We can share the happiness.
「アムロ・レイは連邦からMIAの認定を受けているんですよね。ならば、もう連邦に戻らなくても…このままネオ・ジオンに居ても…」
ギュネイは端末を見つめながら絞り出す様に呟く。
レズンもそんなギュネイを見つめ、ふぅっと息を吐き出す。
「そんなに簡単じゃ無いだろう?私みたいにアムロ・レイを恨んでる人間はネオ・ジオンには五万といる。」
「そりゃそうですけど…。」
「それで?レズン少尉。アムロ・レイについてはどうしますか?まだ殺したいと思っているならば総帥に報告します。殴って気がすむのならば本人は納得しているようなので構いませんよ。ただし、今後アムロ・レイについては他言無用です。」
淡々と述べるナナイにレズンは小さく溜め息を漏らすと視線をナナイへと向ける。
「一発ブン殴って終わりにしてやるよ。」
レズンは部屋を出るとアムロの病室へと駆け出した。
病室の扉を開けるとズンズンとアムロの元まで足を進め目の前で立ち止まる。
「アムロ・レイ!歯を食いしばれ!!」
アムロはレズンの言葉に姿勢を正すと目を閉じる。
「おいっ!待て!レズン!!」
レズンの後を追い、病室に飛び込んで来たギュネイが制止する間も無く、バシンッと頬を打つ音が響き渡った。
アムロの口の端からはつっと一筋の血が伝う。
しかし、アムロは動じる事なく次の衝撃を待つ。
しかし、しばらく待っても次の衝撃は訪れなかった。
「…?レズン少尉?どうした?」
彼女の気の済むまで殴られるつもりだったアムロは中々次の衝撃が訪れないことに疑問を抱き、レズンに尋ねる。
すると、ビシっと踵を揃える音が聞こえレズンが姿勢を正したのを感じる。
レズンはアムロに向かい、踵を揃えると背筋を伸ばして敬礼する。
「失礼しました!自分はネオ・ジオン軍第1モビルスーツ隊 隊長 レズン・シュナイダー少尉であります。敵軍とは言え上官に暴力を振るいました。アムロ・レイ大尉のお気の済むよう処分して頂いて構いません!」
その言葉に、アムロはレズン同様姿勢を正し、敬礼を返す。
「地球連邦軍 外郭新興部隊 ロンド・ベル モビルスーツ隊 隊長 アムロ・レイだ。レズン・シュナイダー少尉。貴官の処遇についてはナナイ・ミゲル大尉に一任している。ナナイ大尉の指示に従うように!」
レズンはその軍人らしいアムロの対応に少し驚き目を見開く。
目の前の男は間違いなく地球連邦軍の軍人、アムロ・レイなのだ。
そして、アムロが自分に対して敬意を払い、軍人として真摯に向き合った事に感銘を受ける。
「はっ。わかりました!」
レズンは答えると敬礼を戻す。
アムロも同様に敬礼を戻すとレズンに微笑みを向ける。
「レズン少尉…。貴官はもしかして青色のギラ・ドーガのパイロットか?」
自身の機体を当てられ驚く。
「え?ああ、そうだが。」
「やっぱり!貴官のその気迫が戦闘で青いギラ・ドーガと対峙した時と同じだったから!そうか…。あの腕の立つパイロットか…。」
アムロのその言葉にレズンは心が高揚するのを感じる。
最強のパイロットが自分を腕の立つパイロットだと認めたのだ。
そして、叶わぬと分かっているがある想いが湧き上がる。
目の前の最強のパイロットと戦いたいと!
