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DEFORMER 2 ――キズモノ編

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 と言っても何かに使うわけじゃなく、ただのコレクションとして、手の内に置きたい。
 そんなくだらない理由だったらしい。
 まあ、英霊の魂の欠片とか集めるくらいだから、ちょっと変な趣味を持ってるとは思ったけど、誘拐までやってしまうってところが恐ろしい。
 あの変人魔術師は、冬木の聖杯戦争で、サーヴァントを生で一騎、固有結界なんてものを扱う魔術師を一人手に入れたってわけで、さぞテンションが上がったことだろう。
 収集家って、みんなそんななのか?
 欲しいもののためなら、手段を選ばない?
 それは問題だと思う……。
 いくら欲しくたって、いい大人が、そんな子供みたいな、駄々っ子みたいな……。
 その変人魔術師にも驚いたけど、もっと驚いたのは、あれから二年も経っていたことだ。俺が身体を改造されていた期間は一年間くらいだと思う。その後にあのミュージアムで二ヶ月足らずを過ごしていたと思ってたのに、その六倍の月日が流れていたなんて信じられない。
 あのミュージアムは特殊な結界で覆われていたらしいから、時間軸もおかしかったんだろうな。
 遠坂は、俺が拉致されたことをすぐに魔術協会に訴え出てくれたらしいけど、なかなか手がかりがつかめなかったそうだ。
 二年かかって、やっとあそこに辿り着いたものの、強力な結界に外からはどうにもならず、捕らえたフォルマンを連れてきて結界の解除をさせようと、いろいろと算段をしてる最中、アーチャーが内側から結界を破壊して、溜め込んだ魔力で保っていた建物も崩壊した。
 あの場に遠坂とセイバーがいたのには驚いた。いや、何より俺がアーチャーといて、契約していたことに、それから、こんな身体になったことに……。
 二人も驚いてたし、どう扱ったらいいものかって感じで、魔術協会の人も腫れ物に触るみたいに気を遣ってくれるし、なんか、すごく居心地が悪かったな……。
 でも、とりあえず日本に帰してくれることになって、やっと帰国の飛行機に乗れたけど、前途は多難だ……。
 まずは、この身体、それから、こいつ。
 どうすりゃいいんだ、ほんと……。
 もう、ため息しか出ない……。



***

「とりあえず、駅から離れているけど、このマンションを用意してもらったから、ここで生活してくれる?」
「え? 家じゃないのか?」
「それじゃ、帰れないでしょ」
 呆れた凛の声に、衛宮士郎は項垂れるようにして頷いた。
 さすがに同情してやらなくもない。気の毒な奴だ、本当に……。
「アーチャー、士郎のサポートよろしく。私はあの変態の調査に士郎の代理人として加わらなければならないから、明日、士郎の病院に付き添ったら、すぐにロンドンに戻るわね。これが、当座の生活資金。被害者としての手当ては山ほどぶん捕ってあるから、少々の贅沢もオッケーよ。あの変態魔術師の貯えも全額支払ってもらうわ、絶対に。それじゃ、士郎、明日は、朝八時に駅に来てね」
 凛は矢継ぎ早にまくしたて、銀行のキャッシュカードと通帳を私に手渡し、衛宮士郎と時間の打ち合わせをして、セイバーとともに帰っていった。
 扉が閉まると、衛宮士郎はフラフラとリビングへ入っていく。
「食事はどうする」
 私が訊けば、首を振る。
「多少は食べておけ」
「要らない」
「そのまま餓死でもする気か、たわけ」
「するかよ。今は要らないってだけだ」
 まあ、いろいろと、一気に事が動きすぎたな。
 まず、記憶が戻った。自身の身体が改造されていた。そして、私と契約していた。ヤシロであった時の記憶もある以上、自分の中で折り合いがつかないのだろう。
 もちろん私にも同じことが言える。時間が必要だ。
 二人きりでいる時は、居心地の悪さしかない。
 話すこともなく、無為に時間の経過をやり過ごしている。
 やりにくいのは承知している。そこは諦めもついた。だが、なぜ、衛宮士郎なのか……。
 なぜ、私の心を動かしたのが、この、かつての己である衛宮士郎で、しかも、こいつの身体は、とんでもないことになっていて……。
 なんの因果か、なんの応報か。
 いい加減にしてくれ。
 他の誰でもかまわない。それこそ、目を背けたくなるような人でなしでも、悪逆の限りを尽くす壊れた奴でも、他人であれば誰でもいい。
 衛宮士郎でなければ、それだけで……。


「いつまでそうしているつもりだ」
 リビングのソファの下に座り込み、衛宮士郎は膝を抱えたまま動こうとしない。
「いい加減、ベッドに入れ」
 食事もとらない、風呂に入る気力もない、ならばもう寝ろ、と言えば、
「あのさ……」
 何か言おうとして、こいつはそのまま押し黙った。
「なんだ」
 促してやれば、
「痛かったんだ、すごく……」
 なんのことを言っているのか、さっぱりわからない。
「身体が、変わっていくのがさ……、痛かった……」
「…………」
 そんなおぞましい体験談をなぜ私に聞かせる?
 しかも、痛かった、と、こいつは言う。
 珍しい。こいつが痛みを痛いと感じていたことが。
 エミヤシロウは元来痛みには強い。耐魔力はクソなくせに、痛みへの耐性は馬鹿がつくほど強い。だが、その衛宮士郎が、痛かったと言う。
 大変だったなと同情でもしてほしいのか?
「たぶん、一年、かかった」
 強制的に身体をつくり変えられていくその痛みは想像すらできない。
 骨格すら変えられ、肉を増やし、あるいは減らし、筋肉どころか、肉体の構造すべてを造り替えられる、その狂気じみた横暴さに寒気がする。
 ああ、私もだな……。
 与えられた肉は、まともではなかった。
 思い出すだけでも反吐が出る。
 その身体をいまだ私は……。
「元に戻ると思うか?」
「例の魔術師が捕まったのなら、戻せるだろう」
「……だな」
 また一年かけて痛みに耐えなければと思い悩むのか?
 いや、こいつに限って、痛みが怖いなど、思うはずもない。
 ならば、いったい……?
 疑問ばかりが胸を占めていた。



***

 帰国して、冬木市に戻ったものの、この身体じゃ家に戻ることもできず、新都の駅から少し離れたマンションで当面生活することになった。しかも、俺と、アーチャーで……。
 居心地が悪い。
 どうすりゃいいんだ?
 会話すらないぞ?
 いや、無理に会話なんてしなくていいと思うけどさ……。
「はぁ……」
 ため息は仕方がない。
 ノックの音に、びく、と身体が跳ねる。
「八時に待ち合わせだろう」
 ドア向こうの低い声に催促される。
「わ、わかってるよ!」
 時間ギリギリだって、わかってるけど、わかってんたけど、踏ん切りがつかないんだよ!
「遠坂ぁ……」
 昨夜、遠坂から渡された着替えを取り出して、プルプル震えながら遠坂を恨む。
 なんだって、こんな服なんだ!
 なんだって、こんな……、シンプルだけど、膝丈のワンピースなんだ!
 昨日着てたジーパンはもう洗濯しちゃったし、他に着る服はパジャマくらいしかない。
 着るものが圧倒的に足りないんだから、遠坂の差し入れてくれる服は確かに有り難いんだ。
 だけど、女になってたって理解したの、つい何日か前なんだよ。
 だから、もうちょっと、この手の服は待ってほしい。
 ハードルが高すぎる……。