電撃FCI The episode of SEGA 3
「はあ……もういいわ。好きにしてちょうだい。さっさと行くわよ」
美琴は駅舎の入り口へときびすを返す。
臨也はすぐに後を追わず、立ったまま美琴の後ろ姿を見送りながら不敵な笑みを浮かべていた。
――さて、どうなるかな……?――
「臨也、何してるの? さっさと来なさい」
「ああ、ゴメン。今行くよ」
臨也は、何やら思惑を持ちながら美琴の後を付いていくのだった。
※※※
ムラクモ機関は、先の真竜フォーマルハウトによる竜災害並の混乱に包まれていた。
全て狩り尽くしたはずのドラゴンが丸ノ内に出現し、その反応の中には真竜に等しい反応があった。
そして、あまりに不測の事態がムラクモ機関を襲っていた。
「……議事堂内、生体反応ありません」
深緑の髪をし、サイバーチックな衣服に身を包んだ少女が報告する。
「ダメだっ! 都庁のほうにも生体反応がねえ。まるで神隠しだ!」
少女と良く似た姿の少年は、竜災害直後の異常事態に慌てていた。
「そんな、キリノや他のみんなは!? 一般の人達も消えたっていうの、ミロク、ミイナ?」
腰までありそうな黒髪に、赤いスカーフが目を引くセーラー服、左手には鉄製の籠手をはめ、腰に刀を差している少女も、この突然の事態を飲み込めずにいた。
「消えた、というよりも存在していた形跡がない、っと言った方が正しいかもしれません」
ミイナと呼ばれたNav3.7は、持ち前の情報処理能力で事態を冷静に分析した。
「ああ、ミイナの言う通りだ。総長……ミズチの時と違ってどこかに連れていかれたってわけじゃねえみたいだ」
Nav3.6、通称ミロクはミイナの分析に賛同した。
「それじゃ、一体何が起きて……?」
「むしろ消えた扱いされてるのはオレ達の方かもしれないぜ、サヤ……」
「えっ?」
サヤ、刀子サヤ(かたなこ)は、ミロクの言葉をすぐに理解できなかった。
「ミロクの言う通りかもしれません。サーチをかけているけど、東京都内のどこに向けてもエラーコードが返ってくるだけ。ひょっとしたら、ここは現実の東京じゃないのかも……」
「それって、異世界に呼び出すドラゴンに、私達が?」
「いや、それはない。丸ノ内にだけ真竜反応があるが、これはフォーマルハウトのものだ。奴にはこんな能力なかっただろ?」
人を混乱に貶めるドラゴンは確かに存在していたが、人を異世界に連れ込むようなドラゴンはいなかった。むしろドラゴンのすることは、東京を毒花フロワロに沈め、東京を異界にする事だった。
「っ!? ちょっと待ってください!」
ミイナが新たな異変を察知し、丸ノ内周辺により詳しいサーチをかける。
「どうしたの、ミイナ?」
「真竜、ドラゴンの反応の他に、生体反応を見つけました。丸ノ内駅舎内に、人の生体反応が……!」
「それは本当っ!?」
「ミイナの言う通りだ。丸ノ内に人間の生体反応が、しかも二つある。しかもこの反応、ただ事じゃないぞ!」
二人のナビが察知した生体反応は、お互い少し離れたところに点在しており、片方はドラゴンに囲まれているのか、多数のドラゴン反応の中にいた。
「この反応、S級能力者か? とてつもない生体エネルギーの塊だ!」
ナビ二人がドラゴン、他の反応映し出す簡易的電子レーダーには、S級能力者と思われる人間の生体反応に、ドラゴン反応は今にも襲いかかろうとしていた。
「くそっ、あの生体反応の主、いくらS級能力者っつってもこの数のドラゴン相手じゃ……!」
「どうにか助けられないの!?」
「ムリです、反応を捕捉しているだけでは、どうしようも……」
「そんな!」
せっかく発見した人間の生体反応であったが、ドラゴンの襲撃で消失してしまう。そんな絶望がサヤ達を過った瞬間だった。
「ん!? おい、二人とも、これを見ろ!」
ミロクはふと、端末を二人に向けた。
青い点、人間の生体反応に対する紫の菱形、ドラゴン反応が次々に消滅していく。
「これってまさか!?」
「そのまさかです。あのS級能力者、どうやらドラゴンを一人で倒しているようです」
生体反応を囲っていたドラゴン反応は、やがて全部消失した。
しかし、ミロクの端末に警報音が鳴り響く。
「またドラゴン反応だ。しかもさっきより多いぞ!」
「ドラゴン反応……八、九、十……全部で十八!?」
「そんな、さっきのを切り抜けたとしても、連続してその数は!?」
サヤは幾度もドラゴンを相手にしてきたが、一度に十を超える数とは戦うことはなかった。
ドラゴンとの戦闘は総力戦であり、そう連続してできるものではないことをよく知っている。そのためそれほどの数と遭遇した時は逃げるしか選択肢はない。
しかし、生体反応のいる場所は袋小路となっており、脱出は不可能であった。今度こそ生体反応は消えると思われた。
しかし、サヤ達の予想はまたしても外れた。
「お、おい! なんだこの数値は!?」
「熱エネルギー急上昇中……最高到達度、五ギガジュール!?」
「これじゃまるでアイツが現れたみたいじゃないか!」
「ええ、超電磁砲、帝竜ジゴワット。あれの放出するエネルギーに等しい……!」
ミロクの端末に表示される生体反応から発せられる熱量はやがて、端末の画面全体に及び、ドラゴン反応を消し去った。
「ドラゴン反応全消滅だ……」
気がつけば、端末の拾っている反応は、S級能力者と思われる者以外の反応がなくなっていた。
「あれほどの力、一体どんな……」
「悩んでても仕方ないわ、見に行って見ましょう!」
サヤは生体反応のある、丸ノ内へ向かうことを提案する。
「おい、本気か? ムラクモ機関の人間は今オレ達しかいないんだ。作戦行動するにも人員が少なすぎる!」
ただ僅かな数だけ現れているドラゴンを相手にするならばいざ知らず、帝竜以上の存在、真竜を討伐するのに今のサヤ達の状況は芳しくなかった。
自衛隊、アメリカの異能力集団CECT11(セクトイレブン)のバックアップ、ミロク、ミイナら解析班によるサポート、そしてムラクモ機関現総長桐野礼文(きりのあやふみ)による司令がなければ真竜を倒すなど到底不可能な事であった。
そして今、ミロクとミイナの二人を除き、ムラクモ機関の人間は三人しか残されていない。十三班の他の仲間がいない今、これではそもそも勝負にならない。
「ミロクの言う通りです。無策で敵陣に突っ込んでいくなどわざわざ死ににいくようなものです。今は様子を見ましょう」
ナビ二人にたしなめられながらも、サヤの気持ちは変わっていなかった。
「じゃあどうするっての? ここで息を潜めてフォーマルハウトがまた暴れだすのを待つつもり?」
「それは……」
今、フォーマルハウトがいつかのように、議事堂へ襲いかかってくるとも知れない。十三班の仲間がいない以上、襲撃されれば間違いなく人類最後の希望の地は滅び去り、次こそフォーマルハウトの勝利に終わってしまうことであろう。
「もちろん、私だけでフォーマルハウトを倒そうなんて考えちゃいないわ」
「サヤ……?」
「ミロク、ミイナ。これまで通りナビをお願い。そして、今丸ノ内で戦っている能力者にも協力をお願いするつもりよ」
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 3 作家名:綾田宗