す。
「兄さん!?」
 辛うじて雪男が問い質すように、叱るように呼ぶことが出来ただけだ。
「い……、行くぞ!」
 隊長もそれなりに経験を積んだ祓魔師だ。すぐに正気に戻ると、他の祓魔師たちを促して燐の後を追った。
 燐が壁に空いた大きな穴から部屋に飛び込んだかと思うと倶利伽羅を抜き放つ。そして青い炎を纏わせた刃を振るった。
「サタン・フラッシュ!」
 燐の声の後に、きゃあああっ! 甲高い悲鳴が部屋の中から聞こえた。
「人がいるぞ!」
 討伐隊の祓魔師が怒鳴る。喉が裂けるのではと心配になるほどの悲鳴が、何度も何度も耳を打つ。声の感じではどうやら生きてるようだ。ほっとした安堵と、早急に救護しなければという緊張が討伐隊に走った。どのくらいここにいたのか知らないが、恐らくは悪魔を見た恐怖で錯乱したために、叫んでいるのだろう。
 出雲は魔法円を書いた札を出して、使い魔のミケとウケを呼び出す。隣でしえみも使い魔を呼び出している。
「私たちが悪魔をひきつけるから、君たちは被害者を」
 被害者を助けるのも大事な任務だ。助けに向かう途中にこちらが攻撃を受けないとも限らない。気の抜けない場面であるのは間違いない。
 部屋の中は燐が振るう刀の青い炎が縦横無尽に流れて、同時にぐおう、がぁ、と動物が吼えるような声、そして青い炎が照らし出す真っ黒な悪魔の姿が見えていた。あんなに可愛い姿だったのが、こんな恐ろしい姿になるなんて。飼い方を間違えると化け物になってしまう映画みたいだ。いや、こちらの方が酷い。
 隊の手騎士、詠唱騎士が持ち場に着くと、竜騎士と騎士が教室の中へ入っていく。廉造と子猫丸が明るく反応し始めたケミカルライトを室内に放り込んだ。
「三輪君、勝呂君はいつでも防御陣を出せるようにしてください。神木さんと志摩くんは悪魔が万が一僕らに向かってきた時にはお願いします。杜山さんは鎮静と催眠効果のある薬草を。一刻でも早く恐怖から解放しなければ」
 雪男が腰のホルスターに入れていた銃を取り出し、装填を確かめながら指示を出す。
「ニーちゃん、お願い!」
 しえみが鎮静効果のある薬草を使い魔に出させる。そして、自ら運んできた催眠効果のある薬草茶を背嚢から取り出した。
「では、行きましょう」
 部屋の中に入ると、既に悪魔と激しく戦闘が始まっていた。祓魔師たちの攻撃を縫うように燐が飛びまわっている。その音に混ざってきゃあ、きゃあ、と叫ぶ声がした。見れば、部屋の隅に女生徒が一人蹲っている。頭を抱えているが、目は悪魔から離せなくなっているようだ。出雲たちは壁に沿って足早に進む。
「もう、大丈夫だよ」
 しえみがそう言って少女の視界を塞ぐように立つと、鎮静効果のある薬草を鼻先で千切った。薬草の香りが効いたのかぴたりと悲鳴が収まる。出雲たちはしえみと少女を守るように半円に囲んで立った。暴れる悪魔の瘴気が混ざった毛足の長い尻尾が、鼻先を掠めた。
「助けに来たから」
 ぱちくりとしえみたちを見た少女にそう言って、鎮静、催眠効果のある薬草茶を入れたカップを手渡す。しばらくは言葉もなくぼんやりと目の前に突然現れたしえみたちを見ていたが、茶の暖かさが手に伝わったのか、茶の存在に気付いたらしい。ふうふう、と上澄みを吹いて恐々啜るとやっと安心したのか、緊張の糸が切れたのか意識を失った。
「怪我をしています。応急処置をしますので、もう少しお願いします」
 雪男の言葉に、状況を伺っていた出雲たちは頷いて、周囲の警戒に戻る。出雲の足元でウケとミケが警戒の体勢で背筋を伸ばした。
「杜山さん、止血の薬草を。それから解毒の注射をお願いします」
「はい」
 カチャカチャ、と言う金属が触れる音がした。
「あ~あ、奥村君めっちゃ暴れたはるやん」
 廉造が呆れたように、それでもちょっと羨ましそうに笑って呟いた。
「志摩! 手伝え!」
 と、燐の声がしたと思うと、どこからか飛んできた燐が廉造の襟首を掴んでそのまま掻っ攫っていく。勢いのまま壁に着地すると、その力を足に溜めて再び壁を蹴って跳んだ。うええええぇっ!? と驚愕の声を上げながら廉造が燐に振り回される。
「志摩! 攻撃しろ!」
 空中で燐が文字通り腕を振りかぶって、廉造を悪魔へ投げつける。
「ちょっ、ま……っ! ウソォォォッ!」
 廉造が悲鳴を上げながらすっ飛んで行くと、手にしていた錫杖が悪魔に突き刺さった。悪魔が痛みを覚えたのか、ダメージを食らったのか、恐ろしいほどの叫び声を上げた。たまたま槍のように持っていたのが効を奏したように見えたが、恐らくはああやってふざけた態度でもちゃんと攻撃の構えをとっていたに違いない。
「ホント、タヌキね……」
「後で覚えてろ……」
 出雲が呟いた声に被るように、雪男の怒った声がした。その声に篭った怒りの激しさに空恐ろしいものを覚え、心の中でご愁傷様、と思わず燐に同情した。これは後で酷い説教を喰らうに違いない。多分囀石《バリヨン》も抱かせられるに違いない。三つ重ねくらい行くかも知れない。
 ――自業自得よ。
 ふん、と一つ鼻を鳴らす。女生徒の危機だから飛び込んだのだろうけれど、後方支援の指示を無視したことに変わりはない。彼の行動は正しかったと言っても良いが、それでも祓魔師は一人では戦えない。チームワーク、作戦。これらはけしてないがしろにしてはならないものだ。最悪一緒になったチームが全滅する危険性だってある。