電撃FCI The episode of SEGA 3
「絶無、あなたに一つ教えてあげるわ。絶望から希望が生まれることが有るってことをね!」
「何……?」
絶無フォーマルハウトだけでなく、その場にいる者皆がサヤの意図を理解できなかった。
サヤは、強い意志を持って語り始める。
「私は、どんなものからでも希望や幸福は生まれると思ってる。例え途方もない絶望からでもね……」
サヤの言葉が理解できず、今度は絶無の方が黙ってしまった。
「ナツメは、S級能力者じゃなかったから自らに絶望した。秀才でありながら天才ではない自分自身を相当呪った事でしょうね。だからナツメは、力を得ることに固執して人為的なS級を造り出そうとした。そう、この子達のようにね……」
サヤはナビ二人に視線を向ける。
「サヤ?」
ミイナは首をかしげる。
「私はこう思ってる。ナツメが絶望に沈み、劣等感に苛まれなかったら、ミロクとミイナは生まれてなかった、ってね」
ミロクとミイナの二人は、ナツメが計画した竜化の秘法、ドラゴンクロニクルを実行していく中で、人為的に天才を造る実験において成功して生き長らえた存在である。
「確かに、ナツメの実験は許されるものじゃないわ。けれどナツメが劣等感を感じなかったら、そもそもムラクモ機関なんか、できてなかったでしょう。もしそうだったら、機関の仲間にも会えなかっただろうし、この二人に至っては存在事態がなかったに違いないわ」
ナビ二人は、サヤの意図と気持ちを理解した。
「サヤ、確かにあなたの言う通りです」
「過程をあまり考えてない、結果論に近いけどな。……っふふ!」
ミロクは小さく笑った。
「あんたの考え、分かる気がするわ」
「美琴……?」
美琴もまた、絶望の淵から立ち直った経験があった。
電撃使い(エレクトロマスター)、御坂美琴のクローンである二万人の妹達(シスターズ)が、実験のために一方通行の手によって一万人以上を殺害された時、美琴は悲しみと後悔に沈んだ。
しかし、実験が凍結した今、残った妹達(シスターズ)は紛れもなく美琴にとっての妹である。
「……あんな実験、二度と繰り返されちゃいけない。けれど、実験が行われることになったからこそ、あの子達が生まれた。辛い経験だったけど、私はあの子達といられることは幸せな事だと思ってるわ」
深い悲しみが今や、美琴にとっての幸福となっている。これは、実験に荷担していた一方通行にも言える事だった。
一方通行は、実験が行われる直接の原因となったオリジナルの美琴は許さないと言っているが、妹達(シスターズ)、特にも最終ロットである打ち止め(ラストオーダー)に出会えたことには感謝の念を抱いていた。
「これで分かったでしょ、絶無。絶望からでも希望は生まれるのよ! こうも言えるわね。例えあなたの存在が絶望に染まりきったものだとしても、必ず希望になる道はある。絶望さえも消してしまったら、なんにも生まれなくなる。私はそう思うわ!」
サヤはまっすぐに絶無フォーマルハウトを向き、言い放った。
「黙れ傀儡どもが! 絶望全てが希望になるなど、戯れ言に過ぎぬわ!」
絶無は激昂する。
「……もうよい、人々が絶望し、自然に消えていくのを傍観していようと思っていたが、気が変わった。私自らの手で貴様らを葬ってくれよう!」
絶無フォーマルハウトは、左上の翼を振るい、クリスタルのような羽根を飛ばしてきた。
「あぶないっ!」
サヤ達は散り散りになって羽根をかわそうとする。
「ぎっ!?」
羽根の一つが、臨也の肩を掠めた。すると臨也の肩から血が噴き出し、黒いコートに赤みが広がる。
「臨也!?」
美琴は駆け寄る。
「ふふ……おかしいね。この世界じゃ、どこかをやられても、体力のバロメーターを減らすダメージにするだけで、出血、ましてや死ぬようなことはなかったんじゃないかい……?」
臨也は傷口を押さえながら、苦い顔をしながらも笑って見せる。
「ふん、それは所詮私が決めたルールに過ぎん。私が人も死ぬようなルールに塗り替えれば、この世界でも死は訪れる」
絶無フォーマルハウトは、いつの間にか世界のルールを変えていた。それは美琴やサヤのいた世界となんら変わらないものである。
限界以上の電撃を受ける、または斬られた所が悪ければ間違いなく死に繋がる。
これは非常に危険な事態であった。
特殊な能力を持つサヤと美琴の二人ならば戦うすべはあるが、イグニッションデュエルを行ったことによって消耗しており、全力で当たっても通用するかわからない。
さらに、戦えそうな臨也は不意打ちを受けて行動に制限がかかり、ミロクやミイナに至っては戦う能力がない。
戦況は圧倒的に不利に等しかった。
「お遊びはもうせん。貴様らごと全てを無にしてくれようぞ!」
絶無フォーマルハウトは言うと、体をくねらせながら上空へと飛翔していく。そして上空で真っ黒いオーラを纏いながら何かを仕掛けようとしている。
サヤ達は、絶無フォーマルハウトのせんとすることがよく分かった。あれこそが絶無フォーマルハウトの必殺の技に相違なかった。
「まずい! 美琴、臨也、防御を!」
サヤの指示はしかし、二人に届かなかった。
「身を守れって言われても、こいつが!」
臨也は深手を負い、自由に動ける状態ではなかった。
「ははっ、参ったね。これじゃやつの思う壺だね……」
臨也は苦笑する。その間にも絶無フォーマルハウトは負のエネルギーを身に溜めている。
「くっ、一体どうしたら……!?」
最早万策尽きたという様子で、ミロクは歯噛みした。
「これで終わり……? そんなふざけたこと……!」
美琴は状況を認められなかったが、このまま事が進めば、絶無フォーマルハウトの思うがままである。
故に美琴も何もできず、負のエネルギーを溜める絶無フォーマルハウトを睨むしかなかった。
「フォーマルハウト! あなたの思い通りにはさせないわ!」
サヤは無茶は承知で絶無フォーマルハウトへと飛びかかる。
「サヤ!」
「きゃっ!」
サヤの刃はやはり届かず、逆に弾き飛ばされてしまう。
「ぐっ……フォーマル、ハウト……!」
宿敵を相手に、何もできないサヤは悔しさのあまりに、手のひらに爪が食い込んで軽く出血するほどに強く握りこむ。
「くたばれ、凡愚ども!」
全身に負のエネルギーを纏った絶無フォーマルハウトは、その暗黒エネルギーを自らの頭部にため込み、槍の穂先のように変化させた。
「魔槍・フォーマルハウト!」
絶無フォーマルハウトは、翼を折り畳み、体を一本の棒のようにすると、その身をまさにジャベリンのようにした。
そして、旋回すると、暗黒エネルギーを一転集中させた頭部を先端にしてサヤ達に向かって襲いかかった。
「ぐっ……!」
サヤは何もできず、悔しさに奥歯を噛み締めるしかなかった。
竜を狩る者たる力を持つサヤであれば、このような無茶な攻撃であっても受けきる事はできる。
しかし、以前フォーマルハウトとの決戦を行った場所は地球の外にできた異空間であり、どんなに強力な攻撃が炸裂しようとも壊れることはなかった。
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 3 作家名:綾田宗