五十音お題。
きがくるいそう(来神イザシズ)
頭の中が歓喜の悲鳴をあげてならなかった。
どくどくと心臓の高鳴りと共に、血に祝福されたとしか思えない同い年の男を抱き締めているのだと改めて感じた。
自分より一回りも二回りも大柄で、あまり糊が効いていないシャツにネクタイを締め、いつもは青いブレザーを羽織った姿は余りにも優等生のようで、けれど髪は黄金色なものだから反応に困るような中途半端な男である。
その上暴力の上になにもかも形成しているので、今日も白い肌に痣を残していた。きっと来神の先輩か他校の生徒と喧嘩をしたのであろう。(来神の同級生で彼に喧嘩を売る酔狂者などいない)
「ねぇ、シズちゃん」
「なんだ臨也」
彼は眠たそうに目を擦りながらこちらを振り返ってきた。後ろから抱き締めているので、随分と首が痛い体制だろうにそうしてまで俺を見てくれる彼が律儀でそこが愛おしくてたまらないのである。
「今日も傷だらけだね」
「あぁ、そうだな……って、何しやがる」
未だ血が滲んでいる頬をべろ、と舐めてやれば彼は有り得ないといったように目を見開いてきた。彼は至極暴力的だ、軽口を叩くだけで、俺の事を本気で殺す勢いでかかってくる。
けれど、それ以上に寂しがり屋だ。怖がらずに抱き締めてやると、幼い頃からずっと力の所為で恐がられていた過去から解放されるのか、年相応でない温い笑みを浮かべてくる。それが大型の犬のようで、可愛らしくて堪らなかった。
「だって、またシズちゃんが傷をこしらえるんだもの。だから消毒してあげただけ、だよ」
そう言えば彼はどこか安堵したような表情を見せてきた。どうしてだか、それがとても寂しい。
「俺のこと、好き?」
「手前なんて大嫌いだ」
「シズちゃんの嘘吐き」
「はぁ!?」
こんなズレた友達関係がいつまでも続けばいい、と思う自分は気が狂ってるかもしれない。