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DEFORMER 2 ――キズモノ編

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「うぅ……、なんの罰ゲームだよ……」
 半泣きでワンピースを着て、ハイソックスを履き、スースーする風通しの良さに、夏ならいいのにと思いながら、コートを羽織り、意を決して部屋を出る。部屋の扉の側にいたそいつの前を通り過ぎ、そのままの勢いで玄関に向かう。
 顔なんか見られるわけない。
 絶対笑う。
 絶対呆れて笑う!
「おい」
 呼び止めんな、ばかやろう!
「待て」
「な、なんだよ!」
「値札が付いている」
「え?」
 首の後ろに手をやって、ムッとしながら値札を掴んだ。
「っくそ……」
「取ってやる。動くな」
 アーチャーが近づいてくる。心臓がバカみたいに速度を上げる。
 それほど時間もかからず値札を取ったアーチャーは、
「気をつけろよ」
「な、何が、」
「着慣れない物を着ているのだ、勝手が違うだろう」
「っ……、お、大きなお世話だ!」
 スニーカーを履いて、玄関のドアを開ける。
「あ、ありがとな!」
 顔を見ることはできなかったけど、値札を取ってくれたことの礼は、きっちり言ってドアを閉めた。



***

「…………可愛い……」
 思わず、ぽつり、とこぼれる。
 そのまましゃがみこんで額を押さえた。
「なんだというんだ、あれの、どこが……っ」
 可愛いのだ、本当に……。だが、納得がいかない。
 あれは、衛宮士郎だぞ?
 それを、私は思わず呟いてしまうほど、可愛いなどと思って……。
 ふさげるなよ、エミヤシロウ。
 脳ミソ湧いたか、クソ守護者。
「あああっ、くそっ!」
 玄関の壁を拳で打つ。もちろん手加減はしている。でなければ、穴どころではなくなる。
 アレは、衛宮士郎だ。何度も言い聞かせる。
 だが……。
 可愛いのだ、どうしようもなく。
 凛に支給されたスカートなぞはきおって、まったく、寒気がするぞ、衛宮士郎……、可愛い過ぎて……。
 僅かに覗いた膝小僧が愛らしい、鼻先と髪の合間から見える耳が赤くなってさらに可愛い。
 今のところ魔力は問題ない。あの魔石は本当に優秀だ。
 だが、いつまでも保つとは限らない。衛宮士郎からの魔力はやはり、ほとんど流れてこない。
 供給……。
 やにわに口許が綻びそうになる。
 いやいや、それは、必要なことだ。衛宮士郎が望むならば、それをしなければ……。
 望む……だろうか……?
 疑問が浮かぶ。
 記憶を取り戻し、身体はああなったが、それも、例のフォルマンとかいう変人に元に戻させれば、私の存在など不要になる……。
「そうか……」
 元に戻る。衛宮士郎は、普通の男に戻る。
 なぜそれを、私は残念に思っているのか……。
 今のままであれば、ここにいられる。衛宮士郎のサーヴァントとして堂々と。
 だが、元通りになった衛宮士郎は、私など必要とは思わないだろう。セイバーならいざ知らず、私では、アレにとって百害はあるかもしれないが、一利も見出すことができない。
 いや、戻らずとも、今でさえ、衛宮士郎に私が必要とは思えない。必要なのは、凛とセイバーだ。
 衛宮士郎を助け、支える存在……。
 もう、衛宮士郎は、ヤシロではない。
 私と一緒にいたいと言った、私が存在できるなら記憶など要らないと、あのミュージアムに留まろうとした、あの少女ではない……。
「ヤシロ……」
 お前はもう、いないのか……。
 未練がましい。
 幻のような日々は、私の悔恨すら消し去った。記憶がなかったとはいえ、忘れ得るはずのない後悔を私は微塵も感じていなかった。
 あの日々が、幸福だったと思う。
 仮初めで、理不尽で、横暴な仕打ちを受けたと思いながら、私はあの日々が懐かしい。あれからまだ一月と経たないというのに追想している。
 それほどに、あの日々は……、ヤシロと過ごした時間は、強烈に刻まれている。
 戻りたいと思っている。
 あの、籠の鳥の時間を、私は……、できることなら……、と。



***

 待ち合わせ時間ギリギリに到着した俺は、遠坂とともに病院へ向かった。四駅離れた隣街の総合病院の婦人科だ。
 魔術協会でも身体検査を受けたのに、どうしてだ、と訊けば、遠坂は身体をきっちりと調べておいた方がいいと言った。
 言われるままに連れられてきたのが、この婦人科だ……。
 そして、遠坂がワンピースなんてものを俺に着させた理由もわかった……。世のご婦人方は、いろんな思いをされているんだな、と頭が下がる。
「お疲れさま」
 新都に戻り、どっと疲れて駅前の喫茶店の椅子に座り込んだ俺に、遠坂は労いの言葉をくれる。
「で? どうだった?」
 診察も診断も俺だけで受けたから、遠坂は何も知らない。
「……これ」
 担当医が診た結果を箇条書きにしてもらったものを遠坂に渡す。
 俺の口からはとてもじゃないが説明できる気がしなくて、まとめたメモをくれと言えば、しぶしぶだけど、担当医は用意してくれた。
「女性器はあるが機能していない、月経もない、女性ホルモンは極めて希薄……」
 診断結果のメモ紙をテーブルに置き、遠坂は、ふ、と息を吐く。
「どう……、言えばいいのかしらね」
 窓の外へ視線を移した遠坂は、とても大人びていた。
 俺の記憶ではまだ高校生の頃のままだ。だから、タイムスリップした人……、いや、浦島太郎か、すべてから自分が取り残されたみたいだ。
「器はあるけど、中身がない、ってことよね」
「まあ、いいんじゃないか? 元に戻ればどうってことない」
「ん。そうよね。でも、よかった」
「え? 何が?」
「直接供給をしたでしょ? 万が一があるかも、と思ったのよ」
「万が一?」
「妊娠しちゃったら、とか」
「はい?」
 遠坂は何を言ってるんだろうか……。
「心配だったのよ、身体が変わっちゃって、混乱しているところにさらに妊婦とか、士郎、失神しちゃうでしょ?」
「あ、うん。確かに気を失うな」
 頷けば、遠坂はほっとしたと笑う。
「あとは、あの変態魔術師を連れて来るだけね」
「よろしく頼む」
 頭を下げて言えば、
「任せておいて。あいつの財産も、ね!」
 親指を立てて意気込みを見せる遠坂に、モヤモヤしていた俺も笑うことができた。


「アーチャーの方は大丈夫?」
 喫茶店を出てバス停に向かう遠坂と並んで歩いていると、不意に訊かれた。
 まだ、どうするかも決めていない。俺はあいつをどうしたいのか、その答えは出していない。
「ああ……、まあ、うん。うまくいくとは思えないけど、歩み寄るつもりではいる」
「そ。あんまり溜めこんじゃダメよ? 士郎はもう少し我が儘になってもいいと思うのよね。そんな身体になっても冷静だから、少し心配よ」
 冷静なんかじゃない。ただ、どうすればいいか、わからないだけだ。
 ロンドンにとんぼ返りする遠坂は、明日の早朝には空港に向かうそうだ。俺のためにロンドンに向かってくれる。まるで、自分の責任だとでもいうように。
「士郎、今、あんたの側にいるのはアーチャーだけなんだから、ちゃんと話、しなさいよ?」
 お姉さん風を吹かせた遠坂はバスへ乗り込んだ。
 バスを見送ってマンションへ向かわずに、赤い橋へ向かう。
「そんなこと……、わかってるんだ……」