撮・影・感・度
聞きなれた声に見慣れた姿、と言っても実際会うのは久し振りな気がする。
「よぉ、エース。随分忙しそうじゃねぇか」
「お蔭さんでね。マネージャーが敏腕すぎるサドなもんで、スケジュールぎっしりだよ」
「マネージャーが敏腕サドなら、テメェは多忙すぎんのが快感なマゾだろ」
元からモデルの仕事にも芸能界にも興味のあったエースは、多忙なスケジュールもまんざらでもなさそうだ。
そんなエースにゾロはニヤリと笑ってからかってやる。
話題に上ったエースのマネージャーは、スタジオの入口でエースを待っているらしい。
「その多忙な芸能人が、こんな所で何やってんだ?」
「仕事の合間に同僚の様子を見に来てやったんじゃねぇの。冷たいなぁ」
「…お疲れさん、お先に」
ゾロとエースの会話を割って、既に機材を片付けて、荷物を持って帰る準備を整えていたらしいサンジが横から顔を出した。
ゾロとエースに軽く手を振って、スタジオを出て行く。
お疲れ、とゾロも返してその姿を見送ったが、エースはサンジの姿を見て首を傾げた。
「今の…誰?」
「サンジってカメラマン。シャンクスの代わりだってよ」
「ふう…ん」
スタジオの出入り口でエースのマネージャーにもヘコリと頭を下げて出て行ったサンジを見ながら、エースはまだ首を傾げている。
ゾロはゾロで、相変わらず外見と中身にギャップのある妙な奴だと思いながらその姿を見送ったのだが。
「…何だよ?」
「いや…何か今の奴、どっかで…」
「知り合いか?」
「うーん…」
しきりに首を傾げるエースにゾロが問うが、はっきりした答えはない。
エースも思い出せないようだ。
しかし知り合いと言うにはサンジの態度もそんな感じではない。
考え込むエースの回答を待ったが、
「エース! そろそろ時間だぞ!」
間とエースの思考は、そのエースのマネージャーの声によって打ち止めにされた。
「はーいはいはい! んじゃ、ゾロ。またな」
「ああ、仕事頑張れよ」
マネージャーの男…短い銀髪にいつでも葉巻を銜えているスモーカーに返事をしたエースは、大きくゾロへ手を振って走っていく。
エースと共に去るスモーカーが一度ゾロを振り返ったので、ゾロはスモーカーに小さく会釈をして見せた。
どうやらシャンクスやベンとは旧知の仲らしいスモーカーがマネージャーならば、エースは問題なく芸能界でやっていくのだろう。
ゾロは二人の姿を見送って、自分も早く帰ろうと更衣室へ向った。
「なぁ、スモーカー。さっき出てったカメラマン…知ってる?」
「サンジか?」
「あ、やっぱ知ってんだ? 俺もどっかで見た事あるような気がしたんだよな…でも顔良く解んなかったし…」
ビルの裏手、駐車場に止めたスモーカーの車に乗り込んだエースは、運転席のスモーカーに話しかけてからまた考え込んだ。
そのエースの様子に、スモーカーは吐き出した紫煙を窓の外へ逃がしながら、呆れた顔をする。
「お前は…自分の出ていた雑誌もまともに見ていなかったのか?」
「雑誌…って…。…あ…ああ! そうか、どうりでどっかで見た事あるはずだよ」
スモーカーの言葉にしばらく考えたエースは、思い出すと同時に手を叩いた。
ようやく思い出したそれにスッキリした顔をして、次には明るい笑い声を上げる。
「ゾロの奴、全然気付いてなかったなー」
スモーカーの運転する車は、静かにビルを離れて行った。