電撃FCI The episode of SEGA 3
サヤが納刀して鍔鳴りを辺りに響かせた時、彼女のクライマックスアーツ天地断ちのように、美琴に遅れて大ダメージが伝わった。
目に見えないほどの速さで抜刀して多方向より相手を斬りつけ、納刀の瞬間、実に十六回も攻撃して超特大のダメージを与えるこの技は、サヤの特別な切り札だった。
不動居を使って、刀を納めて居合い状態となった瞬間のみに発動できる切り札である。
不動居というEX技を使用するため、ゲージを最低一つは消費する必要がある。しかし、不動居の効果により攻撃力が僅かに上がった状態から繰り出すため威力は絶大で、その速さからガードするのも困難な強力な技である。
その絶大威力の切り札の名は、十六手の攻撃を行うことから、十六手詰めといった。
「ふうううっ……!」
ブラストゲージがタイミングよく溜まり、サヤは美琴がダウンしている隙に、パワーアップブラストを発動した。
そして、サヤはダッシュして、切り札を受けて大きく後ろへ吹き飛んだ美琴へと近付いた。
「まだまだ……!」
美琴は体を起こすと、すぐに反撃に移るのではなく、この上更に余計なダメージを受けないためにも防御を固める。
「えいっ、はいっ!」
サヤは威力の小さい攻撃をする。
「ふんっ!」
美琴は落ち着いてサヤの攻撃を防ぐ。
「これで!」
サヤは小さくジャンプしつつ、美琴の顔面めがけて刀を振った。
「余裕、余裕……!」
美琴はしっかりと立ち上がり、顔面に来る攻撃を防御した。
「とうっ!」
サヤは、タイミングをずらしてもう一度同じ攻撃をしてみた。
「見切った!」
美琴はやはり、安易に動くことはせず、サヤの攻撃にたいしてきっちりとガードしている。
ここまでの戦いで、美琴のガードの能力はかなり上がっていた。
今こと時とは、相討ちの後の特別なラウンドであり、美琴もサヤも余力のある状態ではなかった。
それ故に相手をしっかりと見据え、守りは当然の事、攻めも非常に慎重な動きが必要とされた。
美琴のガードを崩すべく、サヤは足下、下段を狙って体勢の崩れを仕掛けたり、足下に来る攻撃を受け止めようと姿勢を低くする瞬間、顔面に丁度当たるインパクトブレイクを混ぜて攻撃した。
しかし、美琴はサヤの動きに食らいつき、下段の攻撃にはしっかり身を低くし、インパクトブレイクはサヤが飛び上がった瞬間と同時に立ち上がって防いでいた。
――くそっ、攻撃が当たらないじゃない。何てガードの固さ……!?――
サヤは、美琴のあまりのガードの固さに、焦りを覚え始めた。
その時ふと、美琴がサヤの両肩を掴もうと両手を伸ばしてきた。
なんとか攻撃を当てなくては、と焦って躍起になっていたサヤに、美琴の投げ技が決まりそうになる。
手がしっかり触れたか否かのところで、サヤはどうにか動くことができた。
「やめなさい!」
サヤは美琴の手を払いのけ、刀を振って牽制した。美琴は後ろへと下がり、二人の間に距離が開く。
防御に徹していた美琴が、ここでついに攻撃へと転じた。
「はああ!」
美琴は帯電させた手を地面に付くと、電磁力によって砂鉄を集め、小さな波にしてサヤに向けて放った。
「いたっ!?」
間合いが少し離れているにも関わらず、砂鉄の波はサヤの足下を掠めた。不意のダメージを受け、サヤは体制を崩してしまう。
「今ね!」
美琴は砂鉄剣を作り出し、サヤに向かって前進しながらそれを振った。
「食らいなさいよっ!」
電磁力の効果で、剣の形となった砂鉄は高速振動しているために、砂鉄剣による攻撃は多段ヒットするものだった。
一振りで実に三ヒットする攻撃となり、サヤに蓄積するダメージを与えていく。
「おっと……!」
ふと、臨也が姿を見せて、美琴に追従するように攻撃した。
美琴はゲージを使った特殊行動、キャンセルサポートを発動していた。
ゲージを使うことによって、サポートを呼び出すモーションを省くことができ、すぐさまサポートを動かすというテクニックである。
ゲージを一つぶん消費するというデメリットがあるものの、それを補って余りあるほどの利点が、この行動にはあった。
相手は攻撃を受けているために、サポートが動き出す前に潰すということはできず、また、そのような状況下で反撃する方法はエスケープブラストしかない。ブラストを発動されない限り、攻撃を邪魔されることがなく、確実にサポートの動きは上手くいく。これがキャンセルサポートの強みである。
そして臨也のサポートをキャンセルサポートで動かしたとき、普通に使うよりも一風変わった様子を見せていた。
臨也の攻撃のパターンは二つある。一つは、相手から攻撃を受けたとき、それをかわして後ろに回ってナイフ攻撃を発動する。そしてもう一つは、メインで戦っているキャラクターの攻撃が相手に通ったときにも同じ攻撃を行う。これらが臨也の使うサポート行動である。
今回の状況としては、後者の場合が色濃いものだった。攻撃を当てている瞬間に呼び出したために、臨也は例の降参のポーズは取らず、すぐにサヤの背後に回りながら、美琴の攻撃に合わせた。
「カマイタチ参上……!」
臨也は連続攻撃を与えた後、ナイフの先をサヤに向けながら、ニヤっと笑みを見せる。
「今だ!」
美琴は、サヤが攻撃を受けたために、動けない瞬間に合わせて行動を起こす。
美琴は全身の電気を一気に増幅させ、パリパリと放電を起こす手を地面に付けた。
「ふううう……!」
美琴は、強力な電気を地面に向けて放出すると、それに比例して強力な電磁力を持った磁界が辺り一体に発生した。すると、地面の砂鉄がつむじ風に巻き込まれるように、激しく渦を巻いて美琴の周囲に広がった。
砂鉄の周囲に磁界ができあがると、空中に渦巻く砂鉄は、砂鉄剣の刃のように超高速で振動し始める。
「電磁旋風(マグネティブ・サイクロン)! ……っだあああ!」
高速振動する砂鉄の嵐が、空中で身動きのとれないサヤに、ズタズタと切り裂くように連続的なダメージを与える。
砂鉄の嵐そのものの勢いによって吹き飛ばされていくサヤに、美琴は更なる追い討ちをかける。
右手に電気を集め、それを放り投げるように前方に放電した。
「当たれっ!」
EX化していない通常の電撃の槍(エレクトロ・ショック)であり、リーチはそれほど広くはないが、遠くまで吹き飛ばされそうなサヤを一瞬空中に止めるには十分だった。
そしてその瞬間を逃さず、美琴は自身の最大の技を放つ。
「全力で行かせてもらうわよっ!」
美琴が全身の電気を最大出力まで高めると、周囲の空間に電撃がバチバチ弾けて音を立てる。
そして美琴は、スカートのポケットからコインを一枚取り出すと右の腕をピンと伸ばし、親指の先に、コイントスをするように置いた。
コインを手に取ると、美琴は最大出力のまま手先に電気を手先に集中させる。
そして、美琴の出せる電圧の最大値となった瞬間、チリンッ、と親指でコインを弾いた。
コインはくるくると回転し、電磁力の影響か、ゆっくりと降下する。
美琴の手の先には、バチバチと電気が激しく放電され、指を中心として強力な電流の流れる磁界が発生していた。
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 3 作家名:綾田宗