電撃FCI The episode of SEGA 3
フロワロの出す花粉は、吸っただけで精神に作用する、麻薬のような代物である。一時快楽を得られるが、効果が消えれば強い禁断症状が出る。
誤ってフロワロの花粉を吸い込んでしまい、依存した上で廃人になるという事故がかつて一度だけあった。
しかし、サヤが摘み取ったフロワロからは、何も香りがしなかった。花粉を一切飛ばしていないのである。
「……おかしいわね、これほんとにフロワロ? あの嫌な匂いも、間違って触っちゃった時のピリピリする感じもしない。これじゃまるで本物そっくりの造花……」
サヤが訝しげに摘み取ったフロワロを手の中で転がしていると、フロワロは真っ赤な花弁を散らし、突如として消えてしまった。
「消えた……?」
「サヤ、ミロク、これを見てください!」
ミイナは端末を片手に叫んだ。
「これは!?」
ミロクは一目見ただけで、端末が何を表示しているのか分かったが、サヤには分からなかった。
ミイナの端末の画面には、この周辺の映像が表示されている。その映像の中では、フロワロとその周りの色が緑で示されていた。
「ねえ、これって一体何なの?」
「これはフロワロの毒素を表示するアプリケーションだ。毒素が強いほど画面表示は赤くなるんだ。逆に少ないほど表示はこんな色になる」
「これほどフロワロが咲いているというのに、こんな表示ありえません。ですが端末の異常は見られません。となれば、この表示に間違いは無くて、フロワロは偽物ということです」
サヤが身をもって試した事、そして端末が故障しているわけではないという結果から、ここにあるフロワロは全て偽物ということになる。
「偽のフロワロ……でも確かにドラゴンの反応はあるのよね?」
サヤが訊ねると、端末は警報音を鳴らした。
「ドラゴン反応です! それほど強くない種類ですが、数が多いです!」
「気を付けろ、サヤ!」
「任せて、この程度ならすぐに終わる! 二人は少し下がってて!」
サヤは腰の刀を抜き放ち、ドラゴンの接近に備える。そして間もなく、ドラゴンの姿が現れる。
しかし、現れたのはドラゴンだけではなかった。
謎の青年が一人、ドラゴンに追いかけられるようにサヤの方へ駆け寄って来た。
「あれは……生体反応検知、間違いない、人間だ!」
「やあ、そこの君! 俺は今ドラゴンに追われているんだ。助けてくれないかな?」
青年は助けを求めるが、妙に余裕が感じられた。まるでドラゴンに、自身をわざと襲わせているかのようだった。
「なに、あいつ?」
サヤは青年の妙な雰囲気を不審に思う。しかし、見たところ普通の人間にしか見えない。特別な能力などを有しているようには思えなかった。
「助けてくれるよね、君?」
青年はいつの間にかサヤの後ろに立っていた。サヤどころか、ミロクとミイナの後ろにまで隠れている。ドラゴンと戦うのだけは断固として反対する、そのような意思を感じた。
「よくもまあ、こんなに連れてきたものね……。いいわ、怪我したくなかったらそこから動かないことね!」
「ふふっ、助かったよ!」
青年はやはり、ただの民間人とは思えない様子だった。ドラゴンを直に見て、その上追いかけ回された後だというのに、笑みさえも浮かべている。
「ミロク、ミイナ、二人ともナビをお願い!」
「お任せを!」
「サポートするぜ!」
サヤ達は、青年が連れてきたドラゴン四体と対峙する。
「さあ、行くわよ!」
サヤが先制攻撃を仕掛ける。ドラゴンへと接近し、刃を振るう。
「せいやっ!」
サヤは回転を利用した袈裟斬りで、小型のドラゴン一体を沈める。
「サヤ! 後ろからも来るぞ!」
「分かってる!」
サヤは身を翻し、襲い来るドラゴンに、欠けた三角を描くように剣を振った。
「秘剣・影無し!」
上部に与える攻撃は軽く、足下に与える一撃を重くすることにより、相手の足を刈って体勢を崩させる攻撃である。
体勢を崩して転んだ相手に、サヤは止めの一突きを食らわせた。
二匹のドラゴンを下したところで、今度はその残りの二匹がサヤへと襲いかかる。
「横からの挟み撃ちです! 気を付けて!」
「バッチリよ!」
サヤは、両サイドから来る敵の間合いをしっかりと計り取り、距離の近い方を標的にした後、サヤは刀を納める。そしてマナを込め、刀を一気に抜き放ち同時に、やってくるドラゴンを真っ二つに切断せんと、サヤはすれ違い様に刃を振るう。
「斬り込む!」
サヤの姿は瞬間的に、ドラゴンの背後に現れた。
「動くと危険よぉ?」
サヤが納刀した瞬間、刀に込められたマナは、刃に燃え盛る炎を持たせ、サヤの剣を灼熱の刃にしていた。熱気の込もる赤い閃光が走る。
高熱を持った刃による、超高速の居合いによって断ち切られたドラゴンの体には、斬撃と高熱の炎による一撃により、ドラゴンは切り傷、大火傷の二つを負って生命活動を停止させていた。
しかし、ドラゴンはまだ一体残っている。その残った一体は、両肩にある角のようなものを立て、サヤに突き刺そうとしていた。
「突っ込むわよ!」
サヤはドラゴンが来る前に、自ら仕掛けた。
マナを今度は冷気へと転換し、零度以下まで温度の下がった刀からは、冷気の煙がゆらゆらと立ち上った。
そしてサヤは先ほどのように、抜刀と同時にドラゴンの横を駆け抜けて斬りつけた。冷気の青い剣閃が煌めく。
「痺れてなさい!」
サヤは、斬撃と同時に放った零度以下の冷気によって、傷口から溢れだすドラゴンの血を一気に凍り付かせた。それにより血流を塞き止め、ドラゴンの息の根を止めた。
「ドラゴン反応、全停止だ」
「やりましたね、サヤ!」
サヤは血払いをし、手の中で回しながら刀を仕舞った。
「フフン、この程度どうってことないわね!」
ナビ二人から労いの言葉をかけられるサヤは、まだ余裕といった様子で、得意気な笑みを浮かべていた。
サヤ達が勝利の余韻に浸っていると、不意に拍手する音が辺りに響いた。
サヤは音のした方を見ると、ドラゴンを連れてきた青年が不敵な笑みで、一人喝采を送っていた。
「いやぁ、すごいすごい、あの数のドラゴンを一人で倒すなんて。大したものだよ」
青年はサヤを賞賛する。
「……さすが、ムラクモ十三班だね」
青年はサヤ達の正体を知っているようだった。サヤ達の間に、青年に対する疑念が浮かぶ。
ムラクモ十三班の存在は、東京中に知れ渡っているが、あくまでこのようなチームがいるということが明らかとなっている程度であり、実際どのような人物がムラクモ十三班のメンバーなのか。ここまでは機関そのものが明らかにしていない。
故に、一目見ただけでサヤを、ムラクモ十三班の一員だと判断付けるのは内部者以外には不可能なことのはずだった。
「あいつ、なんだか物凄くきな臭いな……」
「同感です。何故彼は、サヤの事を知っているのでしょうか……」
ミロクとミイナも、青年を訝しげに見始めた。
「ハハハ……! 君達の事も知ってるよ? ムラクモ機関で人為的に造られたっていう人工生命体、Navシリーズの、男の子の方は3.6、女の子の方は3.7……あだ名はそれぞれのロットナンバーをもじってミロクにミイナ、だったよね?」
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 3 作家名:綾田宗