電撃FCI The episode of SEGA 3
最高の国家機密である過去のムラクモ機関の実験によって生まれたという二人の生い立ちを、見ず知らずの青年に見事なまでに言い当てられた。二人は驚愕せざるをえなかった。
「どうしてそれを……!?」
「あなたまさか、ムラクモ機関の関係者だったの!?」
サヤも驚きをあらわにしていた。
しかし、サヤ達の驚きを見ながらも、青年はただ笑うだけである。
「そんなんじゃないさ。この世界は色々と不思議だからねえ、俺なりに調べて回ったのさ。そこで偶然にも見つけちゃったんだよ。君達ムラクモ機関についてね。いやぁ、可哀想にねぇ……君達Nav シリーズは、実験の後遺症で長生きできないそうじゃないか。まだ子供だってのに……」
でも、と青年はサヤを見る。
「君は違うね。その能力、外部から与えられたんじゃない、生まれつき持っていた。そんな感じがするんだけど違うかい?」
青年はニヤリ、と不敵な笑みをサヤに向ける。
サヤは内心戸惑っていた。何故この青年はそこまで分かるのか。心を見透かされているような気がして不気味さを感じたのだ。
「あなた、一体何者なの……?」
サヤの問いは、青年に笑ってあしらわれてしまった。
「ハハッ! 俺は人間を愛している、人間ラブな男だよ。愛しているものの事を知ろうとする事は当然だろう?」
「愛して……?」
「ああ、愛しているとは言っても、別に君個人を愛しているわけじゃないからね。ここじゅーよー」
それよりも、と青年は話題を変える。
「さっきも言った通り、俺は人間を愛している。君達ムラクモ機関は非人道的な手段で彼らのような改造人間を造ってきたんだろう? それは許すまじき事だ。人間ラブな俺としても、それは許せないね。だから、何が目的かって訊かれたら、俺はこう答えるよ。ムラクモ機関に、裁きの鉄槌を下す、ってね」
「勝手なことを言うな!」
青年の長口上に反駁したのはミロクであった。
「確かにそのような実験で私達は生まれました。ですが、そんな実験を進めていたのはムラクモ機関の初代総長。彼女は、自らの欲望のために実験を行っていたのです!」
ミイナも言い返す。
「そうだ! そしてそいつはもう死んだ。サヤは関係ない、全部悪いのは、あの女だ!」
「ミロク、ミイナ……」
必死にサヤの潔白を叫ぶ二人を、サヤは嬉しく感じた。
人工生命体そのものであるナビ二人に否定されながらも、青年は両手を広げるだけだった。
「やれやれ……君達も分かってないねえ……。例え今はいいと思っていても、ムラクモ機関のしてきた事、人体改造の事実は消えないだろう? 君達自身がその証拠になってるんだからさ」
「それは……」
「くっ……!」
ミロクとミイナは言葉に詰まってしまった。
青年はサヤを見る。
「君、サヤさんだったよね? 君はどうしてムラクモ機関にいるんだい? 非人道的な実験をしていた機関に、そこまで固執する必要があるかな? その上君はムラクモ機関のエースじゃないか。非人道的な機関のエースで良いことなんかあるとは思えないんだけどなぁ……」
サヤには、青年の言っていることが分かる気がした。何も知らずにムラクモ十三班に配属され、当時の総長、日暈棗(ひかさなつめ)の人権を無視した作戦に加担していたのは、確かな事実である。こんなものが本当に最善策なのかと思われる作戦も数多くあった。
そして、サヤは踊らされるがままに彼女の作戦を実行し、結果的に多くの犠牲を払ってしまった。
「私は……間違った事をしてきたわ。ナツメの言うがままに動いて、あいつの欲望に満ちた計画を成功させてしまった……」
「お、おいサヤ、何を言って……!?」
「こんな男の口車に乗っちゃだめです!」
ナビ二人は、サヤが気を落としたのではないかと心配する。しかし、その心配はすぐに杞憂に終わった。
「……私は確かに、間違った事に手を貸してきた。けれどそれは、全ての大元を辿ればドラゴンに行き着く。ドラゴンの存在が全ての悪の元凶だと思うわ」
「ほう……」
青年はやはり、不敵な笑みを浮かべている。
「ドラゴン……真竜がいたから、世界はフロワロに包まれてしまったのよ。そんな世界さえなければ、きっとナツメだって、あんな計画を考えることさえしなかったに違いないわ!」
サヤが言った瞬間、青年は大声をあげて笑った。
「アハハハ……! 何それ? つまり自分達のしてきた事は全部ドラゴンのせいにするっていうの? ナツメとかいう人の心が歪んで、その人は手段を選ばずに非人道的な事に手を染めるようになったっていうのを含めて全部ドラゴンのせいにするってこと?」
「そうよ、ナツメは確かに許しちゃいけない女だった。けれども、ナツメが道を外したのは、間違いなくドラゴンの影響があったから。そう考えれば、ナツメも私達と同じ、ドラゴンの被害者の一人なのよ! 私達となんにも変わらない、ね……」
青年はまた大笑いするのかと思いきや、真剣な表情となってサヤをまっすぐ見つめていた。
「そっか、じゃあ残念だけど、君とは分かり合えそうにないや。いやぁ残念、君はドラゴンという一つの存在に全てを擦り付け、人を人と思わない実験さえも仕方のない事だとした。そんな極悪人……いや、人と呼ぶのもおこがましい奴は彼と同じ、化け物だ……」
ふと、青年は顔をサヤから反らし近くのクリスタルのイバラに向かって大声をあげた。
「そこにいるんだろう、ミコちゃん? 彼女の事どう思う!?」
すると、イバラの陰から制服姿の少女が姿を見せた。
「立ち聞きなんて趣味悪いじゃない、いるんならすぐに出てくればいいのに、ミコちゃん?」
制服姿の少女はムッ、とした様子で答える。
「臨也、あんたが勝手にドラゴン引き連れてどっか行っちゃったんでしょ。それにやっぱ気にくわないわね、その呼び方。私には御坂美琴って名前があるんだから!」
臨也と呼ばれた青年は大仰に両手を広げる。
「やだなぁ、それについては俺が、彼女が刀子サヤかどうか調べに行く、って言っといたじゃないか。それから、最終的に呼び方は好きにしていいって言ったのは君だよ、ミコちゃん?」
臨也は図々しくも、美琴の言葉を覚えていた。
「……まあいいわ、臨也どいて、あいつが極悪組織のリーダー格なのか、私が直に調べてやるわ。やつが世迷い言言ってるだけかも知れない」
美琴はサヤを向いた。
「あんたが刀子サヤね?」
素性が知られてしまっている以上、サヤには白を切る事はできなかった。
「この生体反応……!?」
ミロクは端末に映る画像と数値に驚きを見せる。
美琴から分かる数値、それは凡人のそれを圧倒的に凌駕し、とてつもない生命力を有し、普通の人間には持ち得ない特殊な能力を明らかにしていた。
「体内にものすごい電気を持っているな。最大電圧は……十億ボルトだと!?」
この数値は、雷雲が落雷を引き起こす時に叩き出す数値に等しかった。
「これほど高圧の電気、そしてそれを自在に操れるとしたら……。間違いありません。御坂美琴、彼女こそが超電磁砲を撃った正体、S級能力者です……!」
ミイナは確信を持って言った。
作品名:電撃FCI The episode of SEGA 3 作家名:綾田宗