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BRING BACK LATER FINAL PHASE

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「久しぶりだな、アーチャー。お邪魔します。あ、違う、お世話になります」
 ぺこり、と頭を下げて挨拶をした。
「は?」
 アーチャーは理解不能だとでも言うように、ぽかん、としている。
「還って来られた、ここに」
「な……ん? 士……ろ……」
「やっと、アーチャーに会うことができた」
 アーチャーが両手を伸ばしてくる。腰を屈め、頬を包む手に手を重ねると笑顔が漏れた。
「私が、連れて還ると言ったのに、お前は、また勝手に、どこへ行っていたのか……」
「ごめん、なさい」
 呆れたように言うアーチャーの手は、優しく頬を撫でてくれる。
「待ちくたびれたぞ、たわけ」
 膝立ちになったアーチャーに吸いつくようにキスをされた。触れる唇の熱さに泣きだしそうになるのを必死で堪えた。まだ、伝えていないことがある。まだ、泣くのは早い。
「どこをほっつき歩いていた、たわけ、このっ、お前は、目を離すと、すぐに、っ、この、たわけ……」
 強引な口づけも、余裕のない声も、アーチャーのすべてが愛おしいと思う。
「アーチャー、言えなかった、現界している時は……」
「何をだ?」
「アーチャーを愛しているんだ」
 何か山ほど言ってくると思ったけれど、アーチャーは機能停止をしてしまったみたいだ。
「アーチャー?」
 顔の前で手を振ってみる。しばらくすると何度か瞬きをしている。
「……………………たわけ」
 長い沈黙のあと、口元を手で押さえたアーチャーは、照れた顔で項垂れてしまった。



***

「座は、真っ暗だった」
「真っ暗?」
「うん。暗闇」
「…………」
 どういう座だ、それは。
「俺が落ちていった先は、奈落みたいだったから、そうなんじゃないかと思う」
 淡々と言う士郎に、胸が痞えてくる。
「望みを叶えるから、使役に応じろと言われた」
 そうして、士郎は英霊としての役目を終えたのだと言う。私とはまた違う縛りだったようだ。望みを叶えるかわりに使役され、それも限度があったというのだから。
「億の国と人を救え、って……」
 思わず抱きしめてしまう。
 士郎の失言。あの、生前の士郎を縛りつけた数。
「アーチャー?」
「よく……頑張ったな……」
 そんな言葉でしか労えない。
「アーチャーに比べれば、微々たるものだ」
 擦り寄ってくる士郎の髪を撫で梳き、確かな質感に安堵する。あの時、抱きしめても抱きしめても薄れていく士郎をどうすることもできなかった。
「それで、どうして還って来れたんだ?」
「うん、アーチャーの座に還りたいと、望んだ」
「な……」
 言葉を失う。
「馬鹿な……」
「アーチャーに会いたかったんだ、アーチャーに触れたかった、アーチャーが恋しかった……」
 だからと言って、再び人として生まれ変わることを願うこともできただろう。なのに、輪廻の輪から外れたままで、ここに還りたいなど、どこまで愚か者だこいつは……。
「お前は、どこまで……」
 いや、言うまい。
 こいつはこういう奴だ。
 はじめから何もかもが歪で、何もかもが欠落していて、何もかもを享受するだけで、何もかもを失っていて……、それでいて、私にだけ貪欲になる。
「まったく……」
「ダメだったか?」
 少し顔を上げて私を窺う。
「っ、ぅ……」
 こいつは、本当に私を翻弄してくれる。
「そんなわけがないだろう」
「よかった。そう言ってくれると思っていた」
 ずいぶんな口をきくようになったものだ。
「そんなことよりも、わかっているのだろうな、士郎。ここに還ってきたということは、私に抱き潰されることを覚悟しているということだな?」
「え……?」
 途端に逃げ腰になる身体を抱きしめる。
「アーチャー、あ、あの、」
「恋しかったのだろう、士郎?」
「う……、そ、そう、だけど、」
「ならば、やることは一つだな?」
「ぁ……、そ、いや、ま、待っ、」
「待つ道理がどこにある? お前は私が恋しかった。私もお前を想い続けた。何か私を拒絶する理由があるのなら、きっちりと説明してくれるか? 私が納得のいくように」
「あ……、う……」
 真っ赤になった顔を俯け、士郎はもごもごと唇を動かす。おとなしく待ってやる道理もないので、士郎の衣服を脱がしにかかる。抵抗するわけでもなく、かといって自分から脱ぐわけでもない。
「考えは、まとまったか?」
 催促すると、
「うぅ……」
 上目で恨めしそうに私を睨んでくる。にっこりと笑みを返すと、
「ま、待たなくて、い、ぃ、俺も、アーチャーが、ほし、ぃ、から……」
 睨んできた琥珀色の瞳が勢いをなくして下を向く。
「たわけ……」
 さらに煽る奴がいるか。
 いや、ここにいるな、確実に、目の前に一人。
「では、遠慮はしない」
 士郎の頬を両手で包むと、遠慮がちに再び視線を上げた、琥珀色の瞳が私を映す。
「もう二度と、離しはしない」
 頷く士郎が瞼を伏せた。
 触れた唇は熱く、焦がれた分だけ甘い。
 誓うような口づけをしていったん離れると、士郎が腕を首に回してくる。
「もっと」
 誘うような琥珀色の瞳は、潤んで蕩けたように見える。
「ああ、もちろんだ」
 応えてやろう、いくらでも。士郎が望むのなら、私はいつでも、なんにでも応えてしまう。士郎は他に何も求めない。自身の輪廻のチャンスでさえふいにして、私だけを求める士郎に応えないわけがない。
 死後を明け渡し、殺戮に埋もれた私は、恋をした。
 ありえないことに、元を同じくするエミヤシロウに。
 はじめは、どうしようもなく歪んだこの存在をどうにかしなければ、という使命感からだった。
 士郎を見続け、ともに過ごすうち、こいつを片時も離せないと気づいた。
 傍にいてさえ恋い焦がれ、失えないと確信し、それでも士郎を失って……。
 奇跡だろうか?
 いや、そうではないな。これは、士郎の想いの強さだ。士郎が願ってくれたからだ。私の座に還りたいと。
「士郎……」
「アーチャー? どうかしたか?」
 ああ、答えてくれる。
 それだけでもう、私は今までの苦しさをきれいさっぱり忘れてしまえる。
 恋とは、やはり盲目だな。
 ここに、腕の中に士郎がいるだけで、こんなにも、私の胸の内は愛しさなどというもので溢れてしまう。
 おかしなものだ。
 英霊となってなお、人のような感情に揺れ動く。
 私が守るべき人間世界には、こういう感情が蔓延っているのだな。それを今、ようやく理解している私は、士郎とどっこいどっこいで歪んでいるのだろう。
 私の殺戮の運命が変わるわけではない。これからも私は人間のために人間を殺し続ける。
 ただ、独りではない。私の座には、かけがえのない存在がいる。
 私の座に還ることができるのなら、輪廻の輪すら未練がないと言い切ってしまう愚か者が、ここに、ひとり。
 この、腕の中に、たったひとり……。
「士郎、ありがとう、それから……」
 愛している、と耳に囁けば、肩を竦めて身を強張らせる士郎に、自然と笑みが漏れる。
 笑みを湛えた唇でそっとキスを落とし、何度も啄むように士郎の唇を味わう。
 甘い吐息、髪を梳く指、蕩けそうな琥珀色の瞳、何もかも求めてやまかった。
作品名:BRING BACK LATER FINAL PHASE 作家名:さやけ