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DEFORMER 5 ――リスタート編

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 警戒心が湧いてくる。士郎を見てからというもの、必要な受け答え以外は、二人とも黙りこくっている。
 会いに来る、ということはそれなりに事情を知っていたはずだ。ただ遊びに来たというのではないだろう。
 からかい半分で来た間桐慎二は思っていたよりも士郎が女らしいので、戸惑っている、ということでは……?
 可能性は大いにある。この士郎を見て、可愛いと思わないはずがない。ああ、少し主観が入りすぎたか、いや、まあ、だが、士郎は本当に……。
「知り合いか?」
「え、い、いや、あの、」
 訊かれた間桐慎二は答えに窮している。凛も桜もフォローしない、というか、こちらの会話など聞こえていないようだ。女性陣四名は、最新映画の話題で盛り上がっている。
「顔と名前を知っている程度、だな?」
「あ、うんうん、そうそう」
 仕方なく助け舟を出してやれば間桐慎二は合わせてくる。まったく、魔術師の家系ならば、そのくらい、さらっと誤魔化せ。
「それで? コーヒー、紅茶、もしくは緑茶、どれにするんだ?」
「コ、コーヒーで。砂糖とミルク入りを」
「緑茶をお願いします」
 承って桜の持ってきたホールケーキを冷蔵庫から出し、お茶の準備をはじめる。
「俺も手伝う」
 士郎が台所に入ってきた。
「いいのか? 話せることなど、あまりないと思うが……、久しぶりだろう?」
「う……ん……」
 居間から窺えない台所の奥で訊けば、士郎は小さく頷く。動揺がいまだ残っているようだ。
「大丈夫か?」
 顔を覗き込むと、
「平気、だ……」
 全く平気ではないように見えるが、それを指摘しても士郎が動揺を大きくするだけだろう。
 赤銅色の髪を撫で、
「あまり、無理はするな。キツいのなら、体調不良を訴えて部屋に籠れ。あとはどうとでもしておいてやる」
 額に口づけると、頬を赤くした顔を上げてくる。
「そんなわけに、いかないしさ……」
 困ったように笑った士郎に、胸のあたりが、きゅう、と苦しくなる。
 今すぐ部屋に連れ込みたくなる。
 そういうわけにはいかないため、思い切り抱きしめてから解放した。


 女性陣はケーキを頬張り、様々な話題でかしましい。対して男性陣は、通夜のように静かだ。温度差が激しい……。
「あの、あのさ……」
 そんな中、士郎が意を決したように顔を上げて口を開いた。
「あの、俺、こんな、身体になったけど、ふ、二人のこと、俺……、と、友達って、お、思ってても、いい、か?」
 膝に置いた拳を握りしめ、唇を引き結んで、二人の友人を交互に見て、じっと、士郎は息を詰めている。
「あ……、当たり前だろうっ! 衛宮、おれは、お前の友人だ! たとえお前が、女性の身体になってしまっても!」
「一成……」
 拳を握って宣言している柳洞寺の次男は、確か女性が苦手だったと思うが……、士郎ならば大丈夫だとでもいうのだろうか……。友人といっても油断は禁物かもしれない。
「あー、あのさ、別に、変わんないだろ? 男でも、女でも、衛宮の中身が変わったわけじゃないんだし」
「慎二……」
 間桐慎二が珍しく真っ当なことを言っている。驚きだ。
「ちょうどいいや、衛宮、一晩、ボクに付き合ってみる?」
 感心したのも束の間、こいつは、変わっていない……。
「は?」
「女の経験でもすれば、新しい世界が見えてくるかもしれないからさ」
 士郎は相変わらず、その手の話題に疎い。いまだ、ぽかん、として首を傾げている。隣に座った柳洞一成が泡を喰っているというのに、言われた本人はさっぱり理解していない。
「なあ、別に、つきあえとか言ってないんだし、遊びだよ、あそ――」
「小僧、黙って聞いていれば、勝手をぬかしおって……」
 間桐慎二の胸ぐらを掴む。
「ひっ! へ? ちょ、ちょっと、な、え、衛宮!」
 引っ張り立たせたこいつは、士郎に助けを求めている。
 妥当な判断だ。私が士郎のサーヴァントだと認識しているのならそれは正しい。ただそれは、私が士郎の“ただの”サーヴァントであれば、という話が前提なのだが。
「な、なんだよ、衛宮、こ、こいつ、どうにか、してくれよ!」
「あー、ごめん、俺じゃ、制御できないんだ、そいつ」
 にっこり笑って救援要請を跳ね除けている。
 ふむ。自分が侮辱されたと、ようやく理解したようだ。
「あ、ご、ご、ごめんなさいぃっ! も、もう、い、言いません!」
 つま先立ちで謝る間桐慎二を少し下ろし、自立させてやる。
「二度とくだらんことを口走るなよ」
 低く言えば、こくこくこく、と首振り人形のごとく頷いている。
「ついでに、一つ言っておくが、」
 間桐慎二を離し、士郎の隣に腰を下ろし、
「私の許可なく士郎に触れることは許さない。よく覚えておけ」
「また、そういうこと言う……」
 呆れる士郎に視線を遣れば、苦笑いをこぼしてコーヒーを飲んでいる。
「衛宮? その方は、いったい……?」
 柳洞一成が私を示して訊く。
「あー、うん。恋人」
 あっさりと言い放った士郎に、柳洞一成は石化した。間桐慎二はといえば、驚愕の表情を浮かべている。
 まともな反応を期待していたわけではないが、周囲から喜ばれない間柄、ということなのか、我々は……。
 少々、気が滅入ってしまった。


「悪かったわね、相談もなしに」
「ほんとだよ……」
「まったく……」
 笑いながら謝る凛は、全く悪いと思っていなさそうだ。
「ですがシロウ、少し、気持ちが楽になったのではありませんか?」
「うん、まあ、確かに」
「二人とも友人だ、と答えてくれましたね」
「断られたらどうしようかと思ったけどな」
 あの二人は、士郎がどんな姿であっても友人だと言ってのけるのだろう。士郎があんな確認を取る必要はなかったはずだ。
(それでも、士郎は訊いておきたかったのだろうな……)
 今まで関わってきた全てをリセットする虚しさを味わうかもしれないと、どこかで不安だったのだろう。
 凛やセイバー、桜がいろいろとフォローしてくれていても、たとえ腐れ縁だとしても、やはり、士郎にとってあの二人は大切な友人だ。おそらく、過去の私にとっても……。
 私には遠い遠い、残照のような微かな思い出。そんな大切だったはずの友人すら、もう、記憶の彼方だ。
(何を、感傷めいたことを……)
 今、私にはそんなことよりも、大事なことがある。士郎とともに在ることが、私の唯一絶対の条件だ。他のことに気を取られている暇はない。
「あ、そうだ。遠坂の居候って、もう始まってるのか?」
 思い出したように士郎は訊く。
 昨夜、突然この家に来た凛は、ロンドンからやっと引き揚げてきたと言っていた。
「今日はこれから一度家に戻るわ。荷物を片付けたりするからー……、居候させてもらうのは、四月に入ってからね」
「そっか、わかった」
「あのね、士郎」
「ん?」
「あの二人もね、探してくれたのよ」
「え?」
「柳洞寺でビラを作って配ったり、慎二も魔術協会に働きかけてた。みんな、あんたを探してたの」
「そ……なんだな……」
「だから、会いたかったと思うのよね、どんな姿であったとしても。ただ、今日来るとは思わなかったから、それだけは、謝っておくわね」
 凛は大人びた微笑みを湛えて士郎に告げる。