かんなぎ皇女・褐色の破壊神 壱ノ巻
真夏の昼下がり…
眼下を田畑や森、湖を望む山の高い所に建つ柾木神社。
その広い境内に広く生えている木々から蝉の合唱が辺りに響き渡っている。
耳を済ませば真夏の自然のコンサート気分に浸れるほど、何とまあ気持ち良い事よ。
でも神経質の者にとっては、イライラ気分が全開になるくらいの騒音に思えるかもしれない。
柾木天地を初め、阿重霞や砂沙美たちは境内の清掃を済ませたばかりで汗だくだくな状態である。
道具を片付けた後は、和室でお茶タイムと行こう。
神主で有り天地の祖父である勝仁と一緒に、ゆっくりと語り合うのもサイコーのひとときと言えよう。
世間話しもそこそこに、天地は以前から興味を抱いていた太古の宇宙神話について勝仁に尋ねてみた。
神社の倉庫奥を整理していた時に見つけた一冊の古文書を読んでから神話に興味を抱くようになった天地。
最初は単なる物語と思っていたのが実話だと知り、遥か大昔の世界に思いを強く寄せるようになったのだ。
地球から幾光年も離れた遙か彼方の星…『梛木星』の事を知りたい。
「じっちゃん、その梛木星ってどんな星なの?」
天地の問いに勝仁は茶を一口、すすった後に語る。
その内容はこうだ。
実話の舞台となった星は、他の星々の者たちから『化外の地』と揶揄される程、名も無き辺境の惑星である。
地球と同じように青い海と空、豊かな緑で覆われた美しい星であるのにも関わらず見放されていたのだった。
そんな中でも名も無き星に住む先住民族は高度な科学力を持ち、秩序の高い文明を築き上げていた。
だが、同じ民族同士で権力闘争に明け暮れるばかりだった。
同胞の間で支配欲が生まれたからだ。
様々な一族に依る権力闘争は続き、やがて1つの一族が勝利して権力の座を得る事が出来た。
もっとも大きな勢力を持つ神高(かむたか)一族である。
若武者である神高正忠率いる一族は神高皇家として、民族の頂点に達した。
初の皇王に就任した正忠は名も無きこの星を(自身の父親の名前から取って)嶺翁神高皇王星…『嶺翁星』と名付けると共に皇王政に依る国家を樹立した。
皇后であり妻でも有る貴美枝の間に生まれたのが那岐比売命と摩耶比売命の双子姉妹。
姉の方は神高那岐比売命と言う名前から『かんなぎ』と略して呼ばれるようになり、二十歳の成人の時に初代皇女に任命された。
阿重霞にも勝るぐらい美しく、それでいて男勝りの性格で武術や挌闘に長けた女性…
それが『かんなぎ皇女』である。
かんなぎが皇女に就任した後に貴美枝皇后が他界し、後を追うように父正忠も他界した。
作品名:かんなぎ皇女・褐色の破壊神 壱ノ巻 作家名:kazusa