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【たった一言「愛しているよ」と何度でも囁こう。】

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「親父…?すげぇ怪我…って、か、あ…さん?」

『…星夜。すまない。』


俺と冬花の帰りを待っていたのだろう、星夜が駆け寄ってくる。
俺の怪我を見てすぐに腕の中の彼女が生きていないことを悟った。
俺は星夜に謝ることしかできなかった。
自分に余裕がないからだろう、本当ならば親としてもっと言葉を選ぶべきなんだ。
どんな理由があっても、そうするべきだった。


「…すまない、って何が?何に対しての謝罪?」

『…ーーー』

「何があったんだよ、なあ!!なんでんな怪我してっ…、」

『…星夜。お前は…父さんみたいになるなよ
大事なものは、絶対に手を離すな。』


俺は冬花を傍らにに寝かせて静かに言葉を紡ぐ。
どうか、もう二度とお前には辛い思いをして欲しくないから。
優しく、そして強く、生きて欲しい。
そうだ、冬花のような、心の持ち主になって欲しい。
強く、優しくーーーそんな男になって欲しい。


「…っ…、答えになってねえ!!
何があったかって聞いたんだ、俺は!!!
答えろ、クソ親父!!!ーーーん!?」

『……感情的になるな。
見るはずものも見えなくなる。
俺は、それで失敗した、母さんを護れなかった。
いやむしろ…俺が母さんに護られた。』

向けられたは殺意。
大声で俺に迫る星夜の口を手で覆う。
冷静に話をしたくてもこれでは出来ない。
少し手荒いだろうが許して欲しい。
気絶とか殴るよりはマシだろう。
それに事の全てを告げることは俺が許せなかった。
星夜が納得しないことは重々承知、それでも許せなかったんだ。

「…っ離せ!!、なん、だよ…なんでだよ!
ふざけんな!!それじゃあアンタが母さんを殺したようなもんじゃんか!!」

『…星夜…』

「…っ俺は絶対にアンタを許さねえ、この身が地獄の炎に焼かれようとアンタを決して許さねえ!!
どんな手を使っても俺はアンタを殺してやる!!」


パシッと手を振り払われては敵意丸出しの瞳を向けられた。
これは当たり前だ。そしてその目には涙が浮んでいるのをみて居た堪れなくなった。
ただ、星夜は半分は人間だ。
人間を嫌ってほしくはない、だから全てのことは言えない。
これも俺の自己満足だ。
俺の、不甲斐なさに、無力さにまだ小さな星夜を巻き込んでしまった。
そんな罪悪感と愛おしい女性を亡くした事実から生まれた罪悪感。
両方に挟まれて心が、壊れそうだ。
だけど、俺は親だから。
コイツの前で泣くわけにも行かない。
そしてようやく口を開く。

『…すまない、それでも俺は…お前のことを、お前と母さんのことを心から愛している、ずっと。』


「っ、う、あ…あああああああっ!!!」

その瞬間、星夜は崩れ落ちた。
星夜の涙を俺は黙って抱きしめることしかできなかった。
俺は自然と涙が出なかった。
俺に泣く資格が無いと思ったからか、それともーーー。
もう、流せる涙を流し尽くしたのか。

ーーーその瞬間、土砂降りの雨が俺たちを打ちのめすように降り始めた。
…これは、冬花の涙か。もしくは、星夜の涙か。
星夜はもっともっと冬花と一緒にいたかったろう、
冬花だって星夜の成長を見届けたかっただろう、
それを叶わなくさせたのは、間違いなく俺だった。
大事なものの手を、離れようとした手を、掴めなかったのは俺だ。
離したのは、冬花じゃなくて、俺だった。
あの時、冬花の制止を聞いていれば、違う未来があった。

俺は、あの男の子供を受け入れて愛せばよかったんだ。
冬花が俺から離れようとした瞬間手を絶対に離さないと抱きしめて二人して泣けば良かった。
たくさん泣いて、あとは星夜と笑えれば、そんな幸せな未来。

それを俺は感情的になってぶち壊したんだ。
なんて、最低なのだろう。

俺たちは山茶花の咲く中心に冬花を埋葬した。
冬花はこの花が好きだったから。

「ねえ、親父。
山茶花の花言葉、知ってる?」

『…いや…』

「…『困難に打ち克つ』『ひたむきさ』

”あなたは私の愛を退ける”」

『…はは、まるで最初っから…』

顔を手で覆ってから笑いを零した。
出会いを否定されていた気分になった。最初から。
でも果たして、俺がアイツの愛を退けたのか。
アイツが俺の愛を退けたのか。もう、考えるのも心が重くて無理で、放棄した。

「そして…『理想の恋』。
かあさん、よく言ってた。
父さんと出会えてよかった、俺が産まれてくれてよかった。
とっても幸せだって。きっと誰もが羨ましいって思う理想の家庭だって。」


『……ああ、…俺もだ、俺もだよ…。冬花…。俺も』

数ある中、で摘み取った花がお前でよかった。
そうただ一つの花。俺だけの、花。
俺もいつか、そちらへ行くからどうか待っていて欲しい。
溢れ出そうになる涙を必死に押さえつけた。
そして降りしきる雨の中、俺たちは気が済むまで、そこに立っていた。



その日は、冬花が昨晩作った手料理の残りを星夜として食べた。
もちろん濡れたままでは星夜が風邪をひくので着替えさせたが。
最後の、手料理。
これを食べ終わったら俺は妖として生き直そうと決めた。
星夜は俺の言葉を否定はしなかった。

『少し、塩っぱいなぁ…』

汁物をを啜って潤んだ瞳を星夜に見せぬように俯いて笑みを浮かべる。
それを星夜は何も言わなかった。
ただわかってることは、俺と星夜は別々の道を歩むということだけだ。
俺は、山に残る。そして畏を高めることにした。
星夜は山を出て色々なものを見る旅に出ると言った。
まあ可愛い子には旅をさせよとも言うし反対はしなかった。

『…いつでも帰って来い。』

「…ありがとう」

星夜に今できる限りの笑みを浮かべて言葉を口にする。
星夜も感謝の言葉を俺に向けたが、俺は…星夜はきっとここには戻ってこない。
そう思ったが決して口にはしない。ただ、親子の最後の夜を、静かに過ごした。


『……じゃあな、元気でやれよ。
お前は、優しい子だ、だから…もっともっと強くなれ。
俺より早く死ぬなよ、』

「…はは、そりゃどうかな。
俺は半分人間だし親父みてぇに長寿じゃねぇよ、きっと。」


『…それでもだ、俺より早く死ぬな。
…死のうとしたら三途の川まで追いかけてぶん殴って引きずり戻してやる』

「それは怖ぇ。
わかったよ、親父が死ぬまで長生きしてやるさ。
じゃあな、親父。」


『…ああ。達者でな、星夜。』


その日は、朝日がとても綺麗に輝いていた。
俺は息子である星夜の背中を見送った。
小さくなっても見えなくなっても、ずっと見送り続け、一日はそこでずっと立ち尽くしていた。
妖が神に縋るのもおかしいかも知れない。
ただ、最愛の息子が無事に天寿を全うしてくれる事を祈った。
もちろん、愛おしい奴と共に生きて、の話だが。

その日の夜は、綺麗な満月で目を細めた。

『…愛してる、…冬花』

ただぽつりと、そう呟いた。