電撃FCI The episode of SEGA 3
オレンジに輝く二つの物体が宙を舞い、サヤ達にゆっくりと近付いていった。
二つのオレンジのもの、それはサヤ達の手元に届くと、はっきりとした姿となった。
美琴には、手のひら大の一回りはゆうに超える、巨大な渦巻きの装飾のある円盤が現れた。
一方、サヤの手元に出現したのは、細身の剣であり、鍔の部分にはやはり、美琴のコインのような渦巻きの飾りつけがなされていた。
「これは……!?」
サヤと美琴は同時に驚きの声を上げる。
「全ての人の夢と希望のこもった剣と盾。ドリームブレードとホープシールドです。私の愛用の武器と防具、お二人に託します。それを使って今こそ絶無を討ってください!」
サヤと美琴は、電神ドリームキャストから武具を得たことにより、願いを託された。絶望の塊たる絶無を討ち取るのは今しかない。
「だったら、私が全部決めてやるわ。もうあんないけ好かないやつ、二度と復活できないくらいギタギタにしてやるわよ!」
ホープシールドを携え、美琴が前に出る。
「待ちなさい! 武器も持たないで一体どうするつもりなのよ。ここは一緒に……!」
止めておきなよ、とサヤを制止したのは臨也である。
「ミコちゃんには、盾さえも武器にする力がある。下手に近づくと、黒焦げにされちゃうかもしれないよ?」
臨也は、美琴の意図することを完全に見透かしているかのように、口角をつり上げる。
美琴は、パワーダウンして動けない絶無フォーマルハウトへと近付いた。そしてかなり近い間合いで歩みを止める。
まさか盾で絶無フォーマルハウトを殴り付けるつもりなのか、そんな考えがサヤの頭を過った。
しかし、美琴は予想外の事を始めた。
「ふうぅぅぁぁああ……!」
全身に力を溜め、電気をバチバチ放出する。そして美琴は左右にプラズマの柱を作る。
「はああぁぁぁ……!」
美琴の行動はこれに止まらない。プラズマの柱に横に伸びるプラズマを形成した。それはちょうど、大文字のTを真横にしたような形となった。
美琴の最大出力である十億ボルトもの電圧から流れる電流は、雷の持つ電流の二倍以上、千アンペアにも達していた。
そのような超強力な電圧、電流を帯びたプラズマの柱には比例して、とてつもない磁界が発生していた。そう、それは美琴の代名詞、超電磁砲(レールガン)を撃つときに右手に込める電気を圧倒的に越えている。
これは、希望の力がなせる、物理法則を完全に凌駕するものだった。
「オラァ!」
美琴は両手で回転を加えつつ、ホープシールドを上に投げた。ホープシールドはさながら超電磁砲(レールガン)の弾になるコインのように、くるくると宙を舞う。
そして二本のプラズマの柱の間に入り込むと、強烈な電磁力の影響を受けて、ホープシールドの降下速度はゆっくりとしたものになる。
その間に美琴は最後の仕上げに入っていた。
超電磁砲(レールガン)の弾丸になるホープシールドは、それなりに重量がある。コインを打ち出すように指で弾いた所で大して動かない上、殴り付けるのは美琴の得意とする行動ではない。
故に、美琴が選んだのは、自身の切り札の動きと同じ、キックボクサーも顔負けの蹴りであった。
美琴は足に電気を帯びると、左足を軸に回転しつつ右足でハイキックを放った。
「ちぇいさー!」
お決まりのかけ声とともに放たれた蹴りは、見事にホープシールドを打った。
蹴りの衝撃を受け、ホープシールドは超強力な磁界へと入り込むと、ローレンツ力を受けて一気に音速以上まで加速する。
弾丸であるホープシールドは、美琴がいつも使用するコインの何倍もの大きさであるために、超電磁砲(レールガン)の威力もすさまじいものになっていた。
電磁力による加速を受けたホープシールドは、極太の熱光線を伴って、絶無フォーマルハウトを貫いていく。美琴の超電磁砲(レールガン)はまさに、超電磁砲S(レールガン・スペシャル)と呼ぶにふさわしいものになっていた。
超電磁砲S(レールガン・スペシャル)をまともに受け、絶無フォーマルハウトは苦悶の叫びを上げる。しかし、とてつもない威力の攻撃を受けながらも、絶無フォーマルハウトはまだ倒れなかった。
「あいつ、あんだけの威力の超電磁砲(レールガン)を受けといて、まだ生きてられるっての!?」
驚愕する美琴の後ろから、サヤがクリスタルのイバラの上に跳び上がり、その上を駆けた後に美琴の前に降りた。
「後詰めは任せなさい!」
サヤは左手に愛用の刀を、右手にドリームブレードを持った二刀流のスタイルを取っていた。
「あっ、ずるい! アンタさっきまで何もしてなかったくせに!」
美琴はまるで、狙っていた獲物を横取りされたような気分になっていた。
「電神からもらった特別なものはもう使っちゃったでしょ? 後は私に任せてそこで見ていなさい!」
「あ、こらっ、サヤ!」
サヤは一言言い残すと、かなり手負いの状態となった絶無フォーマルハウトに向けて走った。
そして間合いに入ると足を止め、斜めに回転しながら地を蹴った。二対の刀の刃を上に向け、跳躍の勢いを乗せる。
「飛天断ち!」
サヤは二本の剣により、絶無フォーマルハウトの右半分の翼を断ち斬った。そして今度は落下する勢いを刃に乗せ、左半分の翼を狙う。
「降地断ち!」
サヤは縦に回転しながら、絶無フォーマルハウトの左の翼を断ち斬りながら着地した。
「ガアアアア!」
絶無フォーマルハウトは、両方の翼を断ち斬られた事によって支えを失い、顎から地面へと崩れ落ちる。
絶無フォーマルハウトの身動きの自由を奪い、サヤは止めに移る。
――強い願いが希望を繋ぐのがこの世界の理なら……!――
サヤは愛用の刀を空にかざし、心に強く念じた。
「真竜を討つ唯一の力、人類の希望……! 現れなさい、竜殺剣!」
サヤは希望、願いを大きな声で叫ぶ。すると次の瞬間、刀は水色の輝きを放ち、その姿を変えていった。
サヤの刀は、青水晶の原石をそのまま削り出して作ったような両刃の剣になった。刀身には、左右対称に突起があり、どこか鍵を連想させる形をしている。
人類の希望と夢、そしてサヤのS級能力(狩る者)の力が、真竜を唯一討ち取れる鉱石、オリハルコンを生み出した。
オリハルコンの竜殺剣は、青水晶のように水色に輝いており、その美しい煌めきに反してその硬度はこの世界のどのような物質よりも硬くできていた。
竜殺剣、という名前を持っているだけあって、相手がドラゴンであれば、真竜さえも一撃のもと葬り去ることができる。
しかし、この竜殺剣には弱点もあった。
――竜殺剣を使えるのは、一度だけ。あそこまで弱ったヤツといえども、当て所が悪ければ仕損じる……――
サヤがかつて、フォーマルハウトを討ち取ったとき、使用したのは今手にしているような竜殺剣である。
大昔に比べ、マナの量の少ない現代の環境に加え、竜殺剣を作り上げたのは、ナビ二人と同じ人工生命体であった。
オリハルコンを精製するのに特化した能力を持つ種族のコピーである以上、一度きり当てるのが限界の竜殺剣しか作ることができなかった。
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 3 作家名:綾田宗