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BRING BACK LATER 8

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 何もかもが愛おしく、他の何にも代えがたい。
(ああ、本当に……)
 もっと晴れやかな気分であればいい、とシロウは思う。
 そんな気分には絶対になれないとわかっているが、アーチャーと肩を並べる、この瞬間だけでもそんな気分を味わうことができればいいのにと、視線を落とし、アスファルトを見つめ、二人分の足音を聞いていた。



***

「どうかしたのか?」
 シロウがきちんとたたみ終わった洗濯物を持って士郎の部屋を訪れると、士郎はじっとシロウの顔を窺うように見つめてくる。
「……うん、なんか、えっと、うまく言えないんだけどな……、お前、大丈夫か?」
「何がだ?」
「いや、よくわからないけど……」
「だから、何がだ?」
 シロウは訝しげに首を傾げる。
「いや、ちょっと、な……、えーっと、なんて言ったらいいか、うーん……」
 腕組みして考え込んでしまった士郎に洗濯物を渡せず、士郎の答えを待つシロウもじっと立ち尽くす。
「何をしている」
「アーチャー」
 士郎の部屋の前でアーチャーも加わり、エミヤシロウ勢ぞろい、となったわけだが……。
「…………」
「…………」
「…………って、息が詰まる!」
 音を上げたのは士郎だ。
「なんだ」
 不機嫌にアーチャーは訊き、
「どうかしたのか」
 シロウはぶっきらぼうに訊く。
 両側から仏頂面に囲まれて、士郎は限界だ、と諦めた。
「あー、……えっと、また、思い出したら言う」
「なんだ。足止めしておいて、何もなしか、未熟者」
「うるさい! なんか引っかかったんだ!」
「何かもわからずじまいとは。まったく、未熟者とは、自身の考えもまともにまとめられないのだな、ああ、嘆かわしい」
「ぐ……」
 士郎は反論もできず口ごもる。
「いくぞ、士郎」
 言葉すら出なくなった士郎を放置で、アーチャーはシロウの手を引く。
「あ、こ、これ、」
 洗濯物をどうにか士郎に渡したシロウは、アーチャーに連れられて行く。二人のその背中を見遣り、
「なん……か……」
 士郎は違和感を覚えていた。
 何かが違うと感じている。
「なんでだ……?」
 士郎自身、首を傾げる。
 一見するとアーチャーとシロウは、馬鹿がつくほど甘々夫夫のようだ。
 その様を、凛も桜もセイバーも藤村大河も、仲良しねー、などと微笑ましく見守っている。
 だが、士郎は素直に認められない。二人に仲良くしてもらいたくないわけではない。士郎とて穏やかにあのサーヴァントたち、特にシロウには過ごしてほしいと思っている。
 以前から確かに二人の仲はよかったと士郎も知っている。他の誰も知らないことを二人は共有し合っていると凛からは聞いていたし、傍から見ていても二人にしか通じない話があるのだとわかった。
 しかし、今のように、これほどにあからさまではなかったと士郎は記憶している。
 士郎の見るシロウは、いつも、どこか遠慮しているところがあったが、それが、今は感じられない。アーチャーに、どこであろうとべったりだ。まるで自棄になっているようにも士郎には見えてしまう。
「また、変なことにならなきゃいいけどな……」
 士郎は一抹の不安が拭えない。シロウがベルトに締めつけられた時のことを思い出し、思わず身震いする。
 肌に食い込み、骨を容易く折っていき、シロウに酷い痕を残した恐ろしい概念武装。
「あんなの、見たくないんだけどな……」
 アーチャーは気づいているのだろうか、と心配になったが、
「ま、まあ……、あれだけベタベタしてるんだし、わかってるんだろうけどな」
 あいつのことは、アーチャーに任せておけばいいだろう、とシロウから受け取った洗濯物を片付けるために部屋に入った。



 女性陣が新都へお出かけとなり、男ばかりが衛宮邸に残った週末の午後、庭で洗濯物を干す二人を見かけ、士郎は少し胸を撫でおろした。
「相変わらず、仲のよろしいことで」
 先日の違和感は、やはり勘違いだったのか、と思おうとした瞬間、
「あ……」
 シロウの頬についた埃か何かを取り去ったアーチャーの手が離れ、アーチャーを見上げるシロウの表情が動いた。
「あいつ……」
 微笑えるようになったのか、とほっとしたのもつかの間、アーチャーがシロウから視線を外した一瞬の表情に士郎は息を詰まらせた。
「う……っそだろ……?」
 士郎は呆然とその二人を眺めていたが、すぐさま足早にその場を離れる。
「なん……、どういうことなんだ、いったい……」
 うまく頭が回らず、自室に入り、戸を閉めきった。
 士郎は、何か得体の知れない物でも見たように青ざめている。動揺がなかなか収まらず、所在なく自室をうろうろと歩き回る。
「見間違いか? 一瞬だったし……、いや、でも、あれは……」
 立ち止まり、士郎は見間違いなどではないと確信する。
「アーチャーに……、確かめないと……」
 そうは思うものの、どう言えばいいのかわからない。閉じた障子に目を向け、どうするか、と、士郎は手汗の滲む拳を握り込んでいた。

 午後の日差しが夕日に代わる前にアーチャーは洗濯物を取りこみ、母屋へ戻ろうと向かった先に士郎が立っていることに気づく。
 何やらもの言いたげな顔で縁側に立ってこちらを見ているので、アーチャーは仕方なく声をかけることにした。
「なんだ、小僧。何か用か」
 とげとげしく訊くアーチャーの声に、いつものような反応がなく、その上、士郎の顔が何やら難しくしかめられているので、アーチャーには訝しさが募る。
「あの……、あいつの……」
 ようやく口を開いた士郎は、戸惑いながら言葉を探しているようだ。
「なんだ? はっきり言え、士郎がどうした」
 言いながら踏み石に足をかけたところで、士郎が再び口を開いた。
「あいつの顔……が、」
 ピンときたアーチャーは、小さくため息をつく。
「ああ……、見えてしまったのか……」
 見せるつもりはなかったのにと、アーチャーは苦々しく呟く。
「あれは……」
 士郎の声が微かに震えて萎んだのを不可解に思いながら見上げ、その憤ったような顔つきにさらに首を捻りつつ、アーチャーは説明する。
「少し前から微笑えるようになった。まあ、それも――」
「ちょっ、ま、待てよ!」
「なんだ?」
 話を遮る士郎に、アーチャーは眉間のシワを深くする。
「お前……、あれ、笑ってるって……?」
 愕然としながら士郎は訊いてくる。
「なんだ、何が言いたい」
「た、確かに、笑ってはいた、けど、そのあと……」
 アーチャーは不機嫌さを隠しもせずに士郎を見上げる。
「そのあとが、なんだ」
「……泣い……てるように……、見え……た……」
 途切れながら吐かれた士郎の言葉に、アーチャーの目は見開かれていく。
 とてつもない衝撃を受けた。
 その言葉をすぐに理解できない。
 今、こいつは何を言ったのか、と何度も士郎の言葉を頭の中で繰り返す。
 “泣いているように見えた”
 脳内で繰り返したその言葉が、鋭く突き刺さる。
「な……に……?」
 頭を鈍器で殴られ、そのまま断崖から突き落とされた気分だ。
 どういうことだと訊こうと思うのに、
「な、ん……」
 まともに言葉が出ない。
作品名:BRING BACK LATER 8 作家名:さやけ