二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

DEFORMER 2 ――キズモノ編

INDEX|8ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

 伸ばしそうになった手が、ぴく、と痙攣して、どうにか思い留まった。
「さっさと手を動かせ。呆けているなら、台所から閉め出すぞ」
「あ……、あ、いや、って、お、お前にそんなことする権限はないだろ!」
 衛宮士郎は、ぶつぶつと文句を言いながら調理を再開した。



***

 マンションに帰り着き、飯でも食いながらアーチャーと話そうとしたものの、アーチャーは全く取り合わない。
 これじゃ話し合うこともできない。
「アーチャー、魔力は大丈夫なのかって訊いてるだろ?」
「問題ないと言ったはずだ」
「けど、俺の魔力はたいして流れてないって、」
「これがあるから、問題ない」
 アーチャーは、あのガラスケースの底にあった魔石をシャツの胸ポケットから取り出して見せる。
「本当か?」
「本当だ」
 結局、何も話し合えないままに、夕食は終わった。

 湯船に浸かり、冷えた手足が温まる。夕食を食べた時はあったまったと思ったのに、しばらくするとすぐに手と足の指先から冷えてくる。
 緊張してるからかもしれない。
 アーチャーと同じ空間にいるという現状が、常に俺を緊張状態にする。しかも、自宅ならいざ知らず、この1LDKのマンションでは、必ずその姿が目に入ってしまう。だから、気分的に休まる時間があんまりない。
 アーチャーは、俺に触れもしない。
 触れるどころか、顔も見ようとしない。目が合うのなんて滅多にない。
 あの魔石のおかげで、魔力はどうにかなってるみたいだけど、調子がいいようには見えない。
(うまく、話せない……)
 アーチャーと何を話せばいいのかわからない。
 俺はあいつと斬り合った。意地を張り合って、あいつを打ち負かして、あいつは負けを認めて……。
 なのに、そんな奴を好きになるって、どういうことだよ、俺!
 いくら記憶がなかったからって、飛躍しすぎだろっ!
 せいぜいお友達くらいですまなかったのかよ……。ヤることはやっちまってるし、あー、まあ、魔力供給の必要があったから仕方がないけどさ……。
 やりにくいとしが言いようがない……。
 あの時の俺には、今の状況なんて予想もしなかったことだけど、アーチャーと一緒に生活するなんて、心底疲れる……。
 せめて、ワンルームとかでいいから、別々の部屋にしてくれるとか、そういう気遣いはなかったのか、魔術協会……。
「あー、でも……」
 俺と主従関係だからってことなんだよな、やっぱり……。
 協会にしたら、俺たちはセット扱いだ。魔術師と使い魔っていう俺たちの関係なら、こうなるか……。
 風呂から出て、ちらり、とリビングの奥――掃き出し窓の方を見る。
 壁にもたれ、立てた片膝に頬杖をつき、ベランダとビルの隙間から見える夜空を見上げている。
 ずっと、あそこにいる。
 昨日から、ずっと……。俺を見ることもなく、ずっと……。
 視線を引き剥がして、自分の部屋に入り、脱力してベッドに転がった。
「疲れた……、あー……、違うな、居心地が……悪い……」
 あいつとどう接すればいいか、見当もつかない。
 あのミュージアムにいた俺は、俺じゃない。ヤシロっていう、ただの女の子だ。いや……、ただのってこともないな……。
 あいつを好きとか、冗談じゃない。しかも、LIKEじゃなくてLOVEの方だとか……。
「ありえないだろ、あいつ、俺だぞ? いくら記憶がなかったからって、いくらあいつが優しかったから……って……」
 そうだ、あいつは優しかった。
 俺を見つめる瞳も、触れる手も……。
 さわさわと皮膚が泡立つ。熱いものが下腹に集まっていく。
 あいつが触れて、あいつが開いた俺の身体は、どうしようもないくらい、あいつを求めてるみたいに思える。触ってほしいと、はしたなく濡れて、あいつを見るたびに、あいつが一瞬でも俺に目を向けるたびに、期待してる。
 だけど……、あいつは俺を真正面から見ることはない。俺もアーチャーのことを言える立場じゃないけど……。
 向き合っていても、俺をあの鈍色の瞳に映すことはない。
 いたたまれなさは互いに感じてる。居心地が悪いのもお互い様だ。
「話……しなきゃな……」
 それでも、あいつの意思を訊かないと。
 あいつは、どうしたいのか?
 契約を言い出した責任とかそういうのは無しにして、あいつがこれからどうしたいのか、座に還ると言うんなら、それもやむなしだと思うと、俺は伝えなきゃいけない。
 でないと、あいつは、還りたくても還りたいとは言えないだろう。
(胸が……)
 胸が苦しいと感じてるのは、きっとヤシロだ。
 俺じゃない。
 俺は、あいつが座に還ろうが……、俺は……全然……。
 枕に顔を埋めた。
 衛宮士郎が、己の元が、こんな身体で、あいつは反吐が出そうだろう。
 アーチャーは、俺といることなんて、望んでいない。
「俺は……、望んでるのに……」
 ハッとした。
 望んでいる?
 俺は……、ヤシロじゃなくて、俺が、望んでいる?
 俺は、あいつに、ここにいてほしいって……?
 そんなバカな……。
 ヤシロの気持ちに引きずられてどうするんだ。俺は、ヤシロじゃない。あれは、記憶を失った、ただの、女の子だ。
 俺じゃないんだ、俺じゃない。あいつが、求めるのも……俺じゃない……。


 痛い……。
 いつまで続くんだ……。
 喉元からはじまって、今、腰のあたり、下腹の方……。
 暗い部屋だ。ベッドはあるけど、そこに俺は寝ていられない。
 身体が痛い。
 チクチク、ズキズキ、ギシギシ、ミシミシ、ガンガン……。
 のた打ち回っても、痛みは逃せない。
 俺は、痛みに慣れていた。
 傷を負っても平気だった。
 何度血をぶちまけても、俺は誰かのためにこの身体を盾にしようとした。
「セイ……バ……」
 彼女はどうなっただろうか?
 聖杯戦争は?
 遠坂も、捕まったのか?
 いや、遠坂に限ってそれはない。
 無事なら、いい。
 遠坂がこんな痛みを感じていないなら、いい……。
 意識が濁っていく。
 痛みがあれば、意識を保てるはずなのに、どうしたんだろう?
 もしかして、死ぬのか?
 正義の味方には、なれずに……。
 誰も、救えずに……。
 ――お前が倒せ。
 あいつの声が聞こえる。
 俺に後を託したあいつの、声が……。
 あいつの信頼に足る者であろうと、俺はギルガメッシュを倒して、あいつに結局は助けられたけど、それでもまあ、清々しい気持ちだった。
 あいつとわかり合えた、とまでは言えないかもしれないけど、俺は満足だった。あいつも、満足だったらいい。それで、あいつの運命はやっぱり過酷だと思うけど、あいつが前を向いて歩いて行くことができればいいって……思う……。
 俺は、無理そうだ……。
 なんだかわからない奴らに捕まった。
 この先があるのかなんてわからない。
 俺の理想は、理想のままで、この胸に灯ったままで、萎れていくんだと思う……。
「わる……ぃな……」
 掠れた声が、なんだか自分の声じゃないみたいだ。
 痛みに軋む身体を横に向けて、少し丸くなった。
 痛い……いたい……いた……い……。

「はっ!」
 身体が硬直して動かない。
 呼吸が滞って苦しい。
「っ……、ぅ……」