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【たった一言「愛しているよ」と何度でも囁こう。】

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想いが結ばれてから幸せだった。
生きてきた年月の間何よりも幸せだった。
誰よりも幸せだった。
世界で一番幸せだと、豪語できてしまう程には。
俺がお前のとなりにいて、お前が俺の隣にいてくれればそれで構わないと、思っていた。


山奥の小さな小屋で俺たちは二人、過ごしていた。
冬花は陰陽師として一人前となったと本家で認められたと嬉しげに言ってきたのは三年ほど前の話。
今は時折仕事でいなくなる他ほとんど二人でいる。
人間の食事というのもなるほど、悪くはない。きっと彼女の手料理だからだろうか。
お互い熱く求め合う夜も、ただ手をつなぐだけの日々も、口付けを交わす瞬間も。
そしていつか子供ができて、幸せな家庭を、なんて夢を見てみたり。
まあ、よくは言わんさ。このままでも十分幸せなのだから、と目を伏せ彼女の隣で眠りについた。

そんな幸せが続くなんて夢見なければ、いつかは終わりが来るとわかっていれば。
のちのち楽だったかもしれない。

ある年の春、彼女が言った。

「…あのね、綴琉、できたみたい。私たちの赤ちゃん」

『…本当か?…やったな…!冬花、ありがとう』


大事そうに腹部をさすりながらいうものだから、俺は思わず彼女を抱きしめた。
こんなに嬉しいことがあるか?いいやないだろう。幸せだ。
そう微笑んでは幸せを黙って噛み締めた。
本気で嬉しい時って本当に言葉が出てこないものだ。
むしろ涙が出てきそうなのだ、情けない話だが。
話が出回るのは早く森の妖共は半妖か、等と馬鹿にしつつも俺は絶対己の息子が馬鹿にされないほど強くしてみせるさ。
冬花はそんなイヤミを言う妖達に嫌な顔すらせず、たくましく笑ってみせた。
ああ、母になるとは、親になるとはそういうことか。
…守るべきものがあれば自然と人は変わるものだなと実感した。
その内に、妖達も冬花と言う存在を認め始めたのだ。
もう彼女を喰らってしまえ等という者はいない。
俺はそんな彼女が誇りだった。
彼女のような女性が妻であること、誰よりも何よりもーーー誇らしかったんだ。

そして十月十日の時が過ぎ、俺たちの子供は元気な声でこの世に誕生した。

「ほら、元気な男の子じゃわい。なんともかわええのぅ
お前さん似かもしれんのぅ。」

『…ばあさん、ありがとうな。だが食っちまわないでくれよ』

「そんなことするかい、確かに儂ぁ山姥だがそこまで愚かではないぞ。
そんなことよりもきちんと嫁さんのとこにいておやりよ。」

『…本当かね、それは。』

山姥の婆さんに出産の手伝いをしてもらいつつ生まれたのは元気な男の子だった。
娘も捨てがたかったが息子も悪くない。というか遠慮がいらないという面、でかした、とも思う。
我が子を婆さんに食われないかと心配しつつも俺は言われた通り、冬花のそばに座った。

「…綴琉、あなたにそっくりで可愛かった。
私たちの息子。普通男の子って母親に似るはずなんだけど…少しさみしいかな。」


『…心はお前に似るさ。
綺麗な、心を持つーー強い男になる。
そしておまえを護れる男にするんだ』

「…まー、心まで綴琉に似ちゃったら本当に綴琉が一人増えちゃうもの。
それはちょっとねえ…」

『…お前なぁ…』


「冗談、愛してるよ。ー綴琉」


彼女が微笑み俺に口付けをする。
…こんな未来、誰が予想できただろうか。
妖がこんなに幸せになってもいいのか。
そんな不安すら抱くほど胸は幸せでいっぱいで苦しかった。
名を、星夜と名づけた俺たちの息子は、山の仲間に見守れなれながら順調に成長していった。
冬花が人間で言う三〇になる頃、そして出会って一五年、星夜が生まれて一二年目の冬。
少し長期の仕事だと冬花が家を離れたこともあったがさして気にしなかった。
そして再び、冬花が子を授かった。
その時からだ、冬花の様子がおかしかったのは。
どうしたのか、何があったのかと聞いても冬花は頑なに口を開こうとしなかった。