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DEFORMER 2 ――キズモノ編

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 誰か、と思ったけど、呼ぶこともできない。
 天井がグルグル回っている。
(天井?)
 ああ、そうか……。
 あそこじゃない。あの暗い、檻の中じゃない。
「は……、は……はっ……」
 呼吸が戻ってきた。
 やっと身体が動くようになった。
 横向きに寝返り、身体を丸める。この体勢が一番落ち着く。
「はぁ、ふぅ……」
 深呼吸を繰り返す。
 ここが、仮住まいのマンションだと頭の中で繰り返す。
 震える指を握りしめて、目を閉じた。
(大丈夫だ……ここは、檻じゃない……)
 俺が身体を変えられる間に過ごしたのは、檻みたいだった。
 四方は鉄の柵、簡易のベッドがあるだけで、天地は鉄板。
 暗くてその場所の様子はわからなかった。
 時々俺の様子を見に来てたのは、フォルマンとかいう変人だったのか?
 腰から下くらいしか見えなかったから、顔を見たわけじゃない。ただ、俺を見下ろす視線だけは覚えている。
 感情なんて、いっさいなかった。
 まるで実験の結果を待っているような感じで、俺を見ていると思った。
 一発くらい、殴らせてくれって頼めばよかった。
 だけど俺は、面と向かうのが恐かった。フォルマンという声だけしか知らないあの館長だった魔術師。
 俺は、そんな奴と話をしていたのかって、寒気を覚えた。
 記憶がなかったからって、その声や話し方が同じなはずなのに、嫌悪感も何も浮かべず……。
 自分が信じられない。
 俺は、どれだけぼんくらなんだ……。
 アーチャーも、こんなふうに思ってるんだろうか。
 あの魔術師にしてやられて、情けないって、思っているんだろうか……。
 扉へ目を向ける。
 リビングで、窓の外を眺めている姿を思い浮かべる。
 少し、震えがおさまった。
 アーチャーのことを考えていると、あの変人のことを忘れられる。
 今、差し迫っていることは、アーチャーの魔力をどうにかしなきゃってことだ。
 俺は、逃げるようにそっちのことばかりを考えるようになっていた。


 日に日にアーチャーは弱っていくように見える。
 今、遠坂はロンドンだし、他に頼れる者がいない。魔力を渡せるのは俺だけだ。
 だったら、迷ってる暇はない。
 このままだと、アーチャーは座に還ってしまう。
 それを望んでいるのだとしても、こんな自然消滅みたいなのは納得がいかない。
 還るのなら理由くらい聞かせてほしい。
 一度は俺に契約を持ちかけたんだ、今はそんな気分じゃないっていうのはわかるけど、一度こぼした言葉は取り消せないんだ。
 だから、俺はアーチャーの言葉が欲しい。
 何を思って契約を望んだのか、何を思って、あの時、あんなキスをしたのか……。
 何も聞けないまま見送るのなんて、冗談じゃない……っ。
 遠坂に歩み寄ってみるって言ったけど、歩み寄るどころか、俺は全力でぶつかろうとしてる。
 今、俺ができることを、やらなければならないことを理由にして、自分の気持ちを棚に上げた。
「アーチャー、魔力、足りてないんだろ」
 精彩を欠く顔を見上げ、その腕を掴んだ。



***

 予想よりも早く魔力が弱まりはじめた魔石に、なんの手も打てず、どうすることもできない私は、ただ現状を受け入れるしかない。
 このまま魔力が切れて、座に戻ることもやむを得ないと理解している。
 衛宮士郎が望まないものを、私がどう足掻こうと、覆しようがない現実は揺るがない。
 身体が重い。
 契約時の現界とは明らかに違う感覚に戸惑う。
 このマンションの一室から出ることもなく、ただリビングと台所をうろつくだけだというのに、億劫で仕方がない。
 そんな私の腕を掴み、
「魔力、足りてないんだろ」
 そう言って衛宮士郎は私を浴室へと連れてきた。
「あいにく、受肉などをしているのでな、魔力は――」
「調子がいいように見えない」
 私の声を遮って、衛宮士郎はさっさと服を脱いでいく。
「おい……、なんの真似だ」
「供給するんだよ」
「必要ない」
「必要だろ」
「…………」
 何を言っても無駄な気がしてきた。こいつは、こうと決めれば頑として譲らない。
 よく、知っている……。
 ああ、知っているとも、そんなことは……。
「フン。くれる、というものを、断ることもないな」
 諦めて衛宮士郎の肩を掴む。息を呑んだのがわかった。俯いて、顔を背け、勢いよく素っ裸になったものの、羞恥からか頬を紅潮させている。
 膨らみの少ない胸、ウエストは細く、強く掴めば簡単に折れてしまいそうに思う。赤い刻印の下には、いまだ生え揃わない局部。未成熟な裸体が、眩暈がするほど欲しいと思う。
 掴んだ肩をそのままぐるりと回し、身体の向きを変えさせた。面突き合わせてなど、できる気がしない。
 こく……。
 喉が鳴るのは、魔力が減っているせいだ。それ以外に理由などない。
 細い項、かたい筋肉などまるでない背中、細い腰、肉が薄いがまろやかな臀部。この身体が男のものではないとはっきりわかる。
 無造作に伸びた髪をそっと除けて首筋に口づける。皮膚の震えを感じた。腰に触れた手が、やはりこいつの震えを拾う。
 細い身体に手を回して、胸の僅かな膨らみを片手で包み、もう一方を刻印の宿る下腹部へ滑らせる。
「っ……」
 震えは、なおも続く。
 私の手に、指にすら震え…………。
 私の手?
 ぞわり、と悪寒が背筋を走った。
 これは……、この身体は、私の……ものか?
 滑らかな肌から手を引く。
 両手を見下ろし、震える指先を握りしめた。
「……無理をするな」
「なっ、し、してなっ」
「こんな不必要なことをわざわざすることもない。それとも、お前はこうすることを望んでいるのか?」
「っ、ち、違うっ!」
「だったらやめておけ。だいたい私が衛宮士郎相手に、しかも、そんな身体に勃つと思うか?」
「っ……」
 壁の方を向いたこいつの顔は見えない。肩を震わせて、憤っているのだろう。
 契約主である手前、私を魔力切れで座に還すなどという失態を演じるわけにはいかないとでも思い至ったようだ。
 自身の責任感を満たそうとして、私を気遣ったりなどするからだ。
 もう放っておけばいいものを……。
「身体のつくりが変わっても、お前は何も変わらないな。自分の身体をおろそかにするのもたいがいにしろ。いい加減、虫唾が走る」
 浴室の壁を見つめたままの衛宮士郎の表情は見えない。いまだその肩が震えているのは、この行為を無理に行おうとしたからだろう。
 私とあんなことができるはずもないと、ここまでしなければわからないのか?
 馬鹿な奴だ。
 なぜ、自分自身を追い込もうとする。
 なぜもっと、自分を大切にしない。
 こんな目に遭っていて、なぜまだ他人のために自身をなげうとうとする?
 自分のことで精いっぱいだろう。
 身体のつくりを無理やり変えられて、そのことに追いつくだけで頭の中はいっぱいいっぱいのくせに……。
 浴室を出てリビングのソファに腰を下ろす。
「は……」
 確かに魔力は減っている。
 だが、あんな状態の衛宮士郎と魔力供給など、できるはずがない。
 ヤシロであった時ならできたかもしれないが、衛宮士郎が私を受け入れるわけがない。交感状態になど、なれるわけがないのだ。