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五十音お題。

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おいこまれる(シズイザ)


 ただ、意味も理由も全部置き去りにして逃げ回っていい年した大人が二人で鬼ごっこをしていた。相手の男が鬼で俺は逃げる方で。
「鬼ごっこで捕まえる方は鬼って言うけど捕まえられる方はなんて呼ぶのが妥当なのかな」
 まるで虚勢を張るように━━実際張っているのだが呟いていて、自分が歩いた道を振り返る。後ろからは俺を呼ぶ叫び声がまず聞こえて、次に地面を踏みしめて靴裏がコンクリートをする音、それと辺りの人達が叫ぶ声。
「全く、シズちゃんの身体はあんなにふざけてるのかな!」
 手に握ってつい先程までシズちゃんに突きつけていたナイフは、さっきから止まない雨ですべり落としてしまいうになるが、コートへと戻すのも億劫で握りしめたまま全力疾走を続ける。
 住民が出払ってしまったマンションがあるのをいい事に、電気が点いていないフロントへ滑り込む。ざぁざぁと降った雨の視界はお世辞にもよくないし、曲がった直後のビルにまさかいるなんて考える前に手を出すシズちゃんが見つける訳がないと高を括った。
 のだが。
 階段を一段、一段昇って比較的綺麗な部屋で雨宿りをしようと模索していれば、階段が砕け落ちるのではいかと思う程乱雑な足音がした。
「げ」
 脚力、持久力、瞬発力。全てにおいて劣っている俺にはもう隠れて誤魔化すしか方法がなくて、小さな部屋の一角に座り込んで息を殺す事にした。
「臨也ぁあっ! 手前は俺にとっとと殺されやがれ!」
 後ろから、ドカ、メキャッ、と軋む音がする。どうやら手当たり次第にドアを破壊しているようで、玄関にいたらバレてしまうとリビングへ進めば流石欠陥住宅、豪快な音をたてて床に穴が開いてしまった。
「そこか、臨也あぁ!」
 怒号と共に開け放たれた扉の先には、満面の笑みで青筋をたてたシズちゃんがいた。



作品名:五十音お題。 作家名:榛☻荊