レズンはアムロを見つめ、そして何も映さぬ瞳に少し落胆する。
レズンのそんな想いを知ってか知らずか、アムロがボソリと呟く。
「もしも…、いつか奇跡でも起きて目が見えるようになって、もう一度モビルスーツに乗る事が出来たら…貴官とは一度手合わせ願いたいな。」
アムロのその呟きに、レズンはもう一度姿勢を正す。
「その時は是非お手合わせをお願いします!」
レズンのその言葉にアムロは一瞬目を見開くと、そっと微笑む。
「ああ、よろしく頼む。」
アムロのその答えに隣にいたギュネイが叫ぶ。
「狡いぞ!レズン!その時は俺も手合わせしてくれ!!」
その言葉にアムロが噴き出す。
「ギュネイ少尉はヤクト・ドーガのパイロットだよな?是非頼むよ。」
その光景に、側にいたシャアがクスクスと笑い出す。
「アムロ、それを言うなら私が一番先だろう?」
「貴方とはあの時散々戦ったろう?」
「君に勝ち逃げされたままでは私のプライドが許さん。次こそは私が勝つ!」
「ふっ、オレだって負ける気はないよ」
不敵に笑うアムロにシャアは笑みを浮かべると、アムロの口端の血をそっと指で拭う。
「あ…、悪い。」
シャアは指についたアムロの血をペロリと舐め、3人に視線を向けながらほくそ笑む。
それを見たアムロ以外の3人がギョッと目を見開き固まる。
『げっ!総帥のやつ私達に牽制をかけてきやがった!』
シャアの意図を感じ取ったレズンは敬礼をすると踵を返して早々に病室を後にした。
それを追うようにナナイとギュネイも病室を出る。
二人が出てくるに気がつくと、レズンはくるりと振り返りナナイの元へと足を進める。
「ナナイ大尉、あんたアムロ・レイに総帥を取られちまったのかい?」
哀れみと揶揄いを込めた目でナナイを見るとナナイは大きな溜め息を漏らす。
「元々大佐の心はアムロ・レイのものだったわ。ベッドでララァ・スンの名ならまだしも、アムロ・レイの名前を呼ばれた時は流石に熱が冷めたわよ。」
ナナイは手をヒラヒラと振って立ち去って行った。
それを聞いたレズンとギュネイは互いに目を見合わせる。
「あ…、なんて言うか…。悪い事聞いちまったな…。」
バツが悪そうに呟くレズンにギュネイも「ああ…。」と素直に頷きナナイの後ろ姿を二人並んで見送った。
その頃、病室では突然態度を変えた3人の様子にアムロがシャアをじっと睨み付ける。
「貴方、今何かやらかしたでだろう?何やったんだ?」
「いや、別に何もしていないぞ?」
「嘘付け!明らかに3人の態度はおかしかっただろう?」
問い詰めるアムロにシャアはフンっと鼻を鳴らす。
「君は私のものだと見せつけただけだ。」
「はぁ!?貴方何やったんだよ!!」
「さあな」
ふふんと笑うシャアにアムロが溜め息を漏らす。
「勘弁してくれよ。明日からどういう顔してみんなに会えばいいんだよ…。」
「その事だがな、アムロ。もう大分傷も癒えてきた事だし、今後も今回の様に君に危害を加えるものが現れるとも限らん。だからそろそろ退院して私の元に来るといい。」
「え?」
「既に君を受け入れる準備は出来ている。リハビリも行える様に手配しよう。」
「あ…、え?!」
シャアはベッドに座り、呆気にとられるアムロをそっと抱き締め耳元で囁く。
「ここでは君に何も出来んからな。」
「なっ!?」
シャアの囁きにアムロは顔を真っ赤に染めると金魚の様に口をパクパクとさせる。
「そうと決まれば早い方がいい。明日には退院するとしよう。」
シャアはアムロに軽く口付けると医師に話を付ける為、さっさと病室を出て行ってしまう。
アムロはただ呆気に取られシャアが出て行った扉を見つめる事しか出来なかった。
翌日、アムロの意思は全く聞き入れられず、気付いた時にはシャアの屋敷の一室に…いや、シャアの寝室のベッドに移動させられていた。
そして今、自身の上に覆いかぶさる様に金髪の美丈夫が跨り、その美しいスカイブルーの瞳をこちらに向けている。
「シャ…、シャア。あのさ…、えっと…」
作品名:We can share the happiness. 作家名:koyuho