We can share the happiness.
「え?あ、ああ。というか、ホワイトベースのクルーはブライトとか一部を除いて殆どがサイド7の避難民がそのまま現地徴用兵として乗艦していたんだ。正規の兵士も殆どが士官学校を出たての実戦経験の無い新人ばかりだったよ。結局終戦までに補給として配属された軍人は数人だけで、その彼らも、まぁ軍が扱いに困っていたであろう人達で、多分厄介払いに配属されたって感じだったな。」
スレッガー中尉とその小隊のメンバー。あまり軍人らしくなかった彼らは連邦軍にとっては厄介者だったかもしれないが、あの戦時中にあって、とても人間らしい人達だった。
自分たちを勝利に導くため、ビグザムに特攻を仕掛けて宇宙に散ったスレッガー中尉…今でもその光景は鮮明に脳裏に刻まれている。
「そんな事があり得るんですか!?」
驚くギュネイにアムロが自嘲気味に呟く。
「ホワイトベースの任務は基本、陽動作戦だったからね。囮に重要な人材を割いたりする必要は無い。メカニックも不足してたからガンダムのメンテも自分でしてたよ。」
ホワイトベースに対する連邦の酷い扱いにギュネイは驚きを隠せない。
「何でそんな扱いを受けながら連邦に居続けたんですか?」
「うーん。まぁ、家も家族も失って、行く所も無かったし、下手に逃げたら脱走兵って事で軍法会議に掛けられるし…。って、そういえば一回脱走したな。結局オレの所為でみんなを危険に晒しちゃったからすぐに戻ったけど。」
「え?脱走?それじゃ軍法会議に?」
「いや。ジオンのランバ・ラル隊にホワイトベースが奇襲を受けて、そのどさくさに紛れて脱走の事は有耶無耶になっちゃたんだ。結局はブライトにぶん殴られて何日か営倉にぶち込まれて終わったかな。」
アムロは頬に拳を当ててふざける様に振舞う。
「ああっと、話が脱線してしまった。ナナイ大尉、そういう事だからなるべく穏便にお願いしたい。」
アムロは深々とナナイに対して頭を下げる。
それを見てナナイは大きく溜め息を吐く、
「分かりました。レズン少尉には口頭での厳重注意のみとします。しかし、彼女の怒りが収まらず貴方に危害を加えるかもしれませんよ。」
「そうだね。その時は…、さすがに殺される訳にはいかないから、気の済むまで殴ってもらって構わないよ。」
にこやかに答えるアムロにナナイは絶句する。
シャアも渋い顔をしながらアムロを見つめる。
「何れにせよ、彼女が納得するまで付き合うよ。」
「アムロ!」
声を荒げるシャアの腕をアムロはそっと掴み、「大丈夫」と笑顔を向ける。
シャアはアムロに悟られない様にチラリとナナイに視線を向けると、ナナイもそれに答える様に小さく頷く。
「それでは、私はこれで失礼します。」
ナナイはシャアとアムロに向けて敬礼をすると、ギュネイと共に病室を後にした。
アムロはシャアの腕を掴んだまま小さく溜め息を吐く。
「シャア…。オレはここに居てもいいのか?」
そう呟くアムロの頬を両手で包み込み、そっと口付ける。
「アムロ、約束しただろう?ずっと側にいると。君は私のものだ。決して離さない。」
「シャア…」
シャアはもう一度アムロの唇に己のものを重ねると、今度は先程とは違い、互いの舌を絡め、アムロの呼吸すらも奪う様に深く激しく口付けた。
ナナイが病室を出ると、扉の横には先程立ち去った筈のレズンが腕を組んで壁にもたれ掛かっていた。
部屋を飛び出したレズンはシャアに引き止められ、ここで中の会話を聞く様に言われていたのだ。
ナナイはレズンに視線を合わせるとついてくる様に促す。
ギュネイはどういう事か状況が飲み込めないまま二人に付いて病院内のある一室に共に入る。
扉を閉めるとナナイは振り返り、溜め息まじりにレズンに向きあった。
「レズン少尉。アムロ・レイは貴女の気の済むまで殴って良いそうですよ。どうしますか?」
冷めた目で見つめるナナイにレズンがチッと舌打ちをする。
「あんな話を聞かされた後で殴れるわけがないだろ。それに…あいつもしかして目が見えてないのか?」
その問いにナナイが頷く。
「やっぱり…、一時的なものなのか?それともこのまま一生…?」
「それは分からない。視神経や眼球自体には損傷は無いようだけど頭を強く打っているから…。それに…左足にも少し障害が残る様なので、もうモビルスーツには乗れないかもしれない。」
その言葉にレズンとギュネイが唇を噛み締める。
パイロットにとって、モビルスーツに乗れなくなるという事は死ぬよりも辛い事だ。
ましてや最強と言われた凄腕のパイロットだ。その辛さは計り知れない。
「しかし、本当にあいつがアムロ・レイなのか?想像していたのとあまりにも違いすぎて未だに信じられない。」
「一体どういう人物像を想像してたんですか?それにアムロ・レイの姿なら調べればすぐにわかるでしょう?」
ナナイは呆れながらも手にある端末を操作して1年戦争当時、終戦後に連邦の広告塔としてメディアに出ていた頃のアムロの映像を検索する。
「白い悪魔なんてあだ名の奴だぞ?もっとごっつくて冷酷非情な人物を想像するだろ!?」
「まぁ…、そうね。ああ、あったわ。ほら、アムロ・レイの情報よ。」
ナナイが見せてくれた端末には青い連邦の制服に身を包んだ16歳のアムロが表示されていた。
その画像を見つめ、レズンが息を止める。
「おい、本当にこんな子供が白い悪魔だったのか?」
その画像をギュネイも覗き込む。
今よりも更に小柄で、幼さの残るその容貌は悪魔と言うよりも天使に近い。
連邦はこんな子供を最前線で、それも囮として戦わせていたのだと思うと無性に腹が立った。
「連邦は士官学校も出ていないこんな子供を最前線で戦わせていたっていうのか!?本当に腐ってやがる!」
ギュネイの吐き捨てるような言葉にナナイは頷く。
「それだけじゃ無い。戦後、アムロ・レイは広告塔として散々引き回された後、ニュータイプ研究の被験体となり、かなり過酷な人体実験を受けていたらしい。その結果を見た連邦は彼を危険分子と判断し、7年もの間24時間監視体制で北米のシャイアン基地に幽閉した。」
「なっ!?」
『連邦のお偉方はオレの戦果を見て“化け物”って言ってましたよ。』
さっきのアムロの言葉が脳裏を過ぎり、ギュネイはギリリと歯をくいしばる。
「グリプス戦役時、連邦の体制が混乱状態となった際、シャイアン基地を脱走してエゥーゴに協力をするカラバに参加し、そこで大佐と再会したらしいわ。」
グリプス戦役後、エゥーゴは勝利したものの指導者であるクワトロ・バジーナを失い、自然解体となり連邦に取り込まれてしまった。
アムロ・レイも脱走兵として扱われる事は無かったが、戦線からは距離を置き、宇宙に上がって行方不明のクワトロ・バジーナいや、シャア・アズナブルを探し続けた。
そして、再び姿を現したシャア・アズナブルはネオ・ジオンの総帥となり彼の前に立ち塞がった。
二人は再び剣を交え、地球を賭けた勝負を繰り広げた。
そして、その戦いはアムロ・レイの勝利で幕を閉じた。
しかし、身体を張って地球を救ったアムロ・レイは二度とモビルスーツに乗れなくなるほどの傷を負ったのだ。
作品名:We can share the happiness. 作家名:koyuho