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DEFORMER 5 ――リスタート編

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「やめ、やめよう? な? ほら、俺が、着ても、に、似合わない、し、」
「そんなことないです。絶対可愛いです」
 二人がじりじりと間合いを詰めてくる。
 こんなの逃げ道もないし、桜だけならどうにかなったかもしれないけど、ライダーが加勢して、俺の逃げ道はもう皆無だ。
「ム、ムリ、だって、」
「さあ、先輩、もう逃げられませんよ」
 ”逃げられないよ“
「っ!」
 な、んだ?
 今、何か、変な景色が、見えた。
 妙に壁が白くて、誰かが、逃げられないって……。
 誰? 誰が? 逃げられないって、なんだ?
 暑くもないのに、汗が背中を伝う。冷たい汗がどっと出てくる。
「ア……ちゃ、」
「先輩?」
「アー、チャー、アーチャーっ!」
「え? あの、先輩?」
「なんだ、騒々しい」
 急須を持って台所に入り、肩を竦めて俺を見下ろしたアーチャーは、すぐに驚いたように目を剥いた。
「た……、たす、たすけ、……て……」
 ほとんど声にならない。
「はあ……、まったく……」
 アーチャーは、急須を置いて、桜に向き合う。
「申し訳ないが、その手の服はまだ抵抗があるようだ。せっかくいろいろと選んでくれたというのに、今はまだ、こいつには無理だ」
「そう……ですかぁ……」
 残念です、と言いながらも、桜は諦めてくれたみたいだ。安心したけど、せっかく俺のためにっていろいろ考えてくれていたのだと思うと、応えてやれなくて申し訳ない。
「ごめ、さくら……」
「いいえ、私も無理強いをしようとしましたから」
 にっこり笑った桜に、正直ほっとした。
「たかだか着る服のことで大袈裟だな」
 呆れた声で言いながら、アーチャーは桜とライダーを居間へ促している。本当にそうだ。確かに抵抗のある服だけど、ここまで……。
 いや、服のことじゃない、さっきの感じは、いったい?
「は……」
 震える指先を握り込んで隠した。
(俺……、なんか変だ……)
 桜は、俺に服を着せようとしただけだ。別に、危害を加えるつもりなんかじゃないっていうのに……。
「立てるか?」
 俺の前に片膝をついたアーチャーの小さな声は優しかった。
「ん」
 アーチャーの手を借りて立ち上がろうとすれば、思い切り腕を引かれてアーチャーの胸に顔をぶつける。
「った」
 そのまま、ぎゅう、と抱きしめた腕は、俺が反応を示す前に、すぐに緩んだ。
「え? あの、」
「昼食の支度をするぞ」
 頭を一撫でした大きな手が離れる。
「あ、う、うん」
 ちょっと、顔が熱くなった。さっきの冷たい汗も震えもなくなった。今は身体がポカポカしている。
(ほんとに、なんだったんだろ、さっきの……)
 はっきりと覚えていない光景。
 夢だろうか、それとも、何かの映画やドラマで見た光景?
 なんにしても、いい気はしないものだったから、忘れることにした。



