電撃FCI The episode of SEGA 3
「躊躇している場合ではありません! サヤ、早く!」
「くっ、仕方ないわね……」
事態が事態なだけに、サヤに考える時間など残されていなかった。サヤは言われるがままにミイナにゲージの力を与える。
「いきますよぉー……!」
「全開だぜ!」
ゲージを受けとると、ミロクとミイナは体に全力を込める。エグゾーストという状態になり、二人の体の奥に秘められた力を解放する。
エグゾーストを解放し、準備万端となった所で、ミイナは最強のハッキングを行う。
「セガサターン!」
ミイナは、バーチャルのハッキングツールを出現させ、その手に握りしめる。
特殊なハッキングの使い手の中でも、能力を極めた者にしか使えない上、とてつもない効力を持ったハッキングツールは、意外にもテレビゲームのパッドのようなものであった。
しかも、形状は二千二十一年の東京から考えると相当古い、コードで繋がった物であり、スティックはない。
「はあ? ちょっと、こんな時にゲームのコントローラなんか出してどうするのよ!?」
ミイナが取り出したゲームパッドはこの状況下に全く合っておらず、美琴が驚くのに無理はなかった。
「ふむ、あれはセガサターンだね。九十年代に流行ったハードで、なかなか売れたらしいね。まあ、その頃は俺もまだ物心ついてなかったから、詳しいことは流石に分からないかな」
臨也は言った。
「どうでもいいわよそんなこと! それよりそんなものでこの状況をどうやって……」
「静かにしなさい! あの子達がやろうとしているのは禁断の秘技よ。かなり集中しなきゃ成功しないほど難しい技なのよ!」
サヤがうろたえた美琴を一喝する。すると、ミイナはガチャガチャと十字キーを入力し、緑、黄色、青と灰色小さいボタンを押してコマンド入力を行う。
「接続完了だ。ディスプレイに出せるぞ」
ミロクは、いつの間にか特別な操作をしていた。彼の操作により、気の遠くなるほどの機械語が背景に埋め尽くされているバーチャルの画面が出現した。
ミイナの握るパッドが古すぎるのか、はたまた、古い見た目に反して非常に機能的に進んでいるのか。
いずれが原因か常人には分かりかねるが、互換性がなかったために秘技のコードを出力できなかったのだ。
「ありがとう、ミロク。後は私が……!」
「いや、そいつの難しさはとんでもないんだ。オレが手伝う、さっさとすませるぞ!」
言うとミロクも手を貸し始めた。
「分かりました。では、ミロクはデバッグモードに移行を、その後の細かいコマンドは私が入力します!」
「了解!」
ミロクはキーボードから、すさまじく長いコードを打ち込み、デバッグモード画面を開いた。
「デバッグモードオープン。コマンド入力準備よし! 今だミイナ!」
ミイナは、手元のパッドの全ボタンを使用して、秘技を発動するコマンドを入力し始めた。
デバッグモードの画面はごちゃごちゃしており、素人目からは何が何やら訳の分からない代物である。
しかしミイナは、複雑なコマンドを的確に入力して、目的のデバッグ箇所を探している。
――見つけました!――
ミイナは、今この場所をプログラムとして表示した時に、どのように表示されるのかを示すデバッグの中から、この場での運動、力量、速度など物理的要素に関連するものを見つけた。
ここまで来ればやるべき事は一つ。
絶無フォーマルハウトの物理法則を完全にゼロにする事である。
アタックゲイン、ディフェンスゲイン、スピードゲインといった動きの基本となるこの中から、この秘技のメインであるファンクションを探す。
しかし、それは簡単に出現させられるものではない。非常に長く、複雑で、おまけにフレーム単位でのコマンド入力が必要となる。
――AB同時押し、一フレームでBを離す。そしてABCボタン同時押し、五フレーム以内で左、斜め右下BC、すかさず右、Cボタン……!――
ミイナは正確かつ、一切の誤差なくコマンドを入力した。
コマンド入力は成功した。画面上にはアタック、ディフェンス、スピードゲインの下にMUTEKI MODEという選択肢が現れた。
「決まりです!」
ミイナは、カーソルを例の選択肢に合わせパッドの中心部、スタートボタンを押す。その瞬間、絶無フォーマルハウトの攻撃判定はゼロになった。
「ふふ、敗北なんて存在しませんよ……!」
瞬間、サヤ達全員を輝く光が包んだ。
そしてミイナは、難しいコマンド入力に成功し、安心しつつ、珍しく得意気な笑みを浮かべていた。
「ふんっ! 何をしたかは知らぬが、この私の一撃を止める事などできぬわ!」
魔槍となった絶無フォーマルハウトは、もうサヤ達のすぐそばまでやって来ていた。
そして穂先となった絶無フォーマルハウトの頭が、サヤ達を貫き通さんとしたとき、にわかには信じられない現象が起こった。
「何っ!?」
絶無フォーマルハウトの攻撃はサヤ達をすり抜け、地面をえぐった。
えぐられたアスファルトは、見るも無惨な状態になっているが、絶無フォーマルハウトの攻撃の威力は、この世界ごと全てを吹き飛ばすほどのもののはずだった。
「バカなっ! 私は世界ごと破壊しようとした! それなのに何故それができん!?」
絶無フォーマルハウトは完全に混乱していた。
「哀れですね、フォーマル……いえ、絶無。私達の施したハッキングはどんな威力の攻撃でも無効にします!」
「地面がえぐれたのは、ただのエフェクトだ。しばらくおまえの攻撃はサヤをすり抜けるぜ!」
ナビ二人は秘技の正体を明かした。その正体とは、絶無フォーマルハウトの攻撃の威力を完全にゼロにするばかりか、ほとんど当たらない、まさに禁断の秘技であった。
「ふう……」
ミイナは不意に目眩を感じ、その場に屈んだ。
「ちき、しょうが……!」
ミロクも同じように、強い目眩に膝をつく。
「ミロク、ミイナ!?」
サヤは駆け寄った。
「二人とも、大丈夫!?」
「ちょっと、きつい……」
「やせ我慢なんかできねえぜ……」
敵に直接的にハッキングを仕掛けることのできるハッカーの技、それも奥義と呼ばれる技を使用した後である。
サヤのような、真のS級能力者ではない二人には、エグゾーストすることそのものが非常に体への負担が大きかったのだ。
「安心、しろ、サヤ……」
ミロクは辛そうな声を出す。
「しばらくサポートはできんが、効果はちゃんと効いている……」
無敵効果はしばらく続き、この瞬間が攻め込む絶好のチャンスである。
しかし、効力はそう長くは続かず、その上サポートが回復する速度は、通常の四分の一まで落ちていた。ゲージも使用する都合上、連発はできない。
「けど、二人を放って戦うなんて……」
「何を迷ってんのよ! 今がチャンスなのよ。打って出なくてどうするのよ!?」
美琴が叱咤する。今、絶無フォーマルハウトはパワーダウンしており、ナビ二人が全力のサポートをしてくれたおかげで、攻め入るのにまたとない好機である。
「サヤさん、美琴さんの言う通りですよ! 今のうちに絶無に止めを刺してください!」
電神ドリームキャストは叫ぶと、サヤと美琴に向かって何かを放った。
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 3 作家名:綾田宗