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【たった一言「愛しているよ」と何度でも囁こう。】

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『…ぐっ…!!』


ふと帰ろうとした時だった。
バチィっと体中電流が走ったかのような痛みに襲われ、目を見開く。
淡い光の紐で体を締め付けられる。痛いってもんではない。
身体が焼き切れられそうだ。
ふと目線を下げるとそこには陰陽術が施されていた。
しかもこれは…冬花が習得するのに一番苦労してたものだった。
…先程の男を見縊っていた…。才能がそこそこあったらしい。
奴も腐っても陰陽師だったかと舌打ちをした。

そして動けない俺のことなど知ったことではないであろう、陰陽師達が直ぐに駆けつけてきた。


「貴様か!!冬花様をたぶらかし、次期当主を殺害したのは!!!」

『…人間は、…おしゃべりが好きなもんだなぁ…。
お前たちに興味はない、恨みもない、殺す気もない。
だから退け、命が惜しいだろ』


「ふ、何をたわけたことを!」

「そのままでどうしようというのだ!」

「粋がるのも大概にしたほうがいいぞ、妖め!」

『…お前らを呪って死ぬくらいは出来る』


「その隙すら与えたりなどせぬわ!」

周りの陰陽師が筆頭らしき男に続いて喚く。
そしてその男の合図でドッ!と音と共に痛みが走った。
刀が8方向から俺の体を貫いたのだ。
身体に、痛みが走る。そして痛みは徐々に熱へ。
その感触に目を細めた。
ああ、温かい、俺はこのまま死ぬのだろうか。
だがそれも悪くはない、もう十分に生きただろう、
ひと時の夢とは言え、息子と、この世で一番愛した女性とーーーー過ごせた。
それだけで…ーーー。

きっと、この痛みは俺へのバツだ。
冬花を幸せにできなかった罰。
護れなかった罰。

そう目を伏せようとした瞬間、あたりがざわめき始めた。
それに目を開けると俺は、息をすることを忘れた。
だってそこには…ーーー

刀の一本を俺を抱きしめることで受け止めていた冬花がいた。
お前が死んだら子供はどうするんだ。
子供も死ぬんだろう、子供に罪はないのに…
それでも駆け抜けてきたということは…

冬花、お前はーーーー俺の為に全てを諦め捨てたというのか。
例え、ひとつの命を、奪っても。犠牲にしても俺の価値は高いというのか。
それができる存在を俺は儚く感じつつも、尊敬をした。
冬花、お前は…ーーやっぱり強い女だと、思うよ。

『…あ…とう、か…』

「…ごめんね、私じゃあ盾にもなれなかったかな…」

『……馬鹿…だな、』

「…あの人は、もともと死ぬつもりだった。そしてあなたを始末して私をここへ連れ戻す手筈だった。
だから、行かないでって言ったの。」

そっと彼女の背中に手を伸ばす。
俺は君の手を離したばかりか、言葉を信じることさえ聞くことさえできなくなっていた。
その結果が、これだ。
彼女は言葉を紡ぐ。
刺されているというのに言葉を紡ぎ続けるその姿、喋るなと制したくてもーーー
彼女の傷は助からないと、察したし、きっと彼女も察したと思う。
だったら苦しいけれど最後まで声を聴いていたい。
俺の完全な自己満足だが、許して欲しい。

『…、お前に護られたな…俺は』

「…ねえ、…綴琉。
星夜のこと、お願い。
それと綴琉…この名前は、絶対に…忘れない、でね…?
そして、それから…、もっと、生きて、もっと好きな人と生きて…欲しかった。
あとね…もう、いい。もう、私のために、いろ、い、ろ……我慢しないで、…いいよ。」

私は、この子と先に、逝きますと涙を流しながらも俺の背中に回された手の力は、ふっと抜けて動かなくなった。
こいつが最後に残した笑顔に涙が零れた。しかも、きちんと俺を縛り上げている術を解いていった。
そしてもう我慢しなくていいと。お前のために俺は確かにいろんなことを我慢したさ。
人を襲うこと、傷つけること、妖としての全てを我慢したけれど、そんな、お前が俺を縛っていたみたいな言い方されたらたまらなく辛い。そして自分の不甲斐なさに涙が出そうだ。
そして、きっと、冬花が庇ってくれなかったら俺は死んでいた。
息絶えた冬花を抱き上げて立ち上がる。
それに畏れたか刺さっていた刀は抜かれた。
血が吹き出るがそんなもの知ったことか。
俺は帰る、俺たちの家へ。


『…退け。手負いの獣は手ごわいぞ』

その為なら、俺は何にだってなれるだろう。
あの場所へ、息子の待っている場所へ帰れるんだったら俺は…ーーー修羅にもなれる。
畏れが自然と吹き出る、退け、と命じつつ道を開ける陰陽師達の間をすり抜けて俺はその場所を去った。

山に帰ると妖達はざわめき始める。
心配の声をかける者にも返事など、出来ない。
俺は思った。
きっと冬花を亡くした痛みも、時の流れで風化していくのだろうと。
…苦しいのは今だけだと。
そう言い聞かせることしか、俺は己を癒すことを知らなかった。