***

(なんだったのだろうか……)
 隣で皿を洗う士郎に目だけを向ける。ちょうど私を見上げたタイミングで目が合う。
「ん? なに?」
「いや……」
 洗い終わった皿を受け取って布巾で拭く。
 私を呼んだ。それも、あんなに切羽詰まって。
 桜とライダーの悪ノリが少々過ぎたとは思うが、何もあんなに必死な声で……。
 だが、台所の隅に追い込まれた士郎は、それこそ死地にあるような表情だった。
(何が……)
 と思ったが、原因は、一つしかない。
 士郎がしまい込もうとしている、傷だ。
 少し前にも、それとなく訊いてはみたが、痛かったことくらいしか覚えていないという。
(痛い、か……)
 エミヤシロウが痛いと訴えるような出来事だ、とすれば、まず、普通ではないと思う。
 身体だけのことではなく、もしかすると精神的な苦痛もあるのかもしれない。
(あの魔術師、拷問でもしたか?)
 ますます生かしておけなくなった。いずれ必ず、息の根を止めてやる。
 私が暗い情念を燃やしていると、呼び鈴が鳴る。
「誰だろ?」
「あ、先輩、私、出ますね」
「うん、頼む」
 桜が玄関へ向かうのを見送って士郎は首を捻る。
「藤ねえかな?」
「今日は用事があると言っていたが?」
「早く終わって昼ごはん食べに来た、とかさ」
「あり得るな。だが、もう何も残っていないぞ」
 セイバーの旺盛な食欲と、意外な桜の大食漢ぶりが、夕食に残るだろうと予想していた我々の上をいった。
「作らなきゃな」
 士郎と曖昧な笑みをこぼしながら、複数の声を耳が拾い、眉間に力が籠もった。
「な……」
 居間に姿を現す前に、私には訪れた客の正体がわかってしまった。凛に視線を向けると、明らかに今、目を逸らした。
「凛……」
 観念したのか、合掌して謝る素振りを見せる凛に、大きくため息を吐く。
「アーチャー? どうし――」
「よう、衛宮。帰ってきたんだって? 女になって」
「おい、そんな言い方があるか! 衛宮は、事件に巻き込まれて、」
「どーんなイカツイ女子になったか見に来てやっ…………」
「衛宮、無事で何よ、り…………」
 士郎の同級生は、二人が二人とも、ぽかん、と口を開いたままで止まった。
「慎二、一成……」
 士郎はといえば、呆然と友人の名を口にするだけ。
 三者とも、言葉が浮かばない、というのが正解だろう。
「士郎、とりあえず、茶でも出してやろう」
「あ、う、うん、そう、だな」
 洗いかけの皿を置き、湯呑の用意をはじめる士郎は、気まずさを拭えない顔をしている。それはそうだろう、できることなら顔を合わさずにいたかったはずだ。
(まったく……。せめて、士郎に確認してから、という気遣いはないのか……)
 ため息をこぼし、士郎の代わりに皿洗いを終わらせた。

「…………」
「…………」
「なぁによ二人とも、そーんなに士郎が可愛い?」
「兄さん、ダメですよ。先輩に手出しはさせません」
 凛も桜も、沈黙する男二人に容赦がない。
「あのー、さ……、ふ、二人とも、今、何してるんだ?」
「ああ、大学にな」
 言葉少なに答えたのは柳洞一成だ。おそらく彼は仏教系の大学だろう。柳洞寺は次男も優秀で、これからも安泰だろう。間桐慎二の方は、冬木から離れて一人暮らしをしているらしい。わざわざ帰省してまで士郎を笑いに来たのか、こいつは相変わらずだ。
 近況報告が終わり、話が弾むわけもなく、気まずい沈黙ばかりが落ちている。
 無理もない。同級生の性別が変わっていれば、誰しも驚く。
「さて。紅茶かコーヒー、どちらがいい」
 居間の様子を眺めつつ、カウンター越しに投げかける。
 沈鬱な空気はいい加減うんざりだ。そこに士郎を置いておくのも我慢がならない。さっさと解放してやりたい。
「私は紅茶」
「私もです」
 凛と桜とセイバーは紅茶、それぞれミルク、レモン、シナモン、ときれいにバラつき、ライダーはコーヒーを砂糖のみで、と注文してくる。
 まあ、許容範囲だ、問題はない。
「そちらは?」
 残った男二人に訊けば、顔を上げた間桐慎二が、
「う、うわっ! へ? お、おま、アーチャーっ?」
 今頃、なんだ……。
 私を指さし、間桐慎二は驚いている。今まで気づかなかったのか……。それほど士郎の姿に動揺していたのか。
(動揺……? それだけか